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第二章 皐月(五月)

24.五月四日 昼間 ステキな時間

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 道すがら話題にしていたのは当然のようにそれぞれの母についてだった。しかも八早月やよいは普段言われ慣れていない、母への褒め言葉へどう対処していいか戸惑うばかりだ。

「八早月ちゃんのお母さんってすっごく美人なのね。
 笑顔もステキだし羨ましいなー
 アタシのおかあちゃんなんてガサツなおばさんって感じでヤになっちゃう。
 すぐに家事の手伝いさせるしさ」

「ハルのママはまだマシだってば。
 うちなんてすっごい太っててさぁ。
 授業参観の時恥ずかしいったらありゃしない」

「きっと無い物ねだりなのよ。
 うちのお母さまだって――」

 八早月は二人に合わせてなにか言おうと考えたが、別に母の欠点らしいものが思い浮かばない。あえて言うなら誰にでも優しすぎて甘いことだが、それを許せないのはごくごく限定された状況に限ってのことだ。

「そうよ、うちのお母さまだって欠点くらいあるわ。
 料理が全然できないこととか、なにも仕事して無いこととかね。
 だから私も何一つ教えてもらえないんだもの」

「でもそれってやらなくてもいいからでしょ?
 さすが名家のお嬢様って感じ!」

「そうそう、私も知った時は驚いちゃったもん。
 考えてみると八早月ちゃんは凄い山奥に住んでるけど社長令嬢なんだよね。
 カッコいいなー」

「まあ社長と言えばそうだけど一人だから…… 全然カッコよくないわ。
 今は折り合いが悪いし私は嫌っているんだもの」

「えっ!? さっきもすごく仲良さそうだったでしょ?
 それともまさか作り笑顔で本当は仲悪いってこと!?」

「えっ!? お母さまのことを言っているの?
 社長ってそっちのことね。
 本当の社長はお母さまの弟、つまり私の叔父さんなのよ。
 でも会社とか相続とかなんか大人の事情でお母さまが社長になったみたい」

「それでも社長なんだからすごいよ。
 アタシも社長の娘が良かったなぁ。
 そしたら毎日ケーキだべられそうだし!」

「そんなことないわよ?
 私もケーキなんて入学式の日以来だもの。
 それに社長なんて言ってもいつも家にいて何も仕事してないんだから」

「社長って仕事しないといけないの?
 一体全体何をしてるんだろうね。
 私のパパはよく自分の会社の社長の悪口言ってるけどね」

 はっきり言ってしまえば、中学生にとって社長がなんなのか、どんな仕事をしているのかに初めから興味なんて無く、社長という肩書が一番大切で注目すべき部分なのだ。

 そしてその言葉の重要性も、目の前に出てきたケーキの前には何の意味もなさない程度のキーワードだった。美晴曰く、普段は麦茶か牛乳なのに、母は見栄を張ってケーキには紅茶だと言ってわざわざ淹れてくれたらしい。

 美晴の家についてもおしゃべりは止まらない。どうも二人は八早月の知らない母のなにかを知っているように話題に挙げている。それについてはまったく当てがなく、いくら考えても思い浮かばない。

「でもさ、八早月ちゃんだって入試受けて入ったって言ってたもんね。
 そういうのって融通利かせてくれないもんなの?
 意外にケチ臭いっていうか平等にするもんなんだね」

「入試って学園に入る時の?
 それは当然受けたけど、ごめんなさい、その話になった流れがわからないわ。
 社長の話となにか繋がりとか関係があるの?」

「えっ!?」

「えっ? 私なにかおかしいこと言ったのかしら。
 本当にまったく話が見えなくてごめんなさい。
 ちゃんと聞いてたはずなんだけど、なにか聞きもらしてしまったのかしら」

「あれ? 八早月ちゃんのママって九遠のお嬢様じゃないの?
 書道部の顧問やってる先生がそう言ってたんだけど」

「確かにお母さまの実家は九遠だけどそれがどうかしたの?
 会社は確かにこの町にあるけど、うちの村へ燃料を持ってきてくれる会社よ?
 九遠エネルギーって言うの」

「八早月ちゃんったら本当に知らないの!?
 九遠グループってこの街じゃ一番大きな会社なんだよ?
 それにもう一つ大切ななにかに気が付いてないみたいなんだけど……」

「そうだよ、アタシらが通ってる学校がどこだかわかってるの?
 ホント八早月ちゃんってマジ天然だよねー」

 天然、それはあまり頭の回転が良くない子に使う言葉だった気もするが、確か悪口とは限らず可愛げのある抜けた感じと言う表現だった気がする、なんてことを考えながら二人の言っている意味を考えていた。
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