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ep.5-2
話したいことがある、と言ったら、俺もだ、と彼は言い、大学の近くにある二人のアパートに一時帰宅をすることにした。
玄関の扉を開いて中に入る。彼が鍵を閉めている間に靴を脱いでいると、顎を大きな手のひらでつかまれて、べろり、と滑った舌で唇を舐められた。抗議しようと唇を開いた瞬間に、厚いそれが遠慮なく、口内をまさぐる。
「んぅ、っ、ん、ぁ、うっ…ん…」
瞳は深い青色をしていて、僕をじ、と見つめていた。その奥に、じりつく炎が見えて、身体の奥底が焦げ付いてしまいそうだった。
僕の身体を、僕以上に知りつくした彼は簡単に、いいところをたくさんいじめてくる。上あごの中心をわざと避けて歯の裏を丹念に舐められていて、物足りなさに喉奥が、ひくん、と反応してしまうのを見透かして、ねっとりと弱いそこをねぶられる。ぞわ、と足先から全身に鳥肌が立ち、快感に脳がぼやけていく。ぐいぐいと熱い身体が抱きしめて押し付けられてきたのを、押し返していた両手は、いつの間にか縋るように彼の胸元でシャツに皺をつくっていた。
「聖…」
熱い吐息と共に、かすれた声で名前を囁かれる。両手で耳を覆うように顔を固定されてしまう。口内で、ぐちゅりぐちゅり、といやらしい水音を立てて彼の舌が僕を弄んでいるのを、聴覚でも支配されて、混沌と何も考えられなくなってくる。ただ、彼の甘いフェロモンに揺蕩って、全てを任せてしまいたくなる。
「ぁ、んうっ…ん…」
毎日、しっかりと愛されて、すっかり感じ入るようになってしまった耳朶を指先でかすめるようになぞられる。爪先でかりかりと引っかかれるようにされると、昨夜もしつこく愛されたひと時を簡単に身体は思い出して、全身から汗がにじみ出る。ごり、と彼の滾りがスラックス越しに押し当てられて、目を見張る。
角度を変えながら、何度も唇を強く吸われて、じんじんと痺れてくる。それすら、甘美で身体から力が抜けていく。僕の身体を抱きしめて、リビングのソファに押し倒す。二人の部屋は、普通の1LDKだった。特別広くはないが、大学生の同棲にしてはやや広いかもしれない。それでも、玄関からリビングはすぐだし、リビングにはソファとローテーブル、テレビがあって、他の物を置くゆとりはない。引き戸があって、僕たちの寝室がある。そこはダブルベッドを置くだけていっぱいだった。
僕が荒い息を整えている間に、彼は僕の靴を脱がせてくれていた。それから、舌なめずりをすると、今日羽織っていた薄手のジャケットを脱ぎ捨てて僕に覆いかぶさった。下唇をぢゅ、と吸う彼の顔を手で包む。
「恥ずかしいから、大学では、やめて…」
「断る」
「んっ…」
はっきりと言った彼は、また長い舌で僕の舌根を舐めて、舌をしゃぶりつくす。
「聖は、俺の妻だと大学中、いや、全国に広めたい」
「なっ、ぁ、ん…」
何それ、と声をあげたいのに、くちゅ、くちゅ、と口内を余すところなく舐められてしまう。指先がびりびりと痺れて、か細く震える。それでも、彼の地肌に差し込んで、弱々しくも彼の硬い髪の毛を握る。左手を彼が包んで、口元に持ってくると何度も指先に吸い付く。それから、薬指を舐めて、二つのリングにキスを落とす。
「ぁ…、んん…」
ぞぞ、と彼の舌に合わせて全身に電流が走って、声が漏れてしまう。それを押さえたくて、もう片方の手で口元を押さえた。今度は、その手の甲に彼はキスを落とした。それから、甘やかにかすれた声で、俺にだけその可愛い声をもっと聞かせてくれ、と囁いた。
「可愛い、聖…。誰にも見せたくないんだ、本当は…」
言葉の間に何度も唇を吸われて、その度に僕の思考回路は焼き切れていく。
「僕、も…」
「ずっと、ここに二人でいたい…」
叶うなら、そうしたい。
アメリカのワンルームがそうだったように、今の僕たちの愛の巣はここなのだ。
心安らいで、大好きな人がずっと隣にいてくれる。たくさん好きだと言えるし、言ってもらえる。キスがしたいと思えば、するし、たくさんお返しももらえる。引っ越した当初に買ったルームフレグランスはお互いのフェロモンを消してしまうため、すぐに捨ててしまった。そのくらい、甘やかな香り立つこの空間に、愛する彼とずっと二人で睦み合っていたい。
でも、そうもしていられない。僕たちは、社会の一員なのだから。
「だめ、だよ…、大学、いかないと…」
する、とシャツの中に入ってきた彼のかさついた手を服の上から捕まえる。しかし、もぞ、とその指先は僕の弱い、尖りを一撫でした。
「ぁんっ…も、だ、めぇ…」
びくん、と身体が跳ねると、背中が反って胸を突き出す形になってしまう。それを眦を下げて彼は嬉しそうに見つめ、つまんだり、しこりをもったそれを指先で転がしたりする。
「聖、愛してる…」
「んん…っ」
彼が僕の足を持ち上げて、足の間に身体を沈め、硬いそれを、後ろに押し付けた。うっとりと甘く囁いて、キスをする。彼の指先は確実に僕を高めていく。靄がかる頭は、早く挿入してほしいとすら思い始めていた。
「ら、め…らめ…あ、ぁ…っ、話…話、するってぇ」
残った少ない理性をかき集めて、なぜここに昼間から帰ってきたのかを思い出す。話をするために帰ってきたんだ。
「ん? そうだったか…?」
そんなことあとでいいだろう?、と彼は僕の首筋に吸い付いて、僕と同じ指輪のついた片手をベルトにかけた。かちゃ、とバックルの音がして、僕はその手を両手でつかんだ。彼は、眉間に皺を寄せて僕を見上げた。けれど、責められるいわれはない。
「マミ先輩っ」
咄嗟に口から出たのはその言葉だった。
あの、後ろの席の噂好きな女の子たちが囁いていた言葉。彼は、僕の放った言葉に皺を深くして、首をかしげてから、また首筋に吸い付いた。
「マミ先輩って、誰?!」
今度は彼の顔を両手でつかんで持ち上げる。僕の非力では彼を動かすのは難しいから、彼が僕の意思を尊重して合わせてくれているのだと思う。
「誰だ、そいつ?」
彼は、顔を歪ませて言った。まるで、僕たちの時間に他人が割り込んできたのを怒っているように不機嫌だった。
「嘘、知ってるでしょ?」
「あ? 知らない」
もういいか? と言わんばかりに煩わしそうに彼は、僕の手に指をかけた。けれど、それでは僕が納得できなかった。
「みんなが噂してた…さくが、マミ先輩って人と…」
そんなわけない、とわかっているのに、自分で言葉にしようとすると、どうしても苦しくて、涙が込み上げてきた。ぐう、と喉奥を絞って我慢しようとするのに、どうしてもその雫は溢れようと盛り上がっていく。
さすがの彼も、僕の様子に気づいて、話を聞こうという姿勢になってくれた。優しく、頬を撫でられると、つ、と涙が溢れた。必死に唇を噛んで我慢したのに。
「聖、本当に話が見えない…。誰だ、そいつは…」
涙が零れないように、眉を寄せて力みながら睨むように視線をあげると、彼は心底困ったように眉を垂らしていた。
「本当に、知らない、の…?」
「わからない…」
聖の関係者か? と、まったく的外れなことを彼を真剣につぶやいていた。
「違うっ、この前の、飲み会で…」
泥酔した彼からまとわりつく嫌らしい、べったりとした甘さのにおいを思い出す。僕の言葉の続きを促すように、溢れる涙を彼が何度も払ってくれる。
「え、っちした、って…」
「は? 俺が、名前もわからんやつと?」
彼は片眉を上げて、怪訝そうに言い放った。それにうなずくと、彼はしばらく黙ったのち、くす、と小さく笑った。
「な、で、笑うの…」
ぐす、と鼻をすする。
今更、こんなことで自分が傷つくなんて思いもしなかった。けれど、彼は頬を染めて、瞳を揺らしながら僕を見つめた。
「それで、嫉妬、してくれたのか?」
「え、んぅ…」
柔らかい唇が、しっとりと吸い付いた。ちゅ、と可愛い音を立てて離れると、長い睫毛がぶつかりそうな場所で開いて、彼が目を細めていた。そこには、僕しか映っていない。
「だって、あの日…約束した時間よりも、遅かった…」
すぐ目の前に彼がいて、小さく不満をもらすと、じ、と彼は僕を見つめて、さらに頬を緩めた。
「どうしても教授が離してくれなくてな」
ごめん、と言って、彼はもう一度唇に吸い付いた。じわ、と指先から身体に熱が溢れいく。
「においも、臭かった…」
「ああ、臭かった…隣にいるだけでにおいがうつっただけだ…」
不安にさせてごめんな、と彼は囁いて角度を変えて、唇をあわせた。
「もっと、ちゃんと…意識、して…」
彼は、本当によくモテる。
ずっと近くにいたからわかっていたけれど、大学に入って、さらにそれを感じる。
大学の入口に彼を待つ女の子たちがいたこともあった。構内では、常に誰かが彼の話をしていた。
「ああ、気を付ける」
彼が頬を擦り寄せて抱きしめてくれた。温かくて、花蜜の香りが漂って、全身が歓喜に震えていた。ぎゅう、と僕も抱き寄せて、彼の耳裏に鼻を擦り付けるようにして香りを全身に巡らせた。内腿で彼の脇腹を挟むように抱き着くと、じわ、と後ろが滲むような感覚がした。彼の名前を囁いて甘えようとした時に、今度は彼が硬い声を発した。
「それで、聖はどうなんだ?」
何のことかわからずにいると、彼が僕の顔を覗き込んだ。何の色も持たない冷たい笑みを貼り付けて、僕を見下ろした。
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