聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
36 / 53
第四章:聖女はどこへ向かうのか

36.聖女の過信

しおりを挟む
 昼のおやつの時間が終わり、私は口の中がこれ以上ないくらいに甘ったるくなるのをガマンしながらおなかが落ち着くのを待っていた。

 さすがに運動の時間前には落ち着くと思うけど、食べ終わったばかりで動いたらいろいろ危険だ。

 人より多く用意されているおやつを食べきってからなので、私が校庭へ出たのは最後のほうだった。広い校庭はすでにボール投げをしたり追いかけっこをしている生徒たちでいっぱいだ。

 このあとの勝負に向けて、私はクラリアと一緒に軽く走ったり柔軟運動をして体をほぐす。嫌な顔一つしないで付き合ってくれるクラリアにはいつも感謝している。

 相手のケイラムと言うと土俵のそばにいるのが見えた。どうやら取り巻きを相手に立ち会いの練習をしているようだ。

 彼は最近になって随分ずいぶんと背が伸びたし、その分力もついただろうから油断するなんてとんでもない。

 今や他校を含む学校界? では相撲が大ブームになっている。しかも大人の大会まで始められている一大ムーブメント、そんな注目のスポーツなのだ。

 そんな世間の後押しもあって校庭には土俵が常設されていた。しかも屋根付きなのでやろうと思えば雨の中の取組も可能ときてる。今のところは雲一つない晴天なので今日は関係ないけど。


 休み時間が終わってようやく運動の時間となった。本当は相撲の時間ではないんだけど、校庭で自由に運動することになったので相撲を取るのも自由である。

 そんなわけで、私とケイラムは無言のまま土俵の外側でにらみ合っていた。もちろんこの大一番を見逃せないと、クラスメートたちは周囲に陣取じんどっている。

 なにせこれは男女の代表戦でもあるのだからややこしい。女の子も男の子も別にいがみ合っているわけじゃなく普段は仲がいい。しかしこと相撲になると話は別だ。

 これはきっとケイラムがやたらと私にからんでくるせいだと思っている。好きなら好きと言えばいいのに否定ひていするもんだから余計にこじれてしまう。

 実は女の子たちの間では一つのうわさが話題になっていた。それはこの勝負にかけるケイラムの覚悟かくごについてだ。

 どうやらケイラムはこの勝負に勝って私に告白するつもりらしいと男子の間で噂になっている。それはなかば公然こうぜんの事実として女子までれ聞こえていた。

 だけど私はそんなことに興味はない。そもそも前世と言っていいかわからないけど、高校生になってもまだ恋愛には興味がなかったからである。

 初恋らしきものはもちろんあったけど、月並みに? 中学のころの教育実習の先生にあこがれるというやつで、よくあるテンプレ的なアレだ。

 ここで急に思い出したけど、帰り際にあいさつする振りをしてその大学生の背中にバカって書いた紙を張り付けたことがあった! これはまるで泥団子投げと一緒じゃないか。

 思わず思い出し笑いをすると、クラリアは驚いたようにこちらを覗き込む。

「アキナちゃんどうしたの!? 急に笑い出すなんて驚かさないでよね?」

「ごめんごめん、ちょっと思い出し笑いしちゃっただけだから気にしないでー」

 どうやら私よりもよっぽど緊張している様子で、大きな深呼吸をする様子がかわいらしい。それでも緊張は解け無いようで、私の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく敏感びんかんな反応をしてしまっていた。

「もう、クラリアったらなんでそんなに緊張するの? 勝負するのはウチなんだから気楽にしてればいいんだよ? まさかあの噂を真に受けてるわけ? どうせ勝っても負けても何も変わらないって」

「でも勝手に緊張しちゃうんだからしょうがないじゃないの。逆になんでアキナちゃんは平気なのかわかんないよ。だって告白だよ!?」

「そっち!? それが一番どうでもいいよ…… ウチは勝負だけしか考えてないし、もちろん勝つとしか思ってないからね」

 そこへクリスもやってきて興奮気味にくっついてくる。どうもクリスは取組でぶつかり合ったせいなのか急激に距離がちぢまり、今ではすっかり仲良しだ。

 だけどちょっと距離が近すぎて戸惑とまどうことも多い。女子同士のスキンシップが好きな子は確かに少なくないんだけど、ここまでべたべただとこっちが恥ずかしくなってしまう。

 こうして私たちがキャピキャピとたわむれている間に準備が整ったようだ。体格差もある男女の勝負なので、普通ならただのじゃれ合いとなるだけでそれほど盛り上がらない。

 だが私とケイラムの取組となれば話は別だ。同学年の誰もがその因縁いんねん? を知っている。

 とは言え、因縁だと考えているのは私以外の全員で、私は正直言ってただめんどくさいやつくらいにしか思っていない。

 そんな取組が迫る中、丁度いいところにクリスがやって来たのでまわしをきつく締めるのを手伝ってもらうと、いい感じに気合いが高まってくる。

 しかも私にとっては最高に力が発揮はっきできる三月さんげつの日の翌日。負ける要素がないどころか、正直言ってインチキチートと思えなくもない。

 私は少々ケイラムに同情しながら土俵前で仁王立ちして呼び出しを待った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...