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第五章 葉月(八月)

96.八月十日 夕方 追及

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 初めてのプールはまさに芋洗い状態で、本来の意味では楽しめなかった。それでも水の中に浸かって足をバタバタさせることくらいはできて、泳ぐと言うことの雰囲気を少しだけ体感できた八早月だった。

 しかしそんなことを帳消しにするような出来事が起きてしまった。以前金井町で起きた上中下左右ひとそろい さう少年の祖母によるぬえ呼び出し事件の類似事件である。今回は詳細不明ながら水泳部内でのいざこざが原因と思われるが、西洋の呪術が使用されたのはほぼ間違いない。

 もちろん初崎宿を通じて関係機関へは連絡済であり、久野高校にも調査が入ることだろう。それはともかく、今はプールの後に綾乃の家へと立ち寄って、お茶会と言う名の尋問会が行われている。

「一体何が起きたのかきっちりと説明してくれる?
 何となくおかしいと言うかうすうすは感じてたんだけどさ。
 八早月ちゃんって超能力かなにか使えるんでしょ」

「やっぱそうだよね、毎日修行してたりしてタダ者じゃないって感じ。
 さっきも予知能力みたいなので、先に溺れることがわかったんでしょ?」

「それに零愛さんのことだっておかしいもん。
 宿泊行事の時には知らない人って言ってたのに、今日になったら遠縁だって。
 さっきも八早月ちゃんとほぼ同時に助けに行ったじゃない?
 だから二人とも超能力者仲間なんだってわかっちゃったんだよねぇ」

「私は嘘をつくのが嫌いだからはっきり正直に答えるわね。
 私も零愛さんも超能力者ではないし、予知能力なんて物も持ってないの。
 でもまあある意味普通でないことは認めるわ。
 別に隠さなければいけないわけではないのだから」

「普通じゃないけど超能力じゃない?
 予知能力でもないのにさっきみたいなことが出来るわけ?
 別に責めてるわけじゃないの、八早月ちゃんのこともっと知りたいんだよ」

「そうねえ、なんと言えばいいのかしら。
 見えないものが見えるし、見えない人と話をしているから証明できないの。
 幽霊とは違うのだけど、どうしたらいいのかしら」

 すると綾乃が恐る恐る手を挙げてとんでもないことを言いだした。

「私は証明する方法知ってるよ?
 でもきっとハルちゃんも夢ちゃんも後悔すると思うんだよね……
 私だってできれば二度と体験したくないもの……」

「まさか綾乃さん? 真宵さんに二人を斬れと?
 それはだめよ、場合によっては酷いことになりかねないわ!」

「ああそれならウチに任せてみなよ。
 別に斬らなくてもわかるからさ。
 綾でも出来るんじゃないかな」

 今度は零愛が何か思いついたらしいが、その顔はよからぬことを企んでいる者の表情である。それもそのはず、肩に乗った八咫烏やたがらすへ何やら命じると、美晴と夢路の頭の上を突いて回った。

「えっ? 今のなに? 夢がやったの?」

「なに言ってんの!? ハルが頭叩いたんじゃないの?」

「あはは、これでわかっただろ?
 ウチらは見えないなにかってのを連れて歩いてるのさ。
 ちなみに今頭を突っついたのはウチの仲間の八咫烏って子だよ」

「じゃあ私もやってみるね、モコ、行っておいで。
 ハルちゃんと夢ちゃんの膝をトントンってやってみて。
 二人には見えないんだけど、私の守護獣は子狐なの」

 綾乃が左手をかざすと手の甲から子狐が飛び出て来て、二人の足元へお手をするように二度ずつ叩いてから戻って行った。もちろんその感触に美晴も夢路も驚いて声も出ない様子である。

「じゃ、じゃあ八早月ちゃんはどんな動物なの?
 さっき斬るとか言ってたけどなんかヤバイやつだったり?」

「試さないでいいから、もう信じたからね!
 痛いのは嫌だもん、疑ったりもしてないから許してー」

「許すも何も、最初から怒ってないどころかこちらが悪いことしていたわ。
 秘密にしているわけではないつもりだけど、今日みたいな危険な状況に関わることもあるから黙っていたのよ」

「そうなんだ…… 綾ちゃんはそれで転校してきたの?
 お祓いとかしたって言ってたけど、普通はそうすると憑いてるの消えるんだと思ってたよ」

「元々は悪霊? みたいなのが憑いてたんだけどね。
 八岐神社で祓ってもらったら子狐に変わっちゃったみたい。
 私には難しくてよくわからないのよねぇ」

「なるほど、綾は元々妖憑きだったのか。
 別に神職の家系ってわけじゃなかったんだろ?」

「その辺りはきっと複雑なのよ。
 遠い過去に神職の血が混じることなんて珍しくないだろうしね。
 それがたまたま子孫へ発現するのが先祖がえりって言うものなのよ。
 別に悪いものでは無かったけれど、力が強すぎて悪影響があったわけ。
 それを大人しくさせたのがお祓いだったのよ」

「うん、全然わからないや、でももうわかったからいい。
 これからも普通に仲良くしてくれるなら私はそれで十分だもん」

「アタシも夢と同じだよ。
 なんかすごい友達がいるってだけで幸せな気分になれるしさ」

 楽観的な友人なのは本当にありがたく、スッキリしたところで本格的にお茶会が始まった。綾乃の両親は友達が大勢来たことを心から喜んでくれて、わざわざケーキを焼いてくれた。

 これもまたもちろん八早月にとって初めての出来事で初めての味だ。たっぷりと初休みを堪能して大満足の五人娘だった。
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