【完結】夕凪のピボット

那月 結音

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Episode5:花火の下で

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 会場に近づくと、ひとりの女性スタッフが指定席まで案内してくれた。
 学生のアルバイトだろうか。瑛茉とさほど年齢が変わらないように見えた。
 たどたどしく、されど懸命に英語で挨拶をしてくれた彼女に、日本語で大丈夫だと伝えれば、ほっとしたような表情を浮かべていた。
 しだいに空は濃紺に落ち着き、海との境界が曖昧になっていく。
 崇弥から聞いていたとおり、指定席は打ち上げ台の真正面に設置されていた。打ち上げ場所を一望できる桟敷席。ここから見上げる花火は、きっと格別だろう。
「ごめん、瑛茉ちゃん。少しのあいだひとりにしちゃうけど、ここで待っててくれる?」
 眉を下げ、申し訳なさそうにこう言った崇弥に対し、笑顔で頷く。打ち上げ時間ぎりぎりまで、他の協賛会社の面々に挨拶をして回るらしい。席を離れて数歩。いかにも重役らしい男性から、彼はさっそく話しかけられていた。
 つくづく実感する。彼は、大企業の副社長で、有望な跡取りなのだと。
 なんだか不思議だ。こうして、当たり前のように彼と一緒にいられることが。
 彼が、自分なんかを好きでいてくれることが。
「……」
 あの日以来、瑛茉はずっと自分の気持ちと向き合ってきた。崇弥に対する〝好き〟の正体を、ずっとずっと自問してきた。
 年上の崇弥のことを、頼りにして慕っているだけなのでは……そう考え、バイト先の店長で、崇弥の親友でもある、月尾に対する〝好き〟と比べてみたりもした。
 ——ふたりに対する〝好き〟は、同じじゃなかった。
 崇弥と過ごす時間は心地いい。崇弥が自分の作った料理を美味しそうに食べてくれると嬉しい。
 崇弥の笑顔を見ると、胸がきゅっとなる。
「Could this be it……?(恋、なのかな……?)」
 挨拶を終え、階段を上がってくる崇弥と目が合った。片目を瞑って「ごめんね」と無声で口を動かすそのしぐさに、瑛茉はかぶりを振って微笑んだ。
 刹那。
 ひゅんっと、ひと筋の光が夜空に駆け上がった。振り仰いだ崇弥を、巨大な牡丹花火が明るく照らす。
 赤、青、黄、緑——夜空を埋め尽くす、色とりどりの大輪の花。
 その光と影に映し出された彼の姿は、息を呑むほど美しかった。
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