限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
156 / 376
第七章 神無月(十月)

152.十月十三日 夕刻 後ろ髪

しおりを挟む
 結局八早月は新庄の相手をすることなく追い返すことに成功した。彼が圧倒的な実力差を感じ取って引き上げてくれたのだ。しかしそれと引き換えに弟子入りをした気になり、鍛錬方法をメモしてから帰って行った。

 そう、立派な侍になると言う高潔な志を高らかに宣言してから……

「美晴さん夢路さん、それで厨二病と言うのはどういったやまいなのですか?
 放っておいても平気ならいいのだけれど、命にかかわることはないのでしょ?」

「あー、平気平気、素養のある人はなるべくしてなるものだからね。
 ここにも山本夢路って言う似たようなのがいるでしょ?」

「夢路さんもその厨二病と言う病に侵されているのですか!?
 まさか持病を持っていたとは…… 普段元気なのでわからなかったわ」

「ちょっとハルってば、あんま八早月ちゃんをからかうのやめなよ。
 それに私は厨二病なんかじゃないってば!」

「ゴメンゴメン、ようは夢見がち空想に憑りつかれがちって感じかな。
 俺の中に眠るもう一人の俺が囁くのさ、とか、俺の邪眼がーとかね。
 そういうなにか特別な力とか境遇が自分にはあるって思いこみたい年頃なのよ。
 本当に持ってる八早月ちゃんや綾ちゃんには理解しがたいかもだけどね」

「そうそう、私の場合は自分になにかあると思うことはないけどさ。
 色々妄想するのが好きだからハルが似たモノだって言うわけ」

「な、なるほど、よくわからないけど私も小さい頃はそんなのあったよ。
 魔法少女になりたいなんて言うのと同じでしょ?」

「魔法少女とは夢路さんにお借りしたマンガのことですね。
 私も似たようなことを思ったことがあるので何となくわかります。
 いえ、今でも思い続けているのですよ、私もいつか―― もがもが」

『八早月様、それ以上は人前で言わないで下さい。
 いいですね? お願いします』

「あー、わかった、いつかは真宵さんみたいになりたいって考えてるんでしょ。
 それはまあもっともかなって思うよ。
 言われる真宵さんは恥ずかしいのかもしれないけどね」

 せっかく八早月の発言を止めたと言うのに、綾乃にあっさり看破されてしまった真宵は、頬を染めながらそそくさと姿を消してしまった。それを見ながら「真宵さんカワイー」等と冷やかすのは蛇になっている美晴たちである。もうこの姿になることにすっかり慣れた様子だった。

 そうこうしているうちに夜はすっかりと更けて行き、町内放送では童謡のカラスが流れはじめた。おしゃべりに夢中になっている間にどうやら十七時になったらしい。

『綾乃! 少し早いけど夕飯出来たわよ。
 八早月さん、二十一時にはお迎えが来るのよね?
 早めに食事を済ませた方がゆっくり過ごせるでしょ』

「はーい、すぐ降りるね。今日のご飯はなんにしたの?
 ちゃんと洋食にしてくれた?」

『今晩はハンバーグにしたわよ。それとコーンスープもね。
 沢山作ったからお菓子食べ過ぎてお腹すいてないなんて言わないでよ?』

 八早月にとっては人生二度目のハンバーグである。綾乃の母が作る料理は普段家では出てこないものばかりなので物珍しく楽しく味わえている。さらに八早月がパン好きだと聞いていたからとわざわざ家で焼いてくれると言うもてなしぶりなのだ。

 綾乃曰く、随分前に購入したホームベーカリーなるパンを焼く機械は随分と使われていなかったのだが、八早月のパン好きを伝えたら喜んで引っ張り出して来たのだと言う。だが綾乃は、自分が頼んでもちっとも作ってくれなかったのにと不満を漏らしていた。

 こうして少し早い夕食を楽しんでまたもや食べ過ぎで苦しいともがく四人は、そんななんでもない光景すら面白く感じ、意味もなく笑い転げるのだった。それを見ながら微笑んでいる真宵と藻はまるで姉か母のようである。

 やがてシンデレラの魔法が解けるよりも早く二十一時がやって来た。どうやら早めに来て待機していたであろう板倉より予定時刻丁度にメッセージが入る。ああ、これが後ろ髪を引かれる想いなのだろうと実体験出来たことを喜ぶべきか悲しむべきか、八早月はそんなことを考えながら寒鳴邸を独り後にするのだった。


◇◇◇

 そして帰り道――

「お嬢、時間丁度で申し訳ありませんね。
 きっと遅れてくることを望んでいたとは思いますが融通が利かねえもんで」

「何を言っているの板倉さん。いつも正確で助かっていますよ。
 私もきちんと切り替えていますからご心配なく、帰って明日に備えなくてはね。
 そう言えば板倉さんはトリュフというキノコを知っていますか?
 どうやら手土産の中に入っていたらしいのですが、そんなハイカラなものが八畑山に生えているのでしょうかね?」

「ああ、確かに似たようなもんが食卓へ出ることがありますね。
 外国では高級食材ですが、きっと日本で採れる近親種何だろうと思いますよ?。
 人間だってカラスだって日本にも外国にもいるんですからキノコも変わらんでしょう」

「なるほど、確かに板倉さんの言う通り、さすが頭の回転が早いわね。
 ホント独り身ではもったいないわ、お見合いくらいしてみたらいかが?」

「またその話ですか、気にかけていただけるのはありがたいことですがね。
 私には今の生活が性に合ってるんですよ。
 独り身の気楽ってやつは歳を取ると捨てがたいものになっちまう」

「そんなものなのかしらね、私にはまだよくわからないわ。
 でもその気になったらいつでも言ってちょうだいよ?
 もちろん今の家から出たとしても運転手を続けてもらうために近くに建てますけどね」

「いやいや、ば様二人との生活も悪くねえですよ?
 あんまり飲みすぎないよう見張るって役目もありやすからね」

「ま、房枝さんったらまだお酒やめてなかったのね。
 以前お医者様に注意されたのにまったく聞く耳持たないのだから困るわ。
 板倉さんも健康には注意して下さいね、あと博打も程々に」

「は、はい、そりゃもう肝に命じときます」

 思わぬところから自分へ飛び火したと首をすくめた板倉は、今日さんざん負けて来たなんてとても言えないと思いながら真っ暗な道へと車を走らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...