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聞き間違いだろうか?いや、そんなはずはない。確かに彼は王都に招待したい、と告げた。それも国の聖女として。

「あなたは聖女としての才能があると思うのです。ぜひ、王都に来ていただけませんか」

しばし、その言葉の意味を考える。
だけど、どう頑張ってほかの意味を考えてもそれはそれでしかなかった。
聖女として?王都に?私が!?

「本当に私なんですか?人違いとかでは...」

「いえ、それはありません。近くにいるだけでも、あなたの魔力量の多さが伝わってきますから。聖女に相応しいのはあなたなのです」

魔力量は本来、魔力計を使って測るのだが、彼はその人の持つ魔力量を見ただけで分かる、という特技を持っているらしい。
それは稀有な特技ではあったが、彼が私に興味を示すのには十分だったようだ。そして、私にはどうやらその魔力量が類を見ないほど多いそうな。
自身では分からなかったが、もしかしたら野菜や動物と会話が出来るのはそのおかげかもしれない。

そのことを彼に話したら、やけに驚いた顔をして。
彼は私の手を強く握った。

「やはり、あなたこそが聖女に相応しい!どうか、聖女の後継者になってはいただけませんか」

そして彼は言葉を続ける。

「たくさん、お菓子もあげますからね?」

と。
私の答えはもちろん「はい」であった。



その後、私は王都に来た。
親は働き手が少なくなるのを嫌って渋々としていたが、最終的には今後村を贔屓にすることを条件に快く歓送していた。つくづく思うが現金な奴である。

あの頃は今と違って聖女の後継者として、華々しく歓迎されたものだ。今や、その名残リすらないが。

アルヴィン国は土地柄、魔族に侵攻されやすく、聖女の魔力の消耗も激しい。
だから、後継者が必要であったし、私はユーリから魔力の使い方のイロハを教えてもらった。

4年の月日が流れれば、彼から教えてもらったイロハは全て吸収できていた。
しかし、それと引き換えに私は、アルヴィン国は聖女と国王、そしてユーリまでをも失っていた。
聖女は魔力の消耗が激しく、魔法を使えなくなってしまい、国王は戦禍の凶刃に倒れ、ユーリは私に教えることはもう無い、と姿をくらませてしまった。

矢継ぎ早に居なくなったものだから、国は当然混乱したが、ユーリのおかげもあって、聖女と国王の後継者はすぐにその冠を受けた。私と当代の国王だ。

かくして、私とアルヴィン国王の関係が生まれたわけだが、今やこのストーリーは誰も無関心なものだろう。とんだ昔話にもならない平坦な過去だ。
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