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第四章 浮遊霊は見つけてもらいたい

44.出店

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「いやあ田上さん、すいませんねうちのバカ娘が無理言いまして」

「いえいえ、真子さんからお願いされるなんて光栄です。今日はどんなお料理にするのか楽しみですよ」

 運転手をお願いしている朝日さんの奥様が、生前切り盛りしていた小料理屋は一人娘の真子さんが引き継いでいる。地元の新鮮な魚介を使った料理が好評で、小さい店内はいつ行っても満席なことが多い。

 胡桃は、同居しているお目付け役兼料理人の康子が作る極上の料理をほぼ毎日食べている。そのため同年代の子と比べたら舌は肥えている方だろう。その胡桃でも真子の店で出す料理は美味しいと感じるし、きれいな小皿に繊細に盛り付けた料理は見た目にも美しい。

 康子といい真子といい、どうしてあんな素晴らしい味付けと美しい盛り付けが出来るのだろうか。胡桃ができることと言えばお湯を沸かすこととそれを注ぐことくらいだ。今のところは困っていないが最低限の料理位はできるようになりたい。康子に教わってもいいのだが、今は学校も忙しいし料理の他に興味あることが多いので、胡桃にとっての優先度は低い。

 今日は荒波海岸で行われるゆるキャラグランプリに便乗して、胡桃達が他の高校と協力して開催する芸術祭のアピールに行くのだ。

「真子のやつ、今朝は確か河岸でいわしとあさりを大量に仕入れてましたぜ。私は料理に関しては食うだけなんで何作るのかは知りませんがね」

「いわしとあさりですか、楽しみだわぁ」

「朝日さん、それって今日のイベントの時に出店で出すやつでしょ?私の分残しておいてね」

「承知しました、真子によく言っておきます。でも夜はなにか豪勢なもんでもご馳走しますよ?」

「ううん、真子さんのお料理ならなんでも美味しいから食べ逃したくないの。康子さんのお料理とはまったく違う楽しみがあるのよね」

 胡桃はこの後すぐに別行動になるため、せっかく真子が作る特別メニューが自分の口に入らないことを真っ先に心配していた。

「屋台のお料理だとその場ですぐ出せて、手に持って移動してすぐ食べれられる、それでいて安くておいしいというものになりますよね。なかなか難しいものですけど、真子さんならきっと何の問題もなく素敵なお料理を考えているでしょうね。胡桃さんが残しておいてほしいって言う気持ちわかります」

「やっぱり康子さんもそう思うでしょ?康子さんと真子さんのお料理を両方食べられる私は幸せ者だぁ」

「胡桃さんもお料理してみたらいいのに。いつでもお教えしますよ?」

「あーあー聞こえなーい」

「あらら、ふふふ」

「胡桃お嬢、そろそろ海洋につきますぜ。田上さんを降ろしたらまたこっちに来てりゃいいですかね?」

「ううん、多分私たちが会場へ行く頃には駅前が通行止めになるらしいから、そのままお店に居てもらって大丈夫よ。いつもありがとうね、朝日さん」

 胡桃はお礼を言ってミラー越しに投げキッスをして見せた。朝日浩二は照れながら笑い頭を掻いた。時刻は七時半、予定通りに荒波海洋高校に着き胡桃はそこで降りた。降りた直後にも、真子が出店で出す料理を確保しておくようにと念押しし二人と別れた。

「あのおてんば娘の料理がそんなにすげぇもんなんですかねぇ。毎日残り物を食わされてるんでピンと来ませんわ」

「それは朝日さんの舌が肥えすぎてしまったのではないでしょうかね。真子さんのお料理は世界の一流日本食レストランでも通用するものですよ」

「田上さんがそうおっしゃるならそうなんでしょうが……なんにせよ、いいとこへ修行に出させてくれた若旦那のご厚意が無駄でなかったなら一安心ですよ」

「はい、ご安心ください」

 康子は疑心暗鬼の朝日を安心させるよう、真子の料理に太鼓判を押した。事実、安心させるために言っているわけではなく真子の料理は素晴らしいものである。店内はいつも混みあい、常連でも入れない時があるくらいだ。

 宣伝は全くしていないが口コミで評判が広がり、市外や県外からもお客さんがやってくる。メディアの取材申し込みもしばしばあるがすべて断っている。それだけに、今日のイベントで真子が出店することはとても意外だった。きっと何か事情があるに違いない。

 自分の店を持った事の無い康子にとっては羨ましくもあるが、女手一つで、自分の店という城を守って行くことはさぞ大変だろう。

 胡桃を降ろした後、朝日は滑るようにロールスロイスを走らせ、康子は後部座席にもたれ、車窓を流れる景色をいい気分で眺めていた。

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