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第4章

第1話、アピールタイム

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 耳を澄まし、無用な音を立てないよう気を配りながら進む。
 全体的に薄暗い洞窟内は、進めば俺たちを惑わすためにいくつもの分岐点を眼前に用意する。

 俺たちが現在いる場所は、リアさん曰く迷宮王国内にあるダンジョン鉱石こうせき断連だんれん層山そうざん
 ただ炭鉱現場のように岩盤を掘り進めたような通路に松明が等間隔に並ぶ光景は、まさに俺が想像するダンジョンそのものであった。

 そして道が前方と左右に伸びる四叉路に差し掛かったときーー

「ユウトさん、新手が来ます! 」

 姿はまだ見えないけど、猫耳を立てているクロさんが敵を感知したらしく忠告が飛ぶ!

「わかりました! 」

 訳あって化粧にミニスカ姿、いわゆる女装をしている俺は、身震いしないよう極力普段と変わらぬ呼吸をするよう努めながら、新武器と言うか初めて手にする武器、緑色の籠手を装備している左腕を前方に伸ばすとそれを右手で下から支える構えを取る。
 どの通路も途中で湾曲しているため奥まで見えない。しかし松明によって伸びた影により、正面と右の通路のすぐ近くにまで敵が迫ってきている事が分かる。
 高鳴る心音。
 そして俺の耳にも迫り来る足音が聞こえ始めた。

 俺は今まで回復役として戦闘中は後方に陣取ってきた。しかし今は違う。誰よりも先頭にいるため、罠を見破れなかったら俺が痛い目にあう。
 敵が現れれば籠手を操り初撃を繰り出し、敵はそんな俺に向かって真っ先に攻撃をしてくる。
 そう、いまの俺は攻撃要員として実戦経験を積むためダンジョン内にいるのだ。
 でもそれは俺としては本望であった。男として生まれたからには、好きな女の子を守りたい。それは男子なら皆んながいだくであろう願望。

『グルルルルゥ』

 正面の道から現れたそいつは、俺の太腿ぐらいの厚みがある巨大なバトルアックスを担ぐオーガ。オーガは俺を見据えソウルリストを確認すると、俺の肌がピリピリと振動する程の咆哮を上げた。
 別の道からも現れる。そいつは冒険者から剥ぎ取ったものを身につけているのか、その鍛えられた分厚すぎる胸板に前掛けをするようにして、デコボコの鉄板を宛てがい紐で身体とを結びつけ固定させていた。またその岩石のような拳には、柄の長いポールアックスが握り込まれている。

『ドンッ! 」

 そいつらが同時に動いた。奴らは巨体なうえに重量のある武器や防具を装備している。そのため奴らが地を踏みしめるたびにドスドス地面が揺れる。

 とまぁ、こんな感じでこのダンジョンに入ってから、俺たちは主にオーガや巨大な蟻たちと戦闘を繰り返しているのだけどーー

「あははっ、私にガンを飛ばすなんて命知らずね! 」

 後方から聞こえるアズの高笑い。
 そして放たれた一本の闇ツララが、俺のそばを横切りバトルアックスを振りかぶっていたオークの顔面に吸い込まれるようにして直撃、黒き霧へと還す。
 続いて俺の前に飛び出す陰一つ。後方に控えていた真琴だ。

「ユウト、なんだかあいつの挙動が不自然な気がするんだ! だからここはボクに任せて! 」

 俺が返答を発する間も無く繰り出される掌底突き!
 そうしてもう一体の鎧を身につけたオークは、いつの間にか五メートルぐらいまで伸びるようになっている真琴の掌底突きにより、鉄板ごと胸元に穴を空けた。

 そう、このような流れ、実はさっきからずっと続いていたりする。
 喧嘩を売られたら買う好戦的なアズに、俺に対して過保護すぎる真琴。
 つまりえーと、俺の出番は今のところなしである。

 しかも現在戦闘に参加せず後ろからついて来ているアズの専属メイドであるクロさんは、大勢の男相手に一人で無双する強さだし、リアさんの強さは未知数だけど別人格の七番目さんはこの中で一番強い存在のような気もする。
 ……このパーティーには初めて武器を手に入れた俺のような戦力は、必要ではないのかもしれない。

「御主人様、お腹空いた」

 気がつけば視線を落としてしまっていた俺の傍らに、着物姿に見た目幼女であるセンジュが立っていた。センジュは物欲しそうな表情で見上げながら、俺のスカートの裾を引っ張っている。

「俺を必要としてくれてるのは、お前だけなのかもしれないね」

「御主人様落ち込んでる? ならセンジュ、ナデナデしてあげる」

「えっ? センジュが俺の心配をしてくれている!? センジュはなんて良い子なんだ! 」

「センジュ良い子、だから早く白濁液ちょうだい。いっぱいちょうだい」

「ああ、たらふく食べて大きくなるんだよ」

 センジュに白濁液を食べさせながらに切実に思う。
 早くこのダンジョンから抜け出して、いつもの学生服に着替えたいと。
 しかし迷宮王国ラビリザード、まさか歩いていたらダンジョンに遭遇する場所だったなんて、奇想天外もいいとこ過ぎです!


 ◆


 俺たちは迷いの森を抜けたあと、遂に旅の終着点であるダンジョン迷宮王国にたどり着いていた。
 巨大ダンジョン、迷宮王国ラビリザード。
 五千年以上前からある最古のダンジョンで、他のダンジョンを吸収しながら今もなおその大きさを増していっている特殊ダンジョン。

 どんなところなんだろうと多少は身構えていたのだけど、実際に入ってみると迷宮内は普通に外、延々草原が広がり太陽がサンサンと降り注ぎ、そしてちゃんと風も吹いている外界となんら変わらない場所であった。

 ここって本当にダンジョンの中なんだろうか?

「ユウト、どしたの? 」

 紺のブレザーにショートパンツ姿である幼馴染みでボクっ娘の真琴は、俺の前に回り込むと後ろ手に豊満な胸を強調するような形で上体をこちらに倒す。

「いや、ここがダンジョンの中に見えないなと」

 そこで俺の腕が引っ張られ、小さな柔らかな感触が二の腕に触れてくる。
 ゴスロリ服に王冠を足したスタイルの見た目美少女中学生であるアズが、俺の腕に身体ごと引っ付いてきたのだ。

「女狐! お前は唐突に何をしているのだ! 」

 険しい表情の真琴の問いに、俺の腕に小さな双丘をぷにぷに押し付けたり離したりしているアズがせせら笑う。

「あははっ、決まってるでしょ! 胸を押し付けているのよ」

「なっ、今すぐやめるんだ! ユウトが嫌がってるだろ! 」

「そう? ユウトはまんざらでもなさそうだけど? 」

 その言葉を受け真琴の鋭い眼光が、突如俺へと向けられる。
 そして真琴は一瞬で俺の表情を読み取り解析すると、棘のような視線を俺に向かい送り始めた。

「え? いや真琴、急に女の子に抱きつかれたら、男なら誰だってびっくりするよ! そう、これはびっくりしている表情なんだからね! 」

念のため口元の緩みを引き締める。

「ふーん」

 真琴のジト目。
 正直これ以上は目を合わせられないので、視線をアズへと向ける。

「それよりさ、アズ、なんでその、唐突に胸を押し付け始めたわけ? 」

「それはだって、真琴がユウトに胸をアピールしたでしょ? そういう流れなのかと思って」

 そのアズの言葉を受けた真琴の顔が、真っ赤に染まっていく。

「え? ……あっ、ボクは決してそんな意図でしたのではなくて、前屈みになるのはいつものクセで……」
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