聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
37 / 53
第四章:聖女はどこへ向かうのか

37.聖女の立ち合い

しおりを挟む
 西と東になっているのかは怪しいが、とにかく両サイドに分かれて土俵をはさみ相対あいたいしている私とケイラム。彼の表情は真剣そのものだ。

 正直言って女子人気が高いのもうなずけるくらいには凛々りりしい。別に私の好みじゃないだけで、成長したらきっとイケメンになるだろうなと思わせる顔立ちである。

 もうすぐその表情も崩れ、下手をしたら泣いてしまうかと思うと少々悪い気がしなくもない。しかし真剣勝負を挑んできたのは向こうなのだから受け入れてもらいたいものだ。

 私の今の心境は、ありていに言えば慢心まんしん、油断、傲慢ごうまん、自信過剰かじょう、うぬぼれなどいくらでも思いつくくらいにはよくない状態だろう。こんなのパパだったらしかり飛ばしてくるに違いない。

 そんな風に自己分析ができてるのもおかしな話だが、これもすべて神力のせいだと思われる。わかっていても抑えきれないこの気持ちをどう昇華しょうかすればいいのかといつも悩んでいた。

 とにかく三月の日を過ぎて数日は、力はみなぎって自信には満ちあふれるし、宝くじは当たるし彼女もできてしまう、なんて怪しい広告並みに舞い上がってしまうのだ。

 だが同時に、冷静に自身を見つめるもう一人の自分もいる。だからきっと大丈夫なはずだ。決して舞い上がって調子に乗っているだけの私ではない。


「では二人とも準備はいい? じゃあ挨拶してから始めましょう。相撲を始めてからみんなが礼儀正しくなって先生はとってもうれしいの」

「はい! 私のいた国には『礼に始まり礼に終わる』と言う言葉がありました。勝ち負けだけにこだわるんじゃなくて、精神的にも強くなりましょうってことですね」

「ふん、アキナにしてはいいことを言うじゃないか。僕もその意見には賛成だ。心身ともに強くないと王の器ではないなんて言われてしまうからな」

こころざしだけは立派だけどこれは真剣勝負。負けてなんてあげないんだからね。どっちが勝っても恨みっこなしだよ!」

「もちろんだ! まあ勝つのは僕だけどな!」

 たった今、自分で言った言葉は何だったのかと思わなくもないが、いざ勝負になれば勝ちにこだわるのは自然なこと。

 こうして互いを牽制けんせいしあった私とケイラムは、先生がうなずいたのを合図に土俵の中へと一歩進みそんきょをする。

「それでは泣いても笑っても一発勝負! 恨みっこなしね。では見合って見合ってぇ、はっきょーい ―― のこったあ!」

 これまでの取組では変化を何度も使ってきた。もちろんそれは体の大きさと力のなさを補うための奇策きさくであって、どちらかと言えばほめられる手ではない。

 だけど今回は男女の学年横綱同士ということもあるし、私にも力士の娘としてのプライドがある。それに神力が満ちあふれてるおかげで、心身の心部分だけは間違いなく最強だ。

 その過剰かじょうなまでにふくれ上がった最強メンタルが、私に真正面からのガチンコ勝負をうながしていた。

 問題は力が上がってるわけじゃないことと、体格差は結局くつがえせないことだけどそれはそれ、勝負はやってみないとわからない。


『ッバアァーン』

 立ち合いの瞬間、私は小さな体を目いっぱい加速させケイラムの胸元へと飛び込んだ。ケイラムはきっと変化してくるとんでいたのだろう。立ち合いに出遅れたようになり受け身に入っている。

 どうやら観客も予想していなかったらしく、悲鳴と怒号どごうと歓声が入り混じって大騒ぎになっていた。

 いつもの私なら身軽に左右へ揺さぶるはずなのに、正面からぶつかったことを心配したのか、それとも予想外の展開てんかい興奮こうふんしているのか、まあそんなとこだろう。

 とはいってもさすがにこのまま寄り切って行けるはずもなく、ケイラムは力任せに私の上手から背中越しにまわしをつかみに来る。

 しかし私はその手がまわしに触れた瞬間しゅんかん、つかませないよう腰を引きながら素早く振って頭を下げた。

 言っておくが私はバカじゃない。正々堂々の真剣勝負だから付き合いで組み合うなんてことがあるものか。勝ち目があるからこそ、この体勢たいせいを選んだんだと言うことを思い知らせてやる。

 よりいっそう気合いが入った私はさらに力をこめ、今まさに次の手を繰り出そうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...