聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

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第一章:悪い子から聖女へ

4.聖女の目覚め

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 神官長を押しのけた老婆はそのお盆を私の目の前へと置いた。お盆の上にはスープ皿のようなものが乗っており、中には水が張ってある。

「ここなら問題なくご覧いただけますね? この器にはごく普通の水が注がれております。我々が日常的に飲んでいるもので特別変わったモノではございません。ここへ神力かみちからを加えるところをお見せいたしましょう」

 なにか見せてくれるのはわかったが、それよりもこの老婆もやっぱり私を幼児扱いしていることが気になる。これはもう見た目のせいでどうにもならないのかもしれない。

 そんな余計なことを考えているうちに目の前の皿に異変がおきていた。水がみるみるうちに減って行き、その代わりに小さな雲が浮かんでいる。しまいにはそこから雨が降り注いでまた皿に戻っていったのだ。

「えっ!? なに? 今のっておばあさんがやったの? すっご、なにこれ、魔法ってやつ!?」

「えっ? あ、はい、わたくしがやったことに相違そういございません。水と言うのはこのような液状から目には見えない気体、そして温度を下げることによって個体となるのはご存知ですか? わたくしはその変化を促すことができるのです。とはいってもどんな物質にも適用できるわけではございませんが」

「いやいやそれくらい知ってるっての…… それがおばあさんが持つ神力の効果ってこと、なんですね。でもウチにもそんな力があるとは思えないけどなあ」

「うっ―― 得手不得手えてふえてはあるにせよ、何らかの力はあるはずです。それとは別に聖女さまには天と大地を繋ぐ力が備わっていると伝承に残されておりました。よろしければ試してみますか?」

「ウチが? この魔法をやってみるって!? いやいやいや、そんな簡単にできないでしょ。やり方もわかんないのにおばあさんってば無茶言うんだから……」

「おばっ、あ、いえ、やり方はともかくなにか感じられませんか? 水に対して特別な感情を抱ければ水属性を持っている証。それが火なら火属性を持つといった具合です。わたくしの場合は水に対してまるでわが子のような親近感を持っているのです」

「うーん、特別何も? でも言われてみれば―― なんとなく頭上からなにか見守られてる? みたいな気はしなくもないけど?」

「おお、それはおそらく天の恵みを受けておられるのでしょう。各属性とはまた異なりますが、神に選ばれし聖女ならではかもしれません。ま、ほう? に関しましてはおいおい学んでくださいませ。まずは身支度を整えていただき、ご所望であればお食事やお茶の用意もございます。リヤンこちらへおいでなさい」

「リヤン? それって人の名前だよね。そういえばここに来てから初めて誰かの名前を聞いたよね? ちなみにウチの名前は三笠山みかさやま明菜あきなって言うのよ? おばあさんは?」

「ばっ、はい、わたくしはルカと申します。神官たち全員をまとめている統括とうかつ神官という立場ですので、誰かがなにか失礼を働いたときにはすぐにご報告くださいませ。ちなみにあっち・・・おうはエデム神官長と申しまして、神官たちの勤務や担当職務などの調整をする事務方の長でございます」

「あっちって…… 神官長って言う割りになんかあんまり偉そうに思われてなさそうなんだけど? 実質のトップは統括神官のルカさんなのかな?」

「さようでございますね。実務に関してはわたくし、事務的なことに関してはアレと考えていただければよろしいでしょう。神官たちにもいろいろな業務や立場がありますが、そのすべての頂点に立つのが聖女さまでございます」

「へー、なるほど――――…… ってもしかしてウチのこと!? 神官なんて言われても知らないよ、やったことないってば!」

「繰り返しになりますが、聖女さまはいらっしゃることが最大の意義であり、言葉をを変えればお仕事と言えるかもしれません。もちろん雑務的な業務などはなにもなさる必要はございませんし、身の回りのすべてのことはこのリヤンをはじめとする側仕そばづかえたちにお任せください」

 そういえばさっき呼ばれてそばまで来ていたこの少女がリヤンらしい。ルカたちと同じように白い服ではあるが、すっぽりとかぶるローブではなく、作務衣さむえのような作業着的服装だ。

 歳は同じくらいだろうか。と言ってもここに来る前の私と同じくらいと言うことだけど……

 黒い髪に茶色い瞳は日本人ぽくて親近感が持てる。ルカやエデムは白髪だし、その他の神官たちもグレーっぽい感じなので、神官と言うのはなるのが大変で年齢層が高いのかもしれない。

「聖女さま、これから身の周りのお世話をさせていただきますリヤンと申します。いつでもどんなことでもなんでも申し付けてくださいませ。ふふ」

 なぜそこで含み笑いをするのか…… その視線は明らかに甘くやさしい。つまりは小さな子を面倒見る保育士のような雰囲気と言っていい。

 まったくどいつもこいつも人のことを子ども扱いするんだから失礼しちゃう。私はほおを膨らませ不満を感じていることを表明する。

 だがそれは序章に過ぎなかった。ここまでの印象はあくまで私が相手に対して一方的に感じたことだったのだから。

 しかし――

「それじゃ聖女さま、お部屋へ参りましょおねぇ。はーい、こっちですよー」

 リヤンはそういって私のことをひょいっと抱き上げたではないか。これにはさすがにとまどったし、きっとルカ統括神官が無礼ぶれいだとか不敬ふけいだとか言って注意するに違いない。

「リヤン、しっかりとお世話をするのですよ。それでは聖女さま、また後ほどお目にかかりましょう。神力の行使については改めてご説明差し上げます」

「ちょっ、まっ、なにこれ、自分で歩けるわよ! ウチは別に子供じゃないんだって言ったでしょ! 降ろして! リヤン? 降ろしなさいよ!」

 もう抗議しながら足をばたつかせてみたが、倍ほど身長のあるリアンに力でかなうはずもなく、抵抗むなしくその胸に抱かれて運ばれようとしていた。

「降ろせー! 放せー! 赤ちゃんじゃないんだってばー! ヤダあああ! ダメええええ!」

 私はせめてもの抵抗のつもりで大声を出してしまった。すると私を抱きかかえていたリヤンは突然へなへなとその場に座り込んだではないか。

 耳元でうるさくし過ぎたかなと恐る恐るその顔をのぞいてみると、なんと白目をむいて気絶している!?

 これにはさすがの私も動揺どうようしてしまい、抱かれたままでしがみつき返し、どうすればいいのか助けを求めようとルカへと視線を移した。

 だがそこには、同じように動揺しているのか、目を丸くして固まっている黒い髪・・・の中年女性が立ちすくんでいた。
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