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第1章
第31話、魂の旋律者
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こいつが魂の旋律者なのか。
そいつは闇に浸かるようにして暗がりから出てこない。
揺れるようにして闇に浮かぶ真っ白な顔は、妬み、嫉み、僻み、恨みを混ぜ合わせたような目つきで見上げるようにしてこちらを見ている。
その表情は見られているだけで吐き気を催すほどの、不快な気持ちにさせるのに十分過ぎる醜悪な造形である。
しかしこいつがここにいるって事は、落とし穴によって強制的に悪鬼の監獄へ移動させられていたわけか。
そして目の前のこいつは、今まで倒された事がないという強いモンスター。
真琴がやられないまでも、苦戦するかもしれない。俺は急いで回復の白濁球を作り上げていく。
そこで魂の旋律者の胸元、闇の中から木の枝のような細い腕がヌルっと一本出てきた。
その腕の先端には小枝のような細く長い指先が並び、虚空へと向け突き出される。
そしてひっくり返した昆虫の足のように、その指をガサガサと動かし始めた。
それはまるで透明なキーボードに向かって文字を打ち込んでいるかのようで、指が押した空間が赤黒い波紋となり、一瞬だけ小さく波立ち広がりを見せていく。
「あっ、来た道が! 」
ルルカの叫びで上方を見上げれば、滑ってきたトンネルの穴の大きさが小さくなっていっていた。
しかも他の同じような穴も、同時に小さくなっていく!
なんか不味い気がする。
もしかしなくても、退路を断たれ閉じ込められているのでは?
しかもまだ打ち込みを続けているし。
あれを続けさせてはいけない!
そう思った時には、すでに真琴が必殺の掌底打ちを放った後だった。
対する魂の旋律者は、もう一本の細い腕でガードをするかのようにして胸の前で折り曲げる。
しかしそんなもので真琴の攻撃が防げるわけもなく、その細長い腕は受けたところから千切れ後方へ吹き飛び闇へと消えた。
と言うか、ああも正確に攻撃がくる場所が分かるという事は、魂の旋律者は真琴の攻撃が見えていたのか!?
まぁそんな事は真琴にとっては些細な問題なのかもしれないけど。
だって、息の根を止めれなかったのなら、何度も何度も攻撃をすればよいだけの話だから。
再度真琴が腰を落とし構える。
先ほどのアンデッドを複数相手にした時と同じよう、連撃を放とうとしているのだ。
対する魂の旋律者は、残った腕でボロ布をグッと掴むと、姿を隠すようにして自身の前に勢い良く広げた。
これはやられた!
姿が見えないのなら、ボロ布の先を予測打ちで攻撃するしかなくなる。
他に手立てを思いつかない。
真琴も同じ考えのようで、連撃をボロ布目掛けて打ち込み始めた!
しかし手応えはない。
宙を舞うボロ布。
そしてその布が黒い粒子となり霧散した頃には、そこに奴の姿はなかった。
「ユウト、あいつはここで仕留めておかないと後々厄介になると思う!
今すぐ追おう! 」
「わかった、でもちょっと待って! 」
俺の静止の言葉に、真琴が「え? 」っとこちらを振り向いた。
俺はそんな真琴の手首を強引に掴むと、白濁球を真琴の前に移動させる。
「ごめん、時間がないから今はこれで我慢して」
「あっ」
そして問答無用で真琴の袖口から白濁球をどんどん流し込んだ。
ついでに襟元やブーツの隙間、そしてもちろん露出している太ももや首筋にも。
案の定、直接の塗り込みではないとは言え、白濁液はあっという間に真琴の肌に吸収されていく。
やっぱりか。
真琴はここに落ちてからかなりの無茶をしていたようだ。
真琴の攻撃は例え全力でなかったとしても、自身の身を深いところまで傷つけてしまう、諸刃の刃だから。
先ほど自身で回復魔法を使ってみて分かったんだけど、俺のベ・イヴベェはルルカと比べるとかなりの回復力を持っている。
しかし先ほど真琴にぬりぬりをした時、完全回復するまでそこそこの時間がかかった。
それは即ち、それだけ真琴が傷ついていたという事。
真琴が足元をふらつかせるほどに。
今回の事でよく分かった。
真琴はかなり我慢をしてしまうみたいだから、これからは隙を見つけてドンドン回復魔法を当てていこうと思う。
それから俺たちは魂の旋律者を追い、扉の中の細い通路へと飛び込んだ。
中にはやはり明かりがなかったが、少し幅広になっており二人くらいなら並んで走れるくらいの広さはあった。
そして暗闇の中、ルルカの手を握り真琴の後に続いていると、入ってきた側の部屋の明かりが届かなくなった辺りで、この通路の先に出口らしき薄っすらとした明かりが見え始めてくる。
ここのトンネル、かなり長い。
すると突然不安にかられ出す。
もしここを通っている時、あいつが操作をして入り口と出口が塞がったらどうしよう?
急がないと!
ん、そう言えばあいつがダンジョンを操作してたわけであって、そんな事が出来るのは——
「真琴、さっきの奴ってダンジョンを操作していたよね?
って事は、もしかしてあいつがダンジョンマスターになるの? 」
「その可能性は高いね」
ダンジョンマスター。
女神から所有権を奪い、この殺戮のトラップ部屋を作り上げ、迷い込んだ冒険者をアンデッドに変えていた外道。
そこで真琴がボソリと言う。
「どちらにしよ、あいつは逃さないよ」
そいつは闇に浸かるようにして暗がりから出てこない。
揺れるようにして闇に浮かぶ真っ白な顔は、妬み、嫉み、僻み、恨みを混ぜ合わせたような目つきで見上げるようにしてこちらを見ている。
その表情は見られているだけで吐き気を催すほどの、不快な気持ちにさせるのに十分過ぎる醜悪な造形である。
しかしこいつがここにいるって事は、落とし穴によって強制的に悪鬼の監獄へ移動させられていたわけか。
そして目の前のこいつは、今まで倒された事がないという強いモンスター。
真琴がやられないまでも、苦戦するかもしれない。俺は急いで回復の白濁球を作り上げていく。
そこで魂の旋律者の胸元、闇の中から木の枝のような細い腕がヌルっと一本出てきた。
その腕の先端には小枝のような細く長い指先が並び、虚空へと向け突き出される。
そしてひっくり返した昆虫の足のように、その指をガサガサと動かし始めた。
それはまるで透明なキーボードに向かって文字を打ち込んでいるかのようで、指が押した空間が赤黒い波紋となり、一瞬だけ小さく波立ち広がりを見せていく。
「あっ、来た道が! 」
ルルカの叫びで上方を見上げれば、滑ってきたトンネルの穴の大きさが小さくなっていっていた。
しかも他の同じような穴も、同時に小さくなっていく!
なんか不味い気がする。
もしかしなくても、退路を断たれ閉じ込められているのでは?
しかもまだ打ち込みを続けているし。
あれを続けさせてはいけない!
そう思った時には、すでに真琴が必殺の掌底打ちを放った後だった。
対する魂の旋律者は、もう一本の細い腕でガードをするかのようにして胸の前で折り曲げる。
しかしそんなもので真琴の攻撃が防げるわけもなく、その細長い腕は受けたところから千切れ後方へ吹き飛び闇へと消えた。
と言うか、ああも正確に攻撃がくる場所が分かるという事は、魂の旋律者は真琴の攻撃が見えていたのか!?
まぁそんな事は真琴にとっては些細な問題なのかもしれないけど。
だって、息の根を止めれなかったのなら、何度も何度も攻撃をすればよいだけの話だから。
再度真琴が腰を落とし構える。
先ほどのアンデッドを複数相手にした時と同じよう、連撃を放とうとしているのだ。
対する魂の旋律者は、残った腕でボロ布をグッと掴むと、姿を隠すようにして自身の前に勢い良く広げた。
これはやられた!
姿が見えないのなら、ボロ布の先を予測打ちで攻撃するしかなくなる。
他に手立てを思いつかない。
真琴も同じ考えのようで、連撃をボロ布目掛けて打ち込み始めた!
しかし手応えはない。
宙を舞うボロ布。
そしてその布が黒い粒子となり霧散した頃には、そこに奴の姿はなかった。
「ユウト、あいつはここで仕留めておかないと後々厄介になると思う!
今すぐ追おう! 」
「わかった、でもちょっと待って! 」
俺の静止の言葉に、真琴が「え? 」っとこちらを振り向いた。
俺はそんな真琴の手首を強引に掴むと、白濁球を真琴の前に移動させる。
「ごめん、時間がないから今はこれで我慢して」
「あっ」
そして問答無用で真琴の袖口から白濁球をどんどん流し込んだ。
ついでに襟元やブーツの隙間、そしてもちろん露出している太ももや首筋にも。
案の定、直接の塗り込みではないとは言え、白濁液はあっという間に真琴の肌に吸収されていく。
やっぱりか。
真琴はここに落ちてからかなりの無茶をしていたようだ。
真琴の攻撃は例え全力でなかったとしても、自身の身を深いところまで傷つけてしまう、諸刃の刃だから。
先ほど自身で回復魔法を使ってみて分かったんだけど、俺のベ・イヴベェはルルカと比べるとかなりの回復力を持っている。
しかし先ほど真琴にぬりぬりをした時、完全回復するまでそこそこの時間がかかった。
それは即ち、それだけ真琴が傷ついていたという事。
真琴が足元をふらつかせるほどに。
今回の事でよく分かった。
真琴はかなり我慢をしてしまうみたいだから、これからは隙を見つけてドンドン回復魔法を当てていこうと思う。
それから俺たちは魂の旋律者を追い、扉の中の細い通路へと飛び込んだ。
中にはやはり明かりがなかったが、少し幅広になっており二人くらいなら並んで走れるくらいの広さはあった。
そして暗闇の中、ルルカの手を握り真琴の後に続いていると、入ってきた側の部屋の明かりが届かなくなった辺りで、この通路の先に出口らしき薄っすらとした明かりが見え始めてくる。
ここのトンネル、かなり長い。
すると突然不安にかられ出す。
もしここを通っている時、あいつが操作をして入り口と出口が塞がったらどうしよう?
急がないと!
ん、そう言えばあいつがダンジョンを操作してたわけであって、そんな事が出来るのは——
「真琴、さっきの奴ってダンジョンを操作していたよね?
って事は、もしかしてあいつがダンジョンマスターになるの? 」
「その可能性は高いね」
ダンジョンマスター。
女神から所有権を奪い、この殺戮のトラップ部屋を作り上げ、迷い込んだ冒険者をアンデッドに変えていた外道。
そこで真琴がボソリと言う。
「どちらにしよ、あいつは逃さないよ」
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