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第3章

第9話、オークション開始

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「それでは早速最初の品と参りましょう! 」

 こうしてオークションが始まった。

 司会進行役オークショニアのおじさんが、滑舌良く透き通る大きな声で商品説明をしたのち、観客からどんどんと挙手と共に金額提示がされていく。
 競りはテンポ良く、『8万、9万、10万、11万……』と司会進行役の声と共に値が釣りあがる。

 そして最初の競りの終わりを告げるハンマーが『タタンッ』とけたたましく叩かれた。

 凄い、ダンジョンのドロップ品の種を育てて大きくしたという事だけど、素人目にただの観葉植物にしか見えないモノが、競りの結果36万ルガの値がついちゃった。

 チラリとクロさんに目をやると、ゴクリと喉を鳴らしている。
 そりゃシークレットの目玉品として扱われるそうだから、クロさんの品が高値で取引されるかもと期待しないほうが嘘である。

 そして時間は流れ、カタログに載る最後の品が競り落とされた。
 すると今まで商品を交代で運んでいた、女性スタッフのうち二名がステージ裏から現れ、各々長い台の両端を持ちうんしょうんしょと壇上へと運んでいく。
 そうして中央から少し離れた場所、正面から見て斜め前に置かれた台の上には、他の女の子たちが厚手の布と一緒に水晶玉をいくつも置いていく。

 何が始まるんだ?

 とそこで、奥から今までのように台車に乗せられ現れたのは、黄色い液体が入れられたなんか高価そうな小瓶であった。
 あれはクロさんが持ち込んだ小瓶ではないうえリボンなんて巻かれてはいるけど、中身は間違いなくスライムの実である。

「それでは皆様方、次が本日最後の品となりますが、まさしく最後を飾るに相応しい、欲しい方から言わせれば国宝級であると称される素晴らしい一品の登場となります!
 ウオッホン、皆様はスライムの木はご存知ですよね?
 当然知ってますよね? 」

 そこで司会進行役のおじさんが、わざとらしく耳に手を当てる。

「えっ? なんでそんな事を聞くのかって?
 ……そう、本日のトリを飾るこちらの品が、そのスライムの木から採取された、美食王フラントビュアが愛してやまなかったと言う、……スライムの実であるからです!
 そして世界共通第一級植物鑑定士の資格を有するわたくしウッドカーネルが、こちらの品の品質を保証いたします」

 そこで会場がドッと盛り上がる。

「なお今回、依頼主からのたっての希望で本日中に換金したいとの事だったのですが、物が物だけに、各所のオークション会場とは魔道具を通じて音声が繋がるようにさせて頂いております。
 それにより競争相手が多くなり、お客様の食への探究心の強さが、また美味なるモノを真に渇望されているのか否かが試される事になるわけですが……。
 くぅー、本音を言うと本日落札される方が羨ましいです!
 しかし私はしがない司会進行役、愛する家族のためにもその責務を全うさせて頂こうと思います」

 司会進行役のおじさんが一礼すると、会場から盛大な拍手が送られる。

「それでは長い前置きはこれぐらいにさせて頂きまして、参りましょう! 
 スタートは100万からとさせて頂います! 」

「150! 」

「180! 」

「200! 」

「210! 」

「250! 」

「270! 」

「280! 」

「300! 」

 あっ、あっという間に300万!?
 隣のクロさんもポカンとしている。

「480! 」

「500! 」

「510! 」

「530! 」

1000・・・・

 なっ!
 その渋みを帯びた声は水晶の一つから発せられた。
 そして今まで活気に満ちていた会場がシーンと静まり返る。

「あっ、一千万が出ました!
 他に落札希望者の方はおられませんか? 」

 すると他の水晶の一つが少しだけ発光して若い女性の声が聞こえる。

「1300」

 するとまた別の水晶から若い男性の声で『1500』と提示される。
 それに負けまいと女性が『1800』と提示をするのだけど——

「5000」

 先ほどと同じ、渋みを帯びた男性の声であった。
 会場からどよめきが起こる中、他の水晶から苦々しい声が漏れ聞こえる。

「たっ、他には御座いませんか? 」

 もちろん誰も金額を提示しない。
 会場の全員が固唾を飲んで水晶に注目する中、いっときの間の後にハンマーが台を叩くけたたましい音が鳴り響いた。

「それではスライムの実は、五千万ルガでの落札となります!!
 また来月こちらの会場では、刀剣のオークションが開催されます。
 こちらも新旧揃い踏み、名品揃いとなっておりますので、是非足をお運びになられて下さい。
 それでは皆様方、本日のオークションの参加並びにご静聴、誠にありがとうございました! 」

 こうしてオークションは幕を閉じた。

 しかしえらい事になった!
 運良く、いやクロさんだからこそ見つけたのだろうけど、木から採取した液体が、あっという間に五千万ルガに化けたのだ。

 一攫千金。

 今回のような件があるからこそ、おそらく冒険者を仕事にしている人たちは、日々このような事を夢見てダンジョンに潜っているんだろうとも思った。
 そして会場の人たちが一斉に席を立ち帰路に向かう中、隣の隣に座るクロさんは、絶賛放心状態中であります。

 しかしクロさん、五千万ルガと言う大金を手にするわけか。

 そしてその事実はある事を意味する。
 クロさんが俺たちと旅をする目的が、恐らくお金であるから。
 俺は一人席を立つ。
 そしてアズの頭越しに、座ったままで微動だにしないクロさんの肩を軽く叩いた後、手を添え小声で質問をする事に。

「あのクロさん、今回のお金で借金返済出来るわけですけど、そうしたら俺たちとはお別れ、なんですよね? 」

「えっ!? 」

 すると彼女はパタパタと手を振った。
 そして俺と同じように耳打ちをしてくる。

「オークションの運営側に3割持っていかれちゃいますので、今回手に入れたのは3500万ルガになるんですけど——」

「あっ、そうなんですね! 」

 そうか、オークション運営側も仕事をしているわけであるから、タダで出品させて貰えるわけないのか。
 そこでクロさんが真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

「はい、それに私は、借金返済出来たとしても、当分の間お嬢様のお世話係を辞めるつもりはありません。
 皆さんと一緒に旅をするのは本当に楽しいですし、背中を預けるに値する信頼が出来る心強い仲間はそうそう見つかるものでもないですし——」

 そう言うクロさんがニッコリ笑顔になる。

「私、借金が完全返済出来るまでの金額を稼いだら、それ以上はお嬢様から頂かないつもりなんです」

 そこでスヤスヤと寝ているアズを、優しい笑みで見つめるクロさん。

「それとやっぱり、お嬢様のお世話は私がしてあげないと、ですね」

 クッ、クロさんはなんて良い人なんだろう!
 この人は天使さんだ!
 そしてそんな人と一緒に旅が出来るなんて、俺は幸せ者だと思う。
 とそこでクロさんが、自身の口元に人差し指をあてる。

「それと今言った事は、お嬢様には絶対内緒でお願いしますね」

「わかりました!」

 そこでなぜか、この星の女神の姿を思い浮かべてしまう。
 あの人もこれぐらい優しかったのなら、想像通りの女神様だったんだけどなー。

 まっ、ダンジョン魔術師の洋館では、シェリーさんを救うため女神業らしい事をやっていたみたいだけど——

 あれ?

 そう言えば、なんとなく似ている気がする。
 髪の色や髪型は違うし、クロさんは獣人であるから耳の位置も違うわけだけど、あの女神とクロさんの顔立ちが——

 いや、気のせいか。
 他人の空似なんて地球でもしょっちゅうあるわけだし。

 そこでオークション関係者っぽい人から声をかけられた俺たちは、終始スヤスヤ寝息を立てていたアズを起こし裏方へと行くのであった。
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