86 / 376
第五章 葉月(八月)
83.八月二日 昼過ぎ 元稲荷神社総本宮
しおりを挟む
分家筆頭当主である初崎宿は、本家当主である八家筆頭の櫛田八早月の命により、八岐神社以外で妖討伐を生業にしている神職のことを調べていた。
と言っても、公にし辛い妖関連については内閣府直下の政府機関が統括しているわけで、なにも独自に調査へ赴くわけではない。つまり、ここで宿が渉外担当として優れた能力を発揮するというわけだ。
現代日本では、危険を伴う祭事の継続は風当たりが強く減少傾向にある。それでもひっそりと続いている八岐神社の例もあるし、一大イベントとして地域に根付き口を出しづらくしている奇祭もまだまだ多い。
しかし全国津々浦々数万を数える稲荷神社に関しては、そのような祭事が行われている記録は無く、妖討伐に関わっている巫家系もほぼいないと連絡を受けた。一部には独自に祓いを行っている神職がいるようだが、決して伝承しているものではなく、自然発生的な物らしいのは高岳姉弟と似通っている。
結局役人の調べでは何もわからない、知らないというも同然の回答しか得られず、宿は仕方なく、教わった相手へと連絡するしかなかった。その相手とは、かつて稲荷神社総本宮を治めていた旧家の当主である。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。
私は室伏家当主、室伏京衛門と申します。
随分と遠いところまでいらしていただいてご苦労様ですした。
ご連絡をいただいた時は本当に驚きましたよ」
「やはり都会ではすでに失われているのですね。
お電話で伺ったときは正直落胆してしまいました。
しかし古書をお見せ下さるとは感謝の念に堪えません」
「とんでも、ございません、こちらこそありがとうございます。
私共の家系も三代前まではお役目についていたと伝え聞いております。
そのことを家の者も忘れかけていると言うのにこの度のお申し出ですから。
なんと言えば良いか、そう、尊厳を取り戻した気分でございます」
宿と対面している室伏京衛門なる御仁は、代々京都でお役目についていた家系らしい。しかしすでにその能力は途切れてしまったと役人から聞かされていた。それでも連絡を取ってみると古文書や過去の記録は残っており見せてもらえると聞き、急ぎ駆けつけたのだった。
「もし差支えなければ、途切れた理由と言うのをお聞かせくださいますか?
三代と言うことは我々の歴史感からすればつい先日と言えるくらいの近年です。
と言うことはやはり……」
「はい、ご察しの通りでございます。
私の曽祖父が出兵しましてそこで途切れてしまいました。
一子相伝ではなかったのですが、長男の祖父でさえまだ幼かったのです」
「なるほど、それは残念な事でしたね……
私共の一族は古来より八家に別れましたので、そうそう途切れず幸いでした」
「まさにその通り、今更ではありますが分家は重要でしたね。
ただ現代でも能力が発現した稲荷の家系はあると聞きます。
この度のお嬢さんもその一例かもしれませんね」
「そうなんです、ただ制御がまったくできていないのですよ。
当人を守護している子狐の守護獣がどうにも喧嘩っ早いようでしてね。
我らが筆頭当主はその娘御の友人なので、早めになんとかしてあげたいと申しているのです」
「えっ!? お話だとそのお嬢さんは中学生だと聞きましたが!?
一族の筆頭と言うのはその八家当主の長ですよね?
まさかその御方も中学生ということですか?」
「ええ、やはり驚かれますよね? うちの筆頭はまあ凄いのですよ。
ちなみに当主を継いで筆頭としてお役目を始めたのは八歳の時です」
「えええっ!? 八歳からお役目? そんなことがあり得るのですか?
私共の記録での最年少は二十代ですが、それも歴史上二名のみですよ……」
室伏家当主が驚くのも無理はない。妖討伐には十分な修練が必要なのは宿も承知している。横の繋がりが希薄なので他の一族のことはわからないが、八畑村の八家でもそれまでの最年少は二十代だったのだ。
衝撃的な事実に戸惑いを隠せいない室伏京衛門だったが、そのことが宿との距離を縮めたようだ。意気投合とまでは行かないまでも和やかな雰囲気となり、二人で蔵に入り蔵書を漁るのだった。
◇◇◇
そして翌朝――
「いやあとてもお世話になりましてありがとうございます。
参考になりそうな箇所のコピーを取らせて頂けて助かりました。
しかも夕飯を馳走になっただけでなく泊めていただいてしまって恐縮です」
「いえいえお気になさらず。
こちらこそ久しぶりにお役目のことが聞けて良かったですよ。
現役の方はやはり雰囲気がありますね。
いつか筆頭様にもお会いしたいものです」
「わはは、お会いしたら驚くでしょうな。
なんと言っても普段はホンに小さく幼く可憐な少女なのですから。
ぜひ八畑村へ来ていただきたい、と言いたいですが何もない村ですからなぁ」
そんなやり取りを経て帰宅の途についた宿は、以前八早月が話していたように他の巫一族との交流も悪くないものだなどと感じていた。
と言っても、公にし辛い妖関連については内閣府直下の政府機関が統括しているわけで、なにも独自に調査へ赴くわけではない。つまり、ここで宿が渉外担当として優れた能力を発揮するというわけだ。
現代日本では、危険を伴う祭事の継続は風当たりが強く減少傾向にある。それでもひっそりと続いている八岐神社の例もあるし、一大イベントとして地域に根付き口を出しづらくしている奇祭もまだまだ多い。
しかし全国津々浦々数万を数える稲荷神社に関しては、そのような祭事が行われている記録は無く、妖討伐に関わっている巫家系もほぼいないと連絡を受けた。一部には独自に祓いを行っている神職がいるようだが、決して伝承しているものではなく、自然発生的な物らしいのは高岳姉弟と似通っている。
結局役人の調べでは何もわからない、知らないというも同然の回答しか得られず、宿は仕方なく、教わった相手へと連絡するしかなかった。その相手とは、かつて稲荷神社総本宮を治めていた旧家の当主である。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。
私は室伏家当主、室伏京衛門と申します。
随分と遠いところまでいらしていただいてご苦労様ですした。
ご連絡をいただいた時は本当に驚きましたよ」
「やはり都会ではすでに失われているのですね。
お電話で伺ったときは正直落胆してしまいました。
しかし古書をお見せ下さるとは感謝の念に堪えません」
「とんでも、ございません、こちらこそありがとうございます。
私共の家系も三代前まではお役目についていたと伝え聞いております。
そのことを家の者も忘れかけていると言うのにこの度のお申し出ですから。
なんと言えば良いか、そう、尊厳を取り戻した気分でございます」
宿と対面している室伏京衛門なる御仁は、代々京都でお役目についていた家系らしい。しかしすでにその能力は途切れてしまったと役人から聞かされていた。それでも連絡を取ってみると古文書や過去の記録は残っており見せてもらえると聞き、急ぎ駆けつけたのだった。
「もし差支えなければ、途切れた理由と言うのをお聞かせくださいますか?
三代と言うことは我々の歴史感からすればつい先日と言えるくらいの近年です。
と言うことはやはり……」
「はい、ご察しの通りでございます。
私の曽祖父が出兵しましてそこで途切れてしまいました。
一子相伝ではなかったのですが、長男の祖父でさえまだ幼かったのです」
「なるほど、それは残念な事でしたね……
私共の一族は古来より八家に別れましたので、そうそう途切れず幸いでした」
「まさにその通り、今更ではありますが分家は重要でしたね。
ただ現代でも能力が発現した稲荷の家系はあると聞きます。
この度のお嬢さんもその一例かもしれませんね」
「そうなんです、ただ制御がまったくできていないのですよ。
当人を守護している子狐の守護獣がどうにも喧嘩っ早いようでしてね。
我らが筆頭当主はその娘御の友人なので、早めになんとかしてあげたいと申しているのです」
「えっ!? お話だとそのお嬢さんは中学生だと聞きましたが!?
一族の筆頭と言うのはその八家当主の長ですよね?
まさかその御方も中学生ということですか?」
「ええ、やはり驚かれますよね? うちの筆頭はまあ凄いのですよ。
ちなみに当主を継いで筆頭としてお役目を始めたのは八歳の時です」
「えええっ!? 八歳からお役目? そんなことがあり得るのですか?
私共の記録での最年少は二十代ですが、それも歴史上二名のみですよ……」
室伏家当主が驚くのも無理はない。妖討伐には十分な修練が必要なのは宿も承知している。横の繋がりが希薄なので他の一族のことはわからないが、八畑村の八家でもそれまでの最年少は二十代だったのだ。
衝撃的な事実に戸惑いを隠せいない室伏京衛門だったが、そのことが宿との距離を縮めたようだ。意気投合とまでは行かないまでも和やかな雰囲気となり、二人で蔵に入り蔵書を漁るのだった。
◇◇◇
そして翌朝――
「いやあとてもお世話になりましてありがとうございます。
参考になりそうな箇所のコピーを取らせて頂けて助かりました。
しかも夕飯を馳走になっただけでなく泊めていただいてしまって恐縮です」
「いえいえお気になさらず。
こちらこそ久しぶりにお役目のことが聞けて良かったですよ。
現役の方はやはり雰囲気がありますね。
いつか筆頭様にもお会いしたいものです」
「わはは、お会いしたら驚くでしょうな。
なんと言っても普段はホンに小さく幼く可憐な少女なのですから。
ぜひ八畑村へ来ていただきたい、と言いたいですが何もない村ですからなぁ」
そんなやり取りを経て帰宅の途についた宿は、以前八早月が話していたように他の巫一族との交流も悪くないものだなどと感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる