50 / 68
Episode8:夕凪のピボット
⑧
しおりを挟む
宵闇迫る濃藍色の海岸線を、崇弥とふたり、手を繋いで歩く。
紺碧の海面は刻一刻と深みを増し、遠くで灯る漁火は幻想的な光を放っていた。
そっと手元に視線を落とす。触れ合った部分から伝わるぬくもりに、瑛茉はようやく心が落ち着いていくのを感じた。
とはいえ、ここで湧き上がる疑問がひとつ。
「……崇弥さん」
「なに?」
「どうして、わたしがこの浜辺にいるって、わかったんですか?」
彼は、いかにして、見知らぬ土地で自分を探し出してくれたのか。
その返答は、瑛茉の予想をはるかに超えるものだった。
「瑛茉ちゃんのおじいさんが教えてくれたんだ。この時間なら、たぶんこの場所で海を見てるだろうって」
「えっ? 祖父に会ったんですか?」
驚きのあまり、ついその場で立ち止まってしまった。瑛茉のつぶらな瞳が、さらに丸くなる。
まさかふたりが直接会話をしていただなんて、夢にも思わなかった。
「島に着いて瑛茉ちゃんのこと尋ね歩いてたら、診療所のお孫さんだって教えてもらって。……急いで診療所に行ったら、ちょうどおじいさんに会えたんだ」
島民の警戒心を解くために不本意ながらも九条の名前を出したが、それが功を奏したのか、すぐに有益な情報に繋がった。狭い島の中でハーフの瑛茉は幼い頃から注目の的だったらしく、〝佐伯先生のとこの別嬪さん〟と皆が口を揃えて教えてくれた。
フェリー乗り場からタクシーを利用して診療所へ。すると、庭先で、診療時間を終えたばかりの祖父に遭遇した。
祖父は、直感的に崇弥が〝崇弥〟だとわかったようで、驚きながらも快く瑛茉の居場所を教えてくれた。
「小さい頃、夕方ここでずっと海を眺めてたって、おじいさん言ってた。お父さんが迎えに行くまでずっとって」
繋いだ手を小さく揺らしながら、崇弥が語る。
この仕草から、崇弥も同じように安堵しているということが伝わり、瑛茉はなんだか嬉しくなった。
寄せては返す波音が、心地よく耳に響く。そういえば、〝夕凪〟という日本語を教えてくれたのは父だったなと、ふと思い出したりした。
夜の帳がうっすらと垂れ下がり、空との境界が曖昧に溶け合った水平線。
その彼方を愛おしそうに見つめながら、崇弥が優しくこう呟いた。
「ここが、君の生まれた場所なんだね」
紺碧の海面は刻一刻と深みを増し、遠くで灯る漁火は幻想的な光を放っていた。
そっと手元に視線を落とす。触れ合った部分から伝わるぬくもりに、瑛茉はようやく心が落ち着いていくのを感じた。
とはいえ、ここで湧き上がる疑問がひとつ。
「……崇弥さん」
「なに?」
「どうして、わたしがこの浜辺にいるって、わかったんですか?」
彼は、いかにして、見知らぬ土地で自分を探し出してくれたのか。
その返答は、瑛茉の予想をはるかに超えるものだった。
「瑛茉ちゃんのおじいさんが教えてくれたんだ。この時間なら、たぶんこの場所で海を見てるだろうって」
「えっ? 祖父に会ったんですか?」
驚きのあまり、ついその場で立ち止まってしまった。瑛茉のつぶらな瞳が、さらに丸くなる。
まさかふたりが直接会話をしていただなんて、夢にも思わなかった。
「島に着いて瑛茉ちゃんのこと尋ね歩いてたら、診療所のお孫さんだって教えてもらって。……急いで診療所に行ったら、ちょうどおじいさんに会えたんだ」
島民の警戒心を解くために不本意ながらも九条の名前を出したが、それが功を奏したのか、すぐに有益な情報に繋がった。狭い島の中でハーフの瑛茉は幼い頃から注目の的だったらしく、〝佐伯先生のとこの別嬪さん〟と皆が口を揃えて教えてくれた。
フェリー乗り場からタクシーを利用して診療所へ。すると、庭先で、診療時間を終えたばかりの祖父に遭遇した。
祖父は、直感的に崇弥が〝崇弥〟だとわかったようで、驚きながらも快く瑛茉の居場所を教えてくれた。
「小さい頃、夕方ここでずっと海を眺めてたって、おじいさん言ってた。お父さんが迎えに行くまでずっとって」
繋いだ手を小さく揺らしながら、崇弥が語る。
この仕草から、崇弥も同じように安堵しているということが伝わり、瑛茉はなんだか嬉しくなった。
寄せては返す波音が、心地よく耳に響く。そういえば、〝夕凪〟という日本語を教えてくれたのは父だったなと、ふと思い出したりした。
夜の帳がうっすらと垂れ下がり、空との境界が曖昧に溶け合った水平線。
その彼方を愛おしそうに見つめながら、崇弥が優しくこう呟いた。
「ここが、君の生まれた場所なんだね」
0
あなたにおすすめの小説
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
恋した悪役令嬢は余命一年でした
葉方萌生
恋愛
イーギス国で暮らすハーマス公爵は、出来の良い2歳年下の弟に劣等感を抱きつつ、王位継承者として日々勉学に励んでいる。
そんな彼の元に突如現れたブロンズ色の髪の毛をしたルミ。彼女は隣国で悪役令嬢として名を馳せていたのだが、どうも噂に聞く彼女とは様子が違っていて……!?
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる