限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
114 / 376
第五章 葉月(八月)

110.八月二十四日 午前 神蛇小祠

しおりを挟む
 目の前に現れたそれ・・は、八早月だけでなく綾乃にも零愛にも見えている。見えていないのは美晴だけだ。つまりこのままではまた秘密ごとを増やすことになる。

「またこの展開なのね……
 ねえみくずさん、美晴さんが見聞きできるよう一次的に力を与られますか?
 このままではまた仲間外れにしてしまいそうで申し訳ないですからね」

『かしこまりました、完全には見えないでしょうが雰囲気はわかるでしょう。
 それでも言葉はしっかり聞こえるかと存じます』

「ありがとう、ではよろしくお願いしますね。
 美晴さん、何が何だかわからないと思いますが、混乱しないで下さいね。
 今すぐ見える・・・ようにして差し上げますから」

 そう言っているうちに藻が神通力を用いて美晴へ力を授けたらしく、棒立ちのまま目を見開いていた。どうやら副作用で体の自由があまり聞かない様子である。

「な、なにが起こってるの? アタシ今動けないんだけど?
 八早月ちゃんがなにかしたの? アレ何!? 蛇が乗ってるの?」

「美晴さん、落ち着いて、秘密を増やさないようにしたのだけど怖いかしら。
 驚かせてしまったならごめんなさい、でも害はないから安心してね」

 体の自由と引き換えに見聞きする力を授かった美晴は当然戸惑っているが、八早月の掛けた言葉で多少は気持ちが軽くなったようだ。だが次は一次的に与えられた藻の力によって見えている、祠の上に乗った白い蛇に驚く番がやって来ていた。

「こら娘御よ、驚きすぎじゃ。
 本来であればおんしのような下賤にわらわの姿なぞ見せぬのじゃ」

「だったらなんで私たちを呼ぶような真似をしたのですか?
 ええと、水竜様でよろしいのかしら? それとも白蛇様とか?」

「はい、われらは古くは白蛇と呼ばれる一対の夫婦蛇でございました。
 ですがこの辺りでは船の事故が多くそれを鎮める願いが絶えなかったのです。
 人々は祠を立て手近にいた我々を水竜の遣いだと言って崇めましたが効果なし、それはそうでしょう、我々はただ白いだけの蛇だったのですから」

「ま、そりゃ当たり前だよね、でも今は神様なんでしょ?
 ここまでの話じゃさっぱりそんな気配はないけどさ」

「む、生意気な小娘じゃ、いいからそのカラスをしっかり見張るのじゃ!
 ええ、話の続きでございますが、しびれを切らした民たちは贄とするために旦那様を捕らえてしまったのですじゃ」

「そんなのあんまりだよ、なんて身勝手な……
 もしかしてそれで祟ったから祀られたとか?」

 綾乃の言うことはもっともだろう。恐らくは千年やそこら経過している出来事であろうから、最初の祠と今残っている者が同じであるはずもない。勝手に願って勝手に落胆するのも、そのあと逆恨みするのも人が良く行う手口である。

 そう考えたのは八早月だけではなく、零愛も似たような思考に陥っていた。特に彼女は巫家系であると同時に漁師の家系でもある。大昔の出来事とは言え、漁師たちが海の平穏を願うあまり身勝手な殺害を行ったのだとしたら申し訳ないと感じたからだ。

「いえね、祟ってはおりませぬが、その行為に本物の水竜様がお怒りになり……
 幾人かの民と共に我が旦那さまも喰ってしまわれたのじゃ。
 さらには怒りにまかせて嵐を起こし、周囲の船も沈めてしまいましたのじゃ。
 最後にはこの山をも喰らい、今ではこんな小さな小島になってしまったのじゃ」

「と言うことは元はこの小島は山だったということか。
 そんな伝承初めて聞いたなぁ、知ってみるとなかなか面白いもんだ」

「お黙んなさい! 面白くなんてないのじゃ!
 旦那さまを失ったわらわは水竜様へその嘆きをぶつけたのですじゃ。
 それを哀れに思ってくれたのでしょう、水竜様はこの地に旦那さまを留め、わらわと永遠に繋いて下されたのじゃ」

「まあ、なんてステキなお話でしょう。
 でもなぜその結末からもう一度祠が作られたのかがわからないわね。
 海の民からは恨まれたままでしょう?」

「そこはよくわかりませぬが、山が崩れ潮流が変わったのが理由のようですじゃ。
 今まで散々悩まされてきた潮目が変わったことで船が沈まなくなったと。
 わらわには航路を変えたからにしか見えなんだ、でも民たちは満足の様子。
 結局数年の後、この祠が作られて旦那さまもわらわもともに祀られたのじゃ」

 どうやらその時にできたのがこの『神蛇小祠しんじゃしょうし』なのだろう。大分風化してしまっているが、祠の目の前の大石に祠の名が刻まれている。ご神体はおそらく山と共に海底へ沈んでいったオスの白蛇だろう。

「なんか最後はすっごく微妙な感じに終わったな。
 まあでも漁師たちが酷いことして悪かったよ、ごめんなさい」

「いんや、一連の民たちは大陸との貿易を行っていた商人ですじゃ。
 ですからこの島の周囲にはきっと当時の交易品が財宝として眠ってるのじゃ。
 ま、潜って獲りに行った者たちは水竜様の怒りで流されてしまうのじゃが。
 欲深い奴らにかける情は無い、じゃまあみろなの蛇」

 経緯はともかく、最終的には長年祀られたことで神格化したようである。それにしてもこの白蛇はなにをつかさどる神なのだろうか。それに八早月たちの前に現れた理由は結局不明のままだった。

「それで白蛇様はなにをつかさどる神格なのですか?
 やはり神使を従えて地域を護っていたのでしょうか。
 そのために私たちを呼んだのであればご希望にお応え出来そうにありません。
 我々はすでに神職として働いておりますゆえ」

「いえいえとんでもございませんなのじゃ。
 わらわはもうこの場所に飽いてしまったのじゃ。
 ですからどうかわらわも生き神様のお供へ加えてくださいなの蛇!」

 その視線は誰がどう見ても八早月を見つめており、それにつられてこの場にいる全員が八早月の顔をじっとのぞきこむのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

処理中です...