聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

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第一章:悪い子から聖女へ

5.聖女の部屋

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 あてがわれた自室には大きなベッドがあった。映画とかでしか見たことのない、まるでお姫様のような天蓋てんがい付きのゴージャスなやつだ。

 そして今そこには一人の少女が静かに眠っている。この部屋の主はもちろん私だし、ベッドも私の物なのは間違いない。

 ただし今はまだ日中であり眠気はないため、ちょっと大きすぎる猫足の椅子に腰かけ足をぶらぶらさせながらベッドの上の少女を眺めていた。

 寝かされているのは当然リヤンである。ルカによると私の神力かみちから放出のあおりを受けて気絶してしまったらしい。責任を感じた私は無理を言って彼女を自分のベッドへ運んでもらったのだ。

「ごめんね…… ウチが変なコトしちゃったみたいでさ。でも悪気はなかったって言うか、どうやったのかもわからないんだから許してよね?」

 気を失ったままのリヤンにそんな謝罪の声が届くはずはなく、彼女はすやすやと眠り続けている。

 ルカ統括の説明によると、人が許容できる神力の量には個人差もあるが年齢や経験が大きく左右するらしく、まだ十代のリヤンには受け止めきれなかったようだ。

 だが命に別状はなく、多すぎた分の神力が抜ければ目を覚ますはずと言われ安心していた。同様にほかの神官たちにも影響は出ており、一部はめまいを起こしたり鼻血を出したり、体調の変化を訴えたものもいたと聞かされた。

 そしてルカはと言えばあの髪…… 今まで長く神官として力を行使してきたためすっかり老婆のような白髪になっていたものが、自然からは得られないほどの神力が補充されたことにより、若いころのようなつやつやの黒髪に戻ったのだと言う。

 さらに驚いたのは、老婆だと思っていたルカがまだ四十そこそこだと聞かされたことだ。第一印象だけでおばあさんと呼んでいたのはさすがに失礼すぎた。

「あーあー、後でちゃんと謝っておかないとなぁ。他にもなにかやらかしちゃう前に確認しておいたほうがいいことってあるかもしれない。ちゃんと考えてから喋らないとマズいっての、ウチってばさ」

 ブツブツと独り言を言っていても仕方ない。今ここで何かできることはないか考えてみる。

 おなかが空いたら食事にするから声をかけてと言われているが、リヤンがこんな状態ではそんな気にもなれない。

 かといって座っているだけで時間が過ぎていくのを待つなんて退屈たいくつだ。とにかくやることが無く暇で仕方ないがやることもない。ひとまずは部屋の様子でもチェックしておこう。

 部屋はそこそこ広いが驚くほどでもない。多分二十畳くらいだろうか。巨大なベッドは壁から真ん中に向かって置かれていて結構邪魔である。

 ベッドの隣には化粧台があり鏡が備わっているのだが、そこに写った自分を見るたびに落ち込んでしまう。

 その他の調度品含め、全体的には白基調が多くて清潔感があり好感が持てる。端端には花も活けられていて、文化的にはなじめそうな気がしていた。

 今までの自分は日本家屋で自室も和室だ。それだけにこういった洋風の部屋へのあこがれがあり、こんなわけのわからない状況でなければ素直に喜べただろう。

 そんなことを考えながらぼーっとしているところへ誰かやってきた。


『コンコン、ルカでございますが、お邪魔してよろしいでしょうか』

「はーい、どうぞ」

「失礼します。聖女さま? そうやってリヤンを寝かせておいてもいつ目覚めるかわかりません。そろそろ彼女の部屋へ移動させてもよろしいでしょうか。もちろん側仕えはほかにもおりますからお世話に支障はございません」

「そんなのかわいそうじゃないですか。ウチのせいで倒れちゃったってのにむげにはできないよ。それにほかにも人をつけるって、いくら聖女だからって言われても面倒かけすぎるのはよくないと思う……」

「面倒と言うわけでは―― ああそうです、こうお考えになられたらいかがでしょう? 不慣れな場所でおひとりではお困りになったり戸惑うことがございましょう。ですのでその補助としての案内役のようなものだと」

「確かにわからないとなにかやらかしちゃうかもしれないけど…… かといって自分が何者なのかもよくわからないのに持ち上げられても困ります! 本当は聖女なんて呼ばれるほど清純でも立派でもなかったんだもん」

「そうご自身で振り返ることができていると言うことは、道から外れたことに気が付いていたと言うことでございましょう? 本質的な悪人にはとてもできることではございません。今もこうしてリヤンをおもんばかっていただいておりますし、聖女さまは十分に立派なお方かと存じますよ」

 だめだ、この人たちは私を持ち上げることに関してなんの曇りもない。もちろん物理的にもひょいと持ち上げられてしまうのだが……

「ルカさん、あんまりウチを買いかぶりすぎないでくださいね。本当は悪い子だって知ったときのショックが大きいですよ? でもそれはそれとしてリヤンはこのまま寝かせておいてください。これは自己満足でもあるの」

「ええ、そうでしょうそうでしょう、本当にお優しいことです。リヤンも目が覚めたらきっと聖女さまのお優しさ、お心づかいに感激するに違いありません。それではこのまま寝かせておいて、先に必要なご案内をいたしましょう。さ、二人ともこちらへ」

 ルカはそういって自分の背後へ待たせていた少女を呼んだ。きっとこの子たちがリヤンと同じ世話係だろう。まったく三人もつけるなんて、聖女というのは相当ありがたがられる存在らしい。

「聖女さま、お初にお目にかかります。セナタと申します。まだ未熟ですが頑張ります」
「はじめまして聖女さま、ご機嫌うるわしゅう。フロラと申します。なんでもお申し付けくださいませ」

 少し緊張しているのか声を震わせた少女二人だったが、私を見つめるまなざしにあふれるほどの慈愛じあいを感じて嫌な予感がしていた。
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