初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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ep.1-6

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「聖…」

 唇を淡く吸われ、濃密な花蜜の香りが僕を包んで、は、と意識を戻す。目が合うと、彼はとろり、と微笑み、かわいい、と囁いて、もう一度キスをした。

「んう…」

 彼の腕の中で、身じろぎ肩をすくめる。その間に、淡く抽挿が再開される。とちゅ、とちゅ、と甘い疼きを生み出す柔らかな挿入は、何度も達している身体が焼き切れるような、重怠いような感覚を生む。厚い胸板に手を添えると、鎖骨のくぼみや胸の柔らかな筋肉が、目の前に彼がいるのだとありありと確認させて、胸が高鳴る。歯列を舐められてしまうと、息をするのに口を開けてしまう。誘い込まれた彼の舌は、僕の舌に絡みついて、表面を撫でたり差し込んで舌根を舐めつくそうとしたり縦横無尽だ。苦しくて、彼の厚い舌を甘く噛むと、じゅ、と強く舌が吸われる。

「ぁ…、あ…」

 びりびりと身体が渦巻いて、小刻みに震えることしかできなくなってしまう。彼は、とろけた僕を見下ろすと、嬉しそうに頬を緩めて、軽くキスをして身体を起した。

(おわ、っちゃう…)

 身体はだるさを訴えるのに、終わろうとしている彼に、寂しさを感じてしまう。いかないで、とつい手を伸ばしたくなる。けれど、それは僕の杞憂でしかなかった。身体を起した彼は、僕の両腿を擦り合わせるように一つにまとめると、それを抱きしめて、腰を動かした。膝裏に何度も淡く吸い付きながら、前後にゆさぶられ、ナカの弱いところを揉みこむように擦りこまれていく。

「も、だめっ、さ、くう、んぁ、あっ…」

 ふくらはぎに、彼の立派な犬歯がかすめるように淡く立てられると、全身が粟立つ。足首のくぼみを丁寧に何度も舐められて、吸われると、膝を開きたくなるのに強く抱きしめられてそれも叶わなかった。余計に内腿が合わさると期待に勃ちあがったままの自身が、彼の動きに合わせて、ぷるんぷるんと透明な雫を小さく飛ばしながら跳ねていた。

「さ、ぁんっ、んっ、あ、さくっ、だめ、も、あぁっ」

 ぬる、という感触と共に視線を向けると、彼が僕の足の裏を舐めていた。思わず凝視していると、彼はうっとりと青の瞳を潤ませ細めながら、僕の親指を口に含んだ。

「やっ! だめっ、きたなっ、あ、あ…っ!」

 じゅ、と強く吸われ、舌先が爪の淵をねっとりと舐めると、水かきを柔らかく熱い舌でぬろぬろと味わうように舐めつくされてしまう。羞恥に全身が赤く染まり、涙が思わずこぼれてしまう。やめてほしいのに、腹の奥が震えて、ナカが強く収縮する。身体が悦んでいることを、つながっている彼には丸わかりで、赤くつやめく唇と綻ばせながら、一本ずつ丁寧に舐められてしまう。
 誰にも触れられた事のないそこを、彼の唇が、舌が、なぞっていくと羞恥と、背徳感と、感じ得ない快感が爪先から全身を巡り、頭を痺れさせた。その間にも、僕の弱いナカはぐずぐずに犯されていて、さらに奥へと彼が挿入されていく。

「や、やだっ、さく、あ、やぁっ!」
「聖、気持ち、いいか…?」

 やめて、と首を振りたいのに、僕は答えにつまってしまって、枕に顔を倒して押し付けながら、うなずいてしまった。シーツに必死にしがみついて、彼から与えられる未知なる快感に翻弄され続けた。ぎしぎし、と彼の激しい動きに合わせながらベッドは鳴き、僕からも鼻から抜ける声しか出なくなる。

「あ、あ、っん、あ、さく、さ、くう、あ、ぅんっ」

 しこりを撫でるとすぐに奥に戻っていって、くにゅ、と亀頭でひねりつぶして強い電流を送り込んだら、またしこりを撫でに戻っていく。ずっと身体の中で熱が暴発しては、より高まっていく。半顔を押し付けた枕からは、彼の甘い匂いが漂う。くら、と眩暈がしてしまいそうで、瞼をつむると、より濃密にそれを感じて、全身に送られる彼からの愛情に酩酊としてしまう。

「聖、聖…っ、俺を、こんなにさせるのは、聖だけだ…っ」

 足の裏にキスをしながら、彼は変わらずに甘い言葉を止めない。腿裏の薄い皮一枚隔てて、彼の胸や腹の筋肉が触れ合う。自分のものとは明らかに違う体つきを味わわされて、さらに後ろがきつく締まってしまう。

「だ、だめっ、また、あん、う、あっ…でちゃ、も、こわれちゃ、っ」

 全身がびりびり、と痺れ始めて、絶頂が近いことを知らせてくれる。彼はさらにピストンの速度をあげて、僕を追い立てる。爪先が、ぴん、と伸びて、ぴゅる、と少量の精子が腹に飛んだ。けれど、彼は腰を止めてくれなくて、僕が達したことに気づいていないのかもしれなかった。背中を反らせながら、目の前がちかちか、と白く光った。

「や! らめっ、らめ、いま、いっちゃ、ああっ、あっ、とま、ってぇ、んああっ」
「聖、聖…っ! 愛してる…っ」

 ぐぽ、とさらなる最奥を開かれた音が内部を伝わって耳の奥で響くと、びゅるる、と勢いよく彼の熱い精子が送り込まれてきた。息ができなくて、舌を突き出したまま、身体がずっと、びくん、びくん、と震えていた。湿って、甘やかな香りを漂わせる身体が僕を抱きしめると、舌を吸って、彼の滑った甘い口内へと誘い込んだ。白む世界で、彼の瞳がつやり、と光って、赤い眦が細められているのが見えた。

「聖、愛してる…」

 かすれた声で小さく囁いて、彼は唇を吸った。










 瞼がか細く震えて、視界を開けると、目の前に何かが、温かいものがあった。布団をかけているが、肌寒くて、それに擦り寄ると、ぎゅう、と抱きしめられた。ふわりと甘い匂いがして、つい頬が緩む。

(あれ…僕…)

 次第に意識が浮上してきて、首をやや上げると、精悍な顔がそこにあって、何度も恋焦がれた相手がいた。は、と身体を起そうとすると、ところどころが軋んで動けなくなってしまう。

「身体、つらいか…?」

 寝起きのかすれ声の彼が、僕の頬を優しく撫でた。その体温も、声も、労わるような手つきも、すべてが昨夜のことを現実だと思い知らせるようなもので、みるみる顔が熱くなる。

「さ、く…」

 彼よりもかすれてひどい声に驚いて喉を撫でると、彼は、顔をさらに緩めて、僕の唇に唇を重ねた。近くで僕をのぞくマリンブルーの輝きをもつ瞳は、ひどく甘やかに僕を映していた。

「今、水を持ってくるから」

 彼が僕の首の下から腕を抜いて起き上がろうとした。す、と冷気が二人の間に割り込んできて、それがなんだか僕をむ、とさせた。すぐに彼の腕を捕まえた。

「もう少し、こうしてたい…」

 潤んだ瞳で見上げると、彼は少し目を見開いてから、眉を寄せて、布団をかけなおし、身体を摺り寄せた。そして、僕に覆いかぶさるようにしてキスをした。

「ん…」

 明け方まで交わっていて、たくさんキスをしてもらった唇は、じぃん、と淡く痺れを持っていた。それでも、彼から与えられたものならなんでも心地よくて、僕も彼の唇を味わうように食んだ。気づくと、彼の舌が唇を舐めて、嬉しくて僕も絡める。顎裏をくすぐられると、一気に鼻から声が漏れて内腿を擦り合わせてしまう。

「聖…」
「さ、ん、ぅ…」

 ちゅ、ちゅ、と吸い合いながら、お互いの身体に手を這わす。彼の立派な背中は、筋肉の張りが僕を当惑させる。大きな手のひらが首筋から、胸元に降りて、すでに勃ち上がっている尖りの周囲を優しく回りながら撫でる。ふく…、と先端が早く触れてほしくて主張していて、僕の身体は勝手に彼の手にこすりつけようと、くねってしまった。

「んう、ん、ぁ…」

 彼の第一関節に、一瞬こすれると、首筋に電流が走り、大きく口を開けてしまう。つ、と口端から互いの唾液がこぼれると、さらに僕の脳と溶かしていった。

「聖が、足りない…」

 彼が唇に吐息を当てながら、そう囁くと、む、と強い香りを感じて、嬉しくて頬が緩んでしまう。小さくうなずくと、彼は僕の上に跨って、片足を持ち上げた。その際に、とろ、と後孔から溢れ出る感覚があって、つい声を漏らしてしまう。それを押し戻すように、彼の長い指が、くちゅり、と挿入される。くすりと笑った彼が耳元に唇を寄せた。

「ナカ、とろとろだな…」
「あ、やぁ…っ」

 耳朶を強く吸われると、生々しい音が脳に直接伝わる。ぞく、と背中を反らして一人、ベッドの上で跳ねてしまう。

「昨日、出来るだけ掻き出したんだが…」

 昨日と言っても、明け方なのだが、何度も達したせいで意識が朧気になった僕だったが、その中で断片的に彼が僕の身体を清めていてくれたことは覚えていた。
 それでも溢れるほど奥にそそがれたのかと思うと、情熱的な彼の愛の深さを感じて、さらにナカが締まり、こぷ、と彼の残滓が溢れ出た。排泄にも似たような感覚に肌が粟立ち、顔がさらに熱くなる。

「これなら、すぐ…はいる…?」

 僕の太腿を持ち上げる手に、そ、と指を絡めて、上目で尋ねる。瞳が交わると、ぎらり、と色を鈍くさせた彼が、裸の己を僕の割れ目に押し当てた。すでに滾り、熱くさせたそれは、簡単に僕のナカに挿入っていった。数時間前まで当たり前のように一つになっていたのに、また交われると身体は歓喜し、再び現れた彼を思い切り抱きしめて歓迎していた。その質量と熱に、僕は全身を細かく震わせて、強まる快感に支配されていった。

「ああ、かわいい聖…どうか、俺の傍から離れないでくれ…」
「ぁ、んぅ…ん、っ…」

 僕の前髪を流して、額を撫でながら、そ、とそこに口づけを落した。眉を下げて、さみしそうにそう囁くから、僕は彼の頬を何度も撫でてた。安心して、と思いを乗せて。僕よりも一回りも二回りも大きい身体の彼が、迷子の子どものように僕に縋る瞳で、懇願する様子が愛おしくて、胸が締め付けられた。

「僕には、さくだけ…、さくだけ、だよ…」

 ふふ、と微笑みかけると、彼はゆったりと腰を押し進めた。すっかりいいところを覚えられてしまった彼に、すぐに弱くなってしまう。手の甲で唇を押さえて、声を我慢する。しかし、すぐにその手は彼に捕まってしまう。

「もっと、もっとだ…聖のかわいい、俺だけの声…聞かせろ…」
「ん…あ、さ、くう…ん…っ、」

 恥ずかしいのに、顔を隠すことも彼の瞳からも逃れることが許されなかった。一つも見逃さないと言わんばかりに、彼は僕のすべてを暴き、見つめ、乱した。それに、心地よさを感じてしまう自分を僕は気づけず、とにかく落ち着かない身体を彼に必死に纏わりつかせるか、キスをせがむかしかできなかった。




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