樹くんの甘い受難の日々

琉海

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第二章

64.転んでもタダでは起きない女、さゆり

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「樹、眉毛がすっごい八の字になってる」
「ぬぅ…」
「さゆりちゃん、ごめんね。樹の事を好き勝手言われて腹が立ってきつい事いったね。でも、俺が言った事は間違ってないと思うよ」
「……って」
「ん?」
「だって!悔しいんだもん!どうしても納得いかないんだもん!!!小鳥遊先輩にひとつでも敵わないって思えるものがあれば…」
「俺にとっては、さゆりちゃんよりも樹の方が好ましくて可愛いんだよ。こればっかりは好みの問題だからなぁ」
「そんなぁ…」

好みの問題と言われてしまえば、どうしようもない。さゆりちゃんは絶望的な顔をした。

「樹の性格も、容姿も、ちょっとビッチなところも、全部好ましいんだよ。どんな女の子よりも可愛くてたまらないんだよね。これって、理性ではどうにもならなくない?」
「……」
「だからさ、俺はさゆりちゃんとは付き合えない。他の人を探して幸せになって」
「先輩って、残酷ですね…」
「中途半端に優しくしたり気を持たせる方が残酷だと思うけど?」
「そうですけど…」
「この場を持って、お断りさせてもらうね。俺は樹に心底惚れてるから、さゆりちゃんがどれだけ待ってくれても何度気持ちを伝えてくれても無理」

以上!とでも言うようにスパッと言いきられて、とうとうさゆりちゃんが押し黙った。
俺は俺で2人に挟まれて居たたまれない。俺が何か言うのもおこがましいというか、俺がさゆりちゃんの立場だったら、何を言われても虚しいし悲しいから。

「はぁ~…分かりました。どう押しても無理だって事を心底実感しましたよ。
あーぁ。極上の彼氏欲しかったなぁ~。小鳥遊先輩が羨ましいです」
「うぅ…」
「あは。困ってる。小鳥遊先輩って素朴で純情でお人よしですよね。それは分かりました、うーーーん…まさか、雅樹先輩がこういう人がタイプだったなんて」
「こういう人がタイプっていうより、樹がそういうタイプだったってだけなんだよね」
「うわぁ。自分をフッた人間に容赦なく言いますね」
「俺の恋人を全世界に自慢したいからねー。俺はこういう人間だよ。ぜーんぜん、優しくない。さゆりちゃんはもっと優しい人を掴まえな」
「ざっくざく刺されまくってひん死です」
「さゆりちゃんなら大丈夫って思ってるから。これくらいでへこたれるタイプじゃないでしょ?」
「うぐぅ。まぁ、そうですけどぉ」

なんだろう。この2人、恋愛ではなく相性良さそう。お互いににエグいけど同類嫌悪とかにはならないというか。

「そうだ。これだけは確認させてほしいんだけど。さゆりちゃんさ、三条の坂下って知ってる?」
「坂下さん?知ってますよー。ご近所ですもん」
「へぇ…ところで、その坂下を焚き付けて樹にちょっかいかけたりとかしてない?」
「え。すっごい顔が怖いんですけど。いやいやいや!私、そんな事までしませんよ!そりゃちょっとは痛い目に遭っちゃえばいいとか思ったのは事実ですけど、実行はしてません。思うのは自由じゃないですか。
ただ、そういう事はしませんし、したいとも思いません。勝手にそんな目に遭うなら別にいいんですけどねー」
「ハハ。言うね」
「だって、本当ですもん。そっち系の寝覚めが悪い事はしたくないです」
「そう。その言葉、信じるよ?万が一、それが嘘だったら———容赦しないよ?」
「!!!!……こっわ。怖すぎて変な汗かいた。信じてください。絶対、してませんししません」
「うん。分かった」

ひぃぃぃ!俺、女子にこんな恐ろしい顔と態度取ってる雅樹初めてみた。チビりそう。
でもそれが、俺を思うが故っていうのがこそばゆい…怖いけど。

「た、小鳥遊先輩、なんか色々頑張ってくださいね!」
「う、うん…」

俺に対して怒ったり拗ねたり蔑んだり以外のさゆりちゃんの表情、初めて見た。気の毒そうな心配そうな、複雑な表情。言いたいことはなんとなく分かったから神妙に頷いておいた。

「おかげ様で、雅樹先輩への未練、きっぱりさっぱりすっぱり無くなりました!もう、盛大にノロけてもらって構いませんので!」
「ありがとう。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」

にっこりと雅樹が微笑んだ。

「あぁその笑顔!その笑顔の裏が今ならよく分かる!その笑顔に騙されたぁぁ!」
「裏って…俺は今でも女の子は可愛いと思うし、好きだよ?ただ、樹が別次元にいるだけで」
「さっそくノロけられた!!」
「さゆりちゃんになら、がっつりノロけられそう」
「うわ!酷い!けど、まぁ、いいですよ。……小鳥遊先輩も!好きなだけノロけてくれて構いませんのでっ!」
「う、うん?」
「もう、なんていうかここまできたら毒を食らわば皿までっていう気持ちになりましたっ!小鳥遊先輩、友達になってください」
「えぇっ。なんでそこでそうなるの?」
「実は、小鳥遊先輩の魔性を知りたいっていうのが本音です。だってー、あんなイケメン3人を侍らかせて、しかもその3人がベタ惚れの理由知りたいですもん。
雅樹先輩以上の極上のイケメンをゲットしたいですからっ!」
「ははは…女子って逞しい」
「待ってるだけじゃ、いい男はゲットできませんから!これからは女子もハントの時代ですよ!」
「見かけとのギャップがすごいよな。でも、さゆりちゃんの場合はそこが面白くて可愛くていいよ」

これまでの仮面を外したさゆりちゃんはキラキラしてるのに鼻息も荒く、拳を突き上げる仕草が面白いのに可愛くて、やっぱりこの子は可愛いなぁと改めて思った。笑ながらそう言うと、さゆりちゃんが妙な顔をしていた。

「どうしたの?」
「い、いえ。———な、なるほど。これは、うん」
「樹は可愛いでしょう?」
「悔しいですけど、その言葉に同意せざるを得ないですね。初めて魅力に気づきました」
「あげないよ」
「いりませんよ!そんな怖い事、しませんっ」
「ならいいけど」

にっこりと微笑んだ雅樹の微笑みが怖かった。
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