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第1章

第39話、新しいパーティーメンバー

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「……ウト、ユウト」

 真琴の声。
 気がつくと、そこはコアルームであった。
 しかし訪れた時部屋全体を包み込んでいた、あの幻想的な緑色の発光はなくなっていた。

 あれ?
 俺は心配そうに見つめている真琴に、膝枕をされている。
 そして俺はそれを、なぜか上から見下ろしている?

 ってこれ、幽体離脱してますよね!?

 そう思った瞬間、真琴の膝枕から上体を起こしていた。
 もっ、戻れた?
 とっ、とにかくよかった!

「ユウト! 」

 真琴が急に抱きついてきたため、その大きな胸が顔に押し当てられる形になり呼吸が出来なくなる。
 そのため酸欠になりかけ堪らず真琴の肩をタップ、開放して貰う。

「ご、ごめんなさい」

「いや、気にしなくていいよ」

 苦しかったけど柔らかくて、とても幸せでしたので。じゃなくて——

「それよりどれくらい寝てたの? 」

「五分くらい、クリスタルに触れたら急に倒れてびっくりしたんだよ! 」

 そこでヴィクトリアさんの方を見る。

「お帰りなさいませ」

 慌てる素振りを一切見せず、涼しげにそう言った。
 やっぱりヴィクトリアさんはこうなる事を知っていたんだ。
 それなら——

「あの映像はどう言う事なんですか? 」

 するとヴィクトリアさんは、はち切れんばかりの胸の下で腕を組みその谷間に沿って右腕を上げると、メガネをクイっと上げレンズを光らせる。

「アレはこの悪鬼要塞の迷宮核の元となるものの、記憶でございます」

「迷宮核の元の記憶? 」

「そうです」

「となると、ゴブリン……の巾着袋ですか!? 」

「左様でございます」

 巾着袋の記憶だって?
 そんなデタラメな世界が——
 いや、日本にも同じような話があるじゃないか。

 付喪神つくもがみ
 長年使ってきた道具などには神や精霊が宿るとされ、そのため大切に扱わないとバチが当たりますよと言う話によく出てくる神様の名である。

「この星の神は強い想いが込められた物を選ぶと、次々とダンジョンの迷宮核へと変えていっていました。
 そしてそのダンジョン内には、迷宮核の型によりその迷宮固有のモンスターが生まれます。
 ダンジョンはそれらモンスターやトラップにより死んでしまった生物や、死ななくてもダンジョンにいるだけで生物の生命エネルギーを取り込むと、それらのエネルギーを増幅させる機関である迷宮核へと送り込みます」

 ヴィクトリアさんがコツコツと音を立ててその場を歩き始める。

「そして蓄えられたエネルギーは、いつかは迷宮核が破壊される事により開放。
 するとそのエネルギーはどこへ向かうかと言うと、近隣の土地へ恵みとしてもたらされます。
 そうしてこの世界のシステムは、この星を徐々に豊かなものへと発展させていきました」

 なるほど、それでこの世界にはダンジョンなんて物が存在するんだ。
 でも待てよ、今のこの世界では迷宮核の破壊は禁止行為って言ってなかったっけ?
 それに——

「ダンジョンで死んだ人って、どうなるんですか? 」

「迷宮核が破壊されるまで、ずっとダンジョンに囚われたままとなります」

 やっぱり!
 という事は、ルルカのお姉さんは本当の意味ではまだダンジョンに囚われたままになっているって事。
 そしてこのダンジョンが出来てから、今まで死んでしまった人たちも。

「そして現在、全てのダンジョンエネルギーは混沌の迷宮都市の迷宮核に集められており、また全ての迷宮核にはプロテクトがかけられており簡単には壊せないようになっています」

「つまりこの星の所有権を奪ったって奴が、なにか悪巧みをしているって事なんですね? 」

「それは微妙に違います。
 この星の所有権を奪った者は、我々上位の者たちが抱く目標に向かって突き進んでいるだけであります。
 ただそれが、この星の生命体じゅうにんにとっては害ある行動となっているだけの話です」

「うん? 上の人の基準はよくわからないけど、俺たちにとっては同じ事だよ。
 そしたらそれを止めるには、全てのダンジョンの迷宮核を壊さないといけないわけだ」

 そこで真琴が盛大にため息をつき、どこか諦めのような表情で言う。

「やれやれ、やっぱりそうなるわけなんだね」

 そしてヴィクトリアさんへ視線を移す。

「全てのダンジョンの迷宮核を破壊するのって、もしかしたら混沌の迷宮都市の迷宮核を破壊すればよかったりするわけなのかな? 」

「はい、現在あのダンジョンがメインダンジョンに設定されていますので、そこの迷宮核を破壊されると全てのダンジョンの迷宮核が破壊されます」

「現在ってことは、そのメインダンジョンって奴の変更が出来ちゃうの? 」

「現在の所有者ではそのような複雑な操作は出来ないようです」

「なるほどなるほど」

 真琴が再度こちらに視線を移す。

「ダンジョンの破壊行為を禁止してる奴は、十中八九ボクたちの敵になるね。
 ってことで、長い冒険になりそうだけどよろしく」

「真琴、それって危ないかもしれない冒険について来てくれるって事? 」

「そんなの当たり前だろ?
 それにキミは頑固だけど、ボクもキミに負けずに頑固だよ?
 キミは一度言い出したら引かないし、ボクはそんなキミを見過ごせない。
 そうなると一緒に冒険するのは当然の結果だよ」

「ごめん、それとありがとう」

「でも冒険を続けるとなると、戦力の補給はしておいたほうがいいかもだね。
 この感じだと、おそらくボクは今までのような無双が出来なくなってると思うから」

 えっ、真琴が弱くなったって事?
 ヴィクトリアさんに視線を投げかける。

「えぇ、今までのようにはいかないと思います。
 ただ他に手が無いわけではないですし、それが必要な時が来れば直接お教えさせて頂こうかなとも思っておりますので」

「あれ? ヴィクトリアさん、それって? 」

 するとヴィクトリアさんは、眼鏡を何度もクイクイ動かし始める。

「実は転生を繰り返すユウト様を監視するのが私の役目でありまして、今こうして姿を見せてしまった以上、これから隠れてもあまり意味がありませんので……」

 もしかしてヴィクトリアさん、照れてるから俯き気味なのかな?

「という事で、お邪魔でなければこれから行動を共にさせて頂こうと思うのですが?
 ただし共にすると言っても同行するのみで、ユウト様たちの邪魔は勿論、手伝いも何もいたしません。
 ダンジョンに入れば空気と化します。
 それでもよろしければ、になりますが」

「えーと、それって要は、お喋りは出来るって事ですか? 」

「……そうなります」

「まーこれからの旅は長くなりそうだし、旅は沢山でしたほうが楽しいって言うしね? 」

 真琴に賛同を求めると「そうだね」と答えた。

「ありがとうございます」

 そうして俺たちのパーティーに、お喋りをするだけの女神様が加入した。

「さてと、そしたらどうやってプロテクトがかかっている迷宮核を壊そうかな? 」

「ユウト様、このダンジョンの迷宮核はすでに破壊されました」

「えぇ! いつの間に? 」

「先ほどユウト様が迷宮核に触れられた瞬間に破壊、正確には迷宮核の記憶が剝がれ落ちました」

「えー、プロテクトってやつは? 」

「ユウト様の身に刻まれた封印に触れた瞬間、跡形もなく消し飛びました。
 それほどその封印は、強力なものであります」

 自身ではまったく自覚がないため、にわかには信じられないけど、ヴィクトリアさんが言うんだから間違いないのだろう。

「……そうそう、その際発せられた光を浴びましたので、お二方の着ていらっしゃる服やブーツには迷宮核の恩恵が付与されました。
 そのためよっぽどの事がない限り、破れたりほつれたりはしなくなっています」

 そこで真琴が腕を組み、ウンウンと噛みしめながらに頷く。

「要は魔法のコーティングが施されたみたいなもんだね。
 これは最初のダンジョンをクリアすると、だいたいどのラノベ作品でも何かしらある、新装備ゲットや既存装備の強化イベントの一つに当てはまるわけだ」

 そんな種類のイベントもあるのか。
 なんだかラノベって、真琴から色々と聞いてるうちに面白そうに思えてきていたりする。

「それよりさ、ダンジョンの元になってる迷宮核が破壊されたのなら、このダンジョンって危ないんじゃないの? 」

「たしかに破壊されたわりには静かだね。
 クリスタルも実際にあるわけだし」

 俺たちの視線がヴィクトリアさんに集まる。

「崩壊はゆっくりと始まっていまして、あと二時間くらいで全てが無へと還ります。
 現にこのコアルームの外は、何度も大きな地震が起きていますので、ダンジョン内にいる冒険者の皆さんはこぞって脱出をされているようです」

 げっ、それって俺たちも早く逃げないといけないって事だよね!?

「まっ、真琴! 」

「そうだね、早くここから出よう! 」

 霧を抜けコアルームから急いで出る。
 そして俺たち三人は、青に染まる階段をパラパラと砂や小石が落ちてくるのを避けながら急いで駆け上がっていった。
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