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第2章

第23話、青白いトンネル

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 ……ん?
 真琴が唯一原型をとどめている物、部屋に置かれているロッキングチェアに座りゆらゆら揺れている。

「真琴、なにしてんの? 」

 言われエアパイプを口から外しロッキングチェアから立ち上がる真琴。

「この部屋にはまだまだ謎があるのかもとね」

 もしかして探偵ごっこ?

「その鍵にしたって、それ自体がフェイクで、本当のお宝を隠すためだけに存在しているかもしれない」

「たしかに、何か感じるわね」

 アズだ。俺の裾から手を離した彼女は、視線を上下させながら部屋の中をうろうろしだす。
 真琴はともかく、アズが何かあると言うのは気になるな。

 ちなみにこの部屋の構造はこうだ。
 右面である一面だけがレンガ造りの壁になっており、そこには暖炉とつい今しがた真琴が座っていたロッキングチェア。
 正面の壁には小窓と腰ぐらいの高さの棚があり、左面の壁は所々仮面が飾られていたのだろう、一面釘のような突起が沢山残されている。

 そこで腕組みをしている真琴が暖炉の前までテクテク進むと、屈んでその中を覗き込むようにして見はじめる。

「ふふふっ、ボクの勘はキレキレのようだよ」

「なんかあるの? 」

「ああ、この中にレバーが隠されていた」

 そしてドヤ顔の真琴は、暖炉の中に手を突っ込むと、そのレバーをここから見えるぐらいまで下へと引く。

『ガッコンッ、ジージャラジャラジャラ……』

 その音は暖炉付近だけでなく、天井と壁の向こうからも聞こえ始めている。
 なにかが作動している音なのだろう。
 なんかこう言うのって、巨大な歯車が動き出したみたいな感じでなんか恐い。

 そして知らず知らずのうち、それらの音から遠ざかるようにして俺は後ずさっていた。
 そこで背中に触れる壁の固い感触——

『キンッ』

 へぇ?
 なんだ今の背中から聞こえた音は?

『ガコンッ』

「うっ、うわっ! 」

 壁が僅かに押し込まれると、その部分が横へとスライドした。
 そのためバランスを崩してその場で尻餅をついたわけなんだけど、なんと壁があったそこに通路が現れていた。
 真っ暗で先が見えないけど。
 そんな事を思っていると、現れた通路の入り口付近にのみ明かりが灯る。
 あっ、怪しい。

「敵の気配はないようです」

 クロさんだ。耳を立て暗闇の中の索敵をしてくれているようだ。
 とそこで、通路上部付近の壁に取り付けられていた設置型のランプに明かりが灯っていく。
 そうして目に映るのは、石を重ねて作られた冷たい印象を感じさせる壁の通路。
 この通路の奥行きはそこまでなく、突き当たりの壁の付近の足場には下へと続く階段があるようだ。

 しかしそもそもなんでいきなり通路が現れたんだろう? やっぱり真琴のレバー?

「ユウト様が魔法の封印を解いたのです」

 俺の心の疑問にヴィクトリアさんが答えてくれる。
 そう言えば背中から壁に触れた時、変な音が鳴ったけど……。
 これって、プロテクトがかかっているって話だった悪鬼要塞の迷宮核も勝手に壊れたけど、もしかして同じパターン?

「それと、そこにいると危ないです」

「えっ? 」

 ヴィクトリアさんの突然の忠告に、思わず間の抜けた返答をしてしまう。
 とそこで寒気が——
 現れた通路が異質な雰囲気を醸しはじめる。

 さらに奥の階段から青白い煙が噴き出すように流れてきたかと思うと、それがこちらに見える形で鳴門の渦潮のようにぐるぐると渦巻き始め、さらに回転を早めたそれは竜巻の中心のように一本の渦巻く青白いトンネルとなり通路一杯にまで伸びた。
 そしてゆっくりとぐねぐねとさらに奥へも伸び出したトンネルの全長は、あきらかに長すぎた。
 壁があるはずの場所の遥か先にまで伸びて見えているから。

「皆さん、ソウルリストを確認して下さい!
 このトンネルが、フロアボスかもしれません! 」

 トンネルが!?
 クロさんに言われて目を細める!

『TYPE-007ポルターガイスト』

 たしかにこのトンネルのソウルリスト、このエリアに入ってから周りのどこを見ても感じるポルターガイストだけでなく、きっちりナンバリングも見えている!

 こいつがフロアボス!?
 とその時、突然このトンネル内から人影が生えるようにして次々と形を成していく。こちらに向かい歩き始めるその者たちの手には、剣や弓矢が——
 その冒険者にも盗賊にも見える者たちは、目と口が陥没したかのような真っ黒で、肌や髪の毛、更に服装や手にする武器などその全てが青白く見え、まるで死人のように力なく俯いている。
 しかもその人たちは重力を無視しているのか、ここから見てトンネルの側面や上下逆さまに歩いている者も少なくない。

 何者なんだ!?
 咄嗟にクロさんを見やるが、彼女も驚いた表情で敵を凝視している。
 そこで再度ソウルリストを確認すると——。

『TYPE-007ポルターガイスト【ムーンレイカー】』

 虚ろな表情で下を向いて歩くどの人物を見ても、同じ表記が頭に浮かんでくる。

「危ない! 」

 叫んだのは真琴だ!
 そして俺の腕を掴んだ真琴が、俺を後ろ、真琴の方へと引き寄せていた。
 と同時にトンネルの入り口付近から、人の背丈ほどもある長くて太い青白い巨大な腕が生えた。
 そしてそいつは俺がつい今しがた立っていた場所に、鋭い爪を立て掴みかかって来ていた。
 こいつは!?
 そして頭に飛び込んでくるソウルリスト。

『TYPE-007ポルターガイスト【ゴールドフィンガー】』

 俺への攻撃を空振りに終えたそいつは、次の瞬間動きを止め霧散する。
 真琴が掌底打ちを放ち撃破したのだ。

 しかしゾッとする。
 今のような腕がムーンレイカーたちほどではないが、トンネルから次々に生えると地を滑るようにしてこちらへ向かい急速接近し出したからだ。

「クロさん、ボクのユウトを!  」

「わっ、わかりました! 」

 クロさんが俺の手を握り腰に手を回すと、後方に控えていたアズの横までひとっ飛びで運んでくれる。
 するとアズが、俺とクロさんの前に移動して仁王立ちになった。
 そして横顔が見えている彼女の顔が、影で闇色に染まると口がパックリ真横へと割れる。

「あんたたち、ここから動かないほうがいいわよ」

 その嬉々としたアズの言葉とトンネル方面から感じる違和感に、再度視線をトンネルへと移す。
 すると一筋の青白い線、煙りのような尾をひく矢がこちらに迫っていた。
 しかしその矢は、トンネルを睨んでいるアズが作り出した出鱈目な蜘蛛の巣のようなカクカクとした壁によって阻まれ消えていく。
 そこでアズが声を張り上げる。

「真琴、攻撃はあんたに任せるけど大丈夫? 」

「ふふっ、ボクを誰だと思ってるんだ? 」

 そうしてシャフトな感じで背後を振り返る真琴が、それを受けニヤリと笑みを浮かべるアズに見送られトンネルの中へと突撃していった。
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