初恋と花蜜マゼンダ

麻田

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ep.10-5

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 僕の背中とシーツの間に腕が差し込まれて、筋肉でしっかりと締まった腕に抱き起される。ぐるん、と身体が回ると、今度は彼がシーツに背中をつけていて、僕が汗ばんだ熱い身体の上に乗る形になっていた。手を置くと、柔らかく締まった胸板があって、心臓がさらに早鐘を鳴らしてしまう。

「あ、ぅ…さ、く…?」

 じゅ、と舌を強く吸われて、快感に震えていると、肩を押されて僕は身体を起す形になった。くぷ、とナカの入口が彼に強く吸い付いてこすれるのがわかって、前から少しだけ何かが零れた。背筋を振るわせて、閉じてしまった瞼を開けると、彼がにたり、と口角をあげて笑っていた。それから、大きな手のひらが僕の腰に宛がわれて、彼をまたぐ形で挿入されている僕の腰を前後にゆすぶった。

「んう、ん、あっ、これ、ふか、ぁ…あんぅ…あっ」

 彼が着火させた快楽通りに、僕の腰は勝手に前後に揺らめきだしてしまう。動く度に、後ろから卑猥な音が響いて、ナカで反応してしまう。彼はその指先を腰から脇腹をなぞり、パーカーの中へと差し込む。肋骨を遊んで、胸先へとたどり着く。くるくると、薄い皮膚周りを撫でられると、早く触ってほしくて、内腿が震えて、動けなくなってしまう。きれいに割れた腹筋に手をついて、びくん、びくん、と跳ねる身体とかけめぐる快感を押し殺すように堪える。その間も、こしょこしょとくすぐられて、時たま、指先がうっすらと乳首の頭をかすめる。

「んうっ、あ、んぅ…さ、くう…」

 触ってほしい。

 強請るように上目で彼を見つめると、眉を吊り上げて寄せている彼が口角をあげて見つめていた。鈍く眼光が僕を照らしていて、獣のような彼の色香に、身体の奥底が焦げついてしまう。名残惜しさを感じながら、もっとはっきりとしたものが欲しくて、パーカーの裾に手をかける。それから、勝手に腰が前後に揺れながら、パーカーを頭から抜いた。冷気が肌を撫でるが、それすらも肌が粟立って快感に似たものとしてとらえてしまう。ぱさ、とパーカーがベッドの上に落ちると、彼が身体を起して、素肌の僕とぴったりと肌を重ねて強く抱き合う。僕の首筋に彼の高い鼻梁がぶつかったと思うと、腕の中にある厚い身体が空気を吸い込んで膨れる。僕の匂いを嗅がれているのだと思うと、羞恥に全身が熱くなってしまう。それから、舐められ、吸われると腰が揺れてしまう。汗ばむほど熱い彼の身体から体温を分けてもらい、首筋から熱烈なフェロモンを送り込まれると、もう僕の理性はかすみ、遠くなっていってしまった。

「ぁ、ん、んん…さ、く…ぁ、う…も、と…もっとぉ…」
「聖…」

 奥がきゅう、きゅう、と強く疼き、それを彼のアルファで慰めてほしくて、腰をぐりぐりと押し当てるように擦りつける。しかし、僕のペニスが彼の硬い腹筋にこすれて、また表面的な快楽ばかりが得られ、空虚感に涙が溢れる。足りない。足りないそれを埋めようと、必死に腰を蠢かすけれど僕の力だけではどうしようもできなくて、ただ腰を乱暴にかくかくと振るしかなかった。顔をあげると、瞳孔を青く染めた彼の赤い眦があり、嬉しさと切なさに胸が締め付けられると、涙が一筋、頬を伝った。

「もっと、奥、奥、して…、あ、ん、さくの、で、奥、なでて…っ」
「…っ!」

 彼に強請るように口づけをしようとすると、顔を反らされた。寂しさに顔をしかめて涙していると、彼がベッドサイドに手を伸ばして何かを摘まんだのを認識した。ぱき、と音がして、白い錠剤が数粒取り出される。それを摘まんだ彼の手首を握りしめると、ようやく顔がこっちを向く。すかさず、唇に吸い付いて、舌で舐めるとそれだけで腰がうずいて、声が漏れてしまう。

「あ、あ…さくう…、何、して…? もっと、こっち…」

 腰をひねるように動かすと、ぐじゅ、と卑猥な音が後ろから響く。それに息をつめた彼は、その錠剤を口に含もうとした。放り込まれる前に、その手を両手でつかんで、首をかしげる。

「何、これ…?」
「っ…、抑制剤、飲まないと…、ぅ…っ」

(抑制剤…?)

 顔を赤く染めて、快感に眉をひそめて耐える彼は、艶やかだった。思わず涎が垂れ、ナカがくう、と彼を締め付けてしまう。頭があまり働かないけれど、それがなんだか嫌だということはわかった。

「や…やだぁ…、飲まないで…」

 彼の気が緩んだ一瞬がたまたま重なって、指先に掴まれた白い錠剤数粒を僕がはたき落として、床に小さく音を立てて落ちた。彼は、瞠目してから、またピルケースに手を伸ばした。それを急いで捕まえて、離れないように腕で抱きしめて、指先にキスをした。

「なんで、のむの…? さく、やなの…?」

 そんなのいらない。

(僕たち、番になるんだから…)

 それとも、何か困るようなことがあるのか…。
 不安が心をよぎると、顔に皺が寄って、ぐずぐずと涙と鼻水が出始めてしまう。

「きらい? さくは、僕のこと、やなの…?」
「そんなわけ、ないだろ…っ」

 気持ちはぐちゃぐちゃなのに、身体は彼の精をあびることしか考えていなくて、腰は揺らいで、ナカは収縮している。彼の腕に抱き着いて、指先を口に含んだり、側面を舐めたり、水かきを必死にしゃぶったりする。それだけ僕の身体は熱に犯されていくのに、心が追いついていかなくて、感情が混濁していく。彼が息を飲んで、僕の顔をつかみ、唇を覆った。強い舌使いで、口内を翻弄され、上顎奥の薄い皮膚を丹念に舐められると唾液が止まらなくて、視界も歪んでいく。前から、ぴゅ、と白濁が少量漏れ出でてた。
 たら、と唾液が口の端から零れるのを、彼の親指が拭き取る。また溢れた唾液を彼が吸い取ってくれる。虚ろな瞳のまま彼を見つめると、熱に犯されている顔つきで、瞳はまっすぐに僕を射抜いていた。

「優しくしたい。聖を、もう二度と傷つけたくないんだ…」

 名前を大切に囁かれて、彼がしっとりと唇を吸い合わせた。温かな甘やかな香りが僕を包み、脳が痺れて、僕はとろとろと吐精した。身体は直接的な刺激をもっと欲していたはずなのに、彼からの惜しみない愛の思いやりと、それが溢れる口づけと本能で訴えかける香りに全身が強い多幸感に襲われていた。

「あ…、ぅあ…、あ、あ…っ…」
「聖…」

 閉じられない唇を、彼は何度もゆったり吸い付いて、時に唾液を舐め、もう一度柔らかな唇を合わせた。それだけの、戯れのようなキスなのに、僕の身体は爪先が髪の毛一本一本まで愛され、熱を持ち、溶けてしまいそうだった。

(好き…、さく、好き…)

 彼のことしか考えられなかった。
 大好きで、ずっと一緒にいたくて、これからも僕だけの彼でいてほしい。
 離れていた時間も、僕の中には彼しかいなかった。彼のことばかり考えてしまう自分が、嫌になってしまうこともあった。
 だけど、今、こうして、彼から、全身で愛を訴えかけられて、しあわせに震え、涙することになるなんて、思いもしなかった。
 嬉しくて、しあわせで、彼が好きで、涙が止まらない。

 そう思えば思うほど、うなじが彼に見つけてほしくて、熱を増す。

「さ、う…」

 痺れているようで、動きの鈍い唇で彼を呼ぶ。音を立てないほど丁寧に吸い付いて離れた唇は、僕の言葉を待っていた。それから、汗と涙で張り付いた髪の毛を耳にかけるように、長い指先で優しく払う。それにすら、身体はぴくん、ぴくん、と跳ねてしまう。
 溶け切った瞳でなんとか彼を見つめると、僕のナカにいる彼の質量が増す。それによって、いいところに当たってしまう。





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