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ゼス王国編
123.7 魔貴族を尾行せよ
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翌朝。
夜の間は何もなかったようですが、朝になると河を覗き込む魔族が複数見えました。
西の国も北の国の魔族も見えますが、少し見た目が違いますね。
西の国の魔族はトビーと同じく赤い角膜(黒目)に黒い結膜(白目)の眼をしており、皮の腰布を巻いた我々の知る魔人族の様相をしています。
しかし北の国の魔族は今のフィディックと同じように赤い角膜に白い結膜の眼をした魔人が三割程。
しっかりとした人間のような整った服を着ており、今フィディックがあの場にいても不自然ではないように思えますね。
浅くなった河を恐る恐る覗き込んでいるようですが、ヒュドラに襲われるかと懸念しての事でしょう。
辺りにもヒュドラの肉片が飛び散っているはずですので、死んでいる事はいずれわかるでしょう。
もしヒュドラが居ないとわかれば彼等はどうするんでしょうか。
西と北の国を行き来できるわけですからね。
できる事なら北の国の魔族を一人捕まえたいところですが危険ですしね。
下手をすれば戦う事になりますし、殺してしまってはディミトリアス大王も黙ってはいないでしょう。
昨日渡った陸地に向かってどちらも何人かずつ歩き出しましたね。
両国というわけではないでしょうがお互いの情報交換をするといったところでしょう。
どちらの魔人族もお互いの国に移動すればすぐに見つかってしまうでしょうから話をするだけで終わりそうな気もします。
しかしこのままでは身動きが取れませんね。
彼等が居なくなるまではここで待機するしかありませんか。
そう思っていたらこの日一日中魔人族が河の側におり、我々は移動する事ができません。
仕方なくこの日は休息日とし、焚き火をせずにヒートの魔石で調理をしてもらいました。
野草は大量に摘んでありますし、ヒュドラの肉も大量にありますからね。
そして実は果実も途中で採れたんですよ。
せっかくですから朱王様から頂いた炭酸水製造容器を使ってジュースでも飲みましょう。
しゅわしゅわとした炭酸が喉に刺激を与えてくれてとても美味しいですよね。
トビーは最初この刺激に驚いていましたが、甘くて美味しいジュースを気に入ってくれているようです。
そして音量はそれ程高くはできませんでしたが映画を見て時間を潰しました。
時々河の方を確認しながら映画を楽しみましたが、午後にはさらに魔人族が増えているくらいでした。
夜になる頃には魔人族の数も少なくなっていましたが、どうやら見張りが数名残っていますね。
これでは夜も移動できませんか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから八日間は移動する事ができませんでした。
まぁ食料はまだまだありますので何とでもなるのですが、その八日目にお会いしたい方がいらっしゃったようです。
それは魔貴族の方です。
たぶん軍団長クラスと思われる二名を引き連れた男性の方ですね。
ただこのまま会いに行っても戦闘にならないという保証はありません。
「我々はあの方を隠れて追います。トビーは危険ですのでこの後西の国へお戻りください」
「あれはきっと魔貴族様だぞ!? 大丈夫なのか!?」
「ご心配ありがとうございます。我々の目的はディミトリアス大王への謁見ですので、魔貴族の方に着いて行けば北の大王領に入れる可能性が高いですからね。ここまで案内ありがとうございました」
「こっちこそ毎日食事を作ってもらってありがとう。この服だって…… 絶対に、絶対に生きて帰ってこいよな!?」
「ええ、もちろんです。帰って来たらまた一緒に食事をしましょう」
「トビー。お前こそ魔獣にやられて死ぬんじゃないぞ」
「うっ…… オレだって魔人の端くれだからな。そう簡単に死なねーよ!」
「無理しないでくださいトビー」
「泣いてもいいんですよトビー」
「泣くか!!」
別れを告げてトビーを降ろす準備をしようとしましたが、自力で降りるとの事でしたので我々は魔貴族に意識を集中しましょう。
彼等が飛び立ったら我々はその遥か上空から後を追う事にします。
ヒュドラの肉片なども確認してどうやらそろそろ飛び立つようです。
彼等は南東方向に飛び立ち、我々も同時に飛行装備を広げて空へと舞い上がります。
「それではトビー、お元気で!」
「おう! 気を付けてな!」
トビーに手を振って、魔族の方々が魔貴族の方を向いている間に上空へ向かいます。
地上にいる魔人達が判別できなくなるまで上昇し、魔貴族達を追います。
双眼鏡がありますので見失わない限りは大丈夫でしょう。
ここで魔獣に会ったらお終いですが、高高度を飛行していれば襲われる事もないはずですしね。
今は冬が近いですし太陽の位置も考えながら飛ぶ必要がありますか。
魔貴族はゆっくりと飛んでいますのでこちらも追うのが楽ですね。
陽が傾いて来たところで彼等は地面へと降りたようです。
食料の調達でもするのでしょうね。
魔貴族の方を残して二人が狩りに向かったようです。
我々は彼等の場所を把握しましたので、暗くなり次第ある程度離れた位置に降りましょうか。
魔貴族の部下二名が獲物を捕まえて来て調理を始めましたね。
やはり血抜きをして皮を剥いで焼くだけの調理とは言えない食事のようですね。
彼等が食事を始めましたし、空もだいぶ暗くなりましたのでそろそろ地上に降りましょう。
魔貴族達のいた位置から1キロ程離れた位置、魔貴族達の風下側に降りて野営地を取る事にしました。
獲物を狩りに行っても良かったのですが、今夜は大事をとって非常食を調理してもらいます。
あちらから見つかっては元も子もありませんからね。
周辺から野草を摘んで、干し肉で出汁を取った簡単なスープでしたが、レイヒムの一工夫でこのお手軽料理も絶品でした。
明日は魔貴族達よりも早い時間に準備を済ませなければいけませんので、食事を摂ったらすぐに寝てしまいましょう。
今夜は念の為私とフィディックで見張りをします。
レイヒムでは彼等の攻撃に反応できないでしょうからね。
もしかしたらフィディックでも厳しいかもしれませんが頑張ってもらいましょう。
朝5時には起きて準備を始めましたが冬が近い事もあってまだ外は暗いですね。
朝食を摂ってテントや荷物をまとめているうちに明るくなってきました。
昨夜は何事もなかったのですが、今後も細心の注意を払って彼等を追わなければいけません。
しかしここから少し距離がありますからね、ある程度近付いて飛び立つのを待ちましょう。
約500メートル程離れた茂みの中から様子を伺います。
彼等も魔獣を警戒してか拓けた場所に焚き火を焚いて寝ていたようです。
朝食は昨夜の残った肉を焼いて食べるようですね。
あれでは美味しくないでしょうに……
カミン[レイヒムは落ち着いてください。魔貴族の朝食を料理する必要はありません]
レイヒムが今にも飛び出しそうだったのでメールを送っておきました。
さて、彼等はこちらに気付く事なく飛び立ちましたので我々も追いかけますか。
……
なんでしょう……
少し違和感がありますね。
もしかしたら彼等に気付かれているのかもしれません。
まぁ気付いたような素振りは見せませんのでこのまま追わせてもらいますけどね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからまた三日程追い続け、たどり着いたのは魔人族の街でした。
おそらくは追っていた魔貴族の領地だとは思いますが大王領ではなかったのが残念です。
垂直に立った岩山の上に拡がった領地のようで、その中央には石造りの大きな城が建っており、周囲をまた石造りの家々で囲まれています。
そのさらに外側は農地となっているようで、我々の住む王国と同じような領地形態のようです。
岩山の上にある領地であれば陸上の魔獣の襲撃は防げますから安全なのかもしれませんね。
空からの襲撃に備えて見張りもいるでしょうから、一旦ここから離れて地上から近付きましょう。
およそ10キロ程離れた位置に降り立ち、周囲を警戒しながら移動を開始します。
あちらの領地内を確認できる位置となれば山の上しかありませんが、火を起こせばすぐに見つかってしまうでしょう。
領地から程近い山に向けて歩き出しましたが、見つからないようにと距離を取りましたのでなかなかに時間が掛かりました。
平地を歩けばもっと早かったんですけどね。
領地の外縁部から丸見えですから山の木々が生い茂った獣道を歩るく事にしたのです。
途中で野草や木の実などを摘みながら歩き、目的の山まで着く前にこの日は野営しました。
すでに辺りは薄暗くまだここからは距離がありますので問題はないでしょう。
マーリンとメイサ、フィディックに獲物を捕まえて来てもらって食事にします。
今夜はフェザックという野鳥をマーリンが捕まえて来てくれました。
大きな体をした鳥ですが木の実を好んで食べる鳥ですので、肉に果実のような風味があってとても美味しいんです。
まぁレイヒムが調理してくれますのでどの食材でも美味しいんですけどね。
味の方は風味豊かで肉も柔らかく、塩焼きした肉に果実のペーストが良く合います。
スープにもフェザックの肉を使う事でフルーティな香りが歯応えを残した野草の青臭さを包み込み、丁寧に育てられた甘味のある野菜を食べているような感覚に捉われました。
やはり野草は野菜に比べると青臭く、甘みが無くて苦味が強い傾向にありますからね。
ここしばらく野菜を食べていませんでしたのでとても嬉しい味となりました。
時刻は三時。
まだ暗いうちに目を覚まして移動を開始します。
見張りの目が届かない暗いうちに目的の場所へと向かいましょう。
飛行装備を広げて空から向かいました。
領地からも1キロ以上離れた山ですので見つかる事もないでしょう。
しかし夜の飛行は少し怖いですね。
ほぼ視界がありませんのでどこを目指していいかわかりません。
そんな時はリルフォンの出番です。
朱王様から組み込んでもらった暗視機能を使って夜目を強化します。
直接視野に脳内視野の補正を掛けているそうですが、どうなっているのかよくわかりません。
真っ暗な風景が夕方のような少し薄暗い程度までは視界を確保できますのでとても便利です。
これなら夜に貴族領に潜り込んでも平気な気もしますがさすがに危険過ぎますか……
あっという間に目的の山に到着しました。
少し山の地形を確認して野営できそうな場所を探します。
木々に隠れた位置で平らな場所、空から見てもわからないところがいいですね。
少し探したらありました。
大きな岩が隣の岩にのし掛かるように傾いた場所です。
地面も平らな岩ですし、周辺も木が生えているので中も見えません。
この隙間にテントを設営しましょう。
太陽が昇り、空が明るくなるまでに準備を終えて朝食を摂りました。
フィディックには双眼鏡を渡して領地を見てもらい、私は朱王様に連絡したいと思います。
毎日朝に定時報告してますし、朱王様をミリー様が起こしに来てしまいますからね。
内容は手短に済ませる必要があります。
ただ私だけだと皆さんに怒られてしまいますからね。
グループで通話するんですが。
「コール…… おはようございます、朱王様。本日のご報告をさせて頂きます」
『おはようカミン。マーリンとメイサは少し眠そうだね。レイヒムもおはよう。フィディックは…… 見張りかな?』
「「「「おはようございます朱王様!」」」」のあとには我先にと皆さん話出しましたけど報告できないじゃありませんか。
「皆さん、報告の為の通話ですので少し静かに。魔貴族はおそらく自分の領地、貴族領へと戻ったようです。現在その領地が見える位置に隠れておりますが少し気になる事がありました」
『気になる事とはなんだい?』
「魔貴族領内に人間と思しき者がおります」
そうなんです。
はるか上空から確認した際に肌の色を見て不思議に思いましたが、先程フィディックとともに双眼鏡で確認した際に確信しました。
魔貴族の領地内に人間の眼をした者が住んでいたのです。
『それは驚くべき事だね! もし彼等が人間と共存しているんだとすれば私達の目的は果たされるかもしれない』
朱王様が嬉しそうな表情をしてくださいました。
今日はとてもいい日となりそうです。
「はい。彼等は奴隷といった様子では無さそうですが、まだ判断はつきません。このまま数日ここで調査しますがよろしいですか?」
『危険がない限りはカミンの判断に任せる。もし彼等が危害を加えるようであれば即撤退。命を落とさないよう戦闘も許可する。ただし相手を殺す事はないように頼むよ』
「畏まりました。今後も良い報告が出来るよう努力します」
『頼むよ皆んな。期待してる!』
「はい。では失礼致します」
通話を終えましたがマーリンとメイサは大喜び。
あまり騒がないでくださいよ。
朱王様が喜んでくれたのが嬉しいのはわかりますが、ここは敵地かもしれないんですよ?
まぁ距離があるので大丈夫だとは思いますがね。
それでは今後しばらくこの領地の方々がどのような生活を送っているのか調べてさせて頂きましょう。
朱王様が望む形で彼等が生活している事を心から願いますよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:カミン
年齢:27歳
レベル:10
魔力量:95,373ガルド
職業:クイースト王国朱王邸執事
魔力色:青紫色
【武器】
魔剣ティルヴィング(片手直剣)
魔力量:4,000ガルド
エンチャント:爆水
精霊:ウィンディーネ
下級魔法陣:ウォーター
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:アクア
名前:マーリン
年齢:25歳
レベル:10
魔力量:81,916ガルド
職業:クイースト王国朱王邸使用人
魔力色:赤紫色
【武器】
魔剣(片手直剣)
魔力量:3,000ガルド
エンチャント:火焔
精霊:サラマンダー
下級魔法陣:ファイア
貴族用ドロップ(改造)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:インフェルノ
名前:メイサ
年齢:25歳
レベル:10
魔力量:83,793ガルド
職業:クイースト王国朱王邸使用人
魔力色:緑色
【武器】
魔剣(片手直剣)
魔力量:3,000ガルド
エンチャント:暴風
精霊:シルフ
下級魔法陣:ウィンド
貴族用ドロップ(改造)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:エアリアル
名前:フィディック
年齢:106歳
レベル:6
魔力量:92,534ガルド
職業:クイースト王国朱王邸執事
魔力色:薄水色
【武器】
ミスリル一級品大剣(大剣)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:フラウ
下級魔法陣:アイス
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:ブリザード
名前:レイヒム
年齢:30歳
レベル:8
魔力量:22,816ガルド
職業:クイースト王国朱王邸料理人
魔力色:赤色
【武器】
ミスリル腕輪右用(腕輪)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:シルフ
下級魔法陣:ウィンド
ミスリル腕輪左用(腕輪)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:サラマンダー
下級魔法陣:ファイア
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:ウィンディーネ
下級魔法陣:ウォーター
ミスリルバックル(飛行装備)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:フラウ
下級魔法陣:アイス
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
第4章【ゼス王国編】はこれで終了です。
後半は千尋達がゼス王国にいる間のカミン達の任務を書いてみました。
明日からは第5章【ノーリス王国編】となりますのでお楽しみください。
夜の間は何もなかったようですが、朝になると河を覗き込む魔族が複数見えました。
西の国も北の国の魔族も見えますが、少し見た目が違いますね。
西の国の魔族はトビーと同じく赤い角膜(黒目)に黒い結膜(白目)の眼をしており、皮の腰布を巻いた我々の知る魔人族の様相をしています。
しかし北の国の魔族は今のフィディックと同じように赤い角膜に白い結膜の眼をした魔人が三割程。
しっかりとした人間のような整った服を着ており、今フィディックがあの場にいても不自然ではないように思えますね。
浅くなった河を恐る恐る覗き込んでいるようですが、ヒュドラに襲われるかと懸念しての事でしょう。
辺りにもヒュドラの肉片が飛び散っているはずですので、死んでいる事はいずれわかるでしょう。
もしヒュドラが居ないとわかれば彼等はどうするんでしょうか。
西と北の国を行き来できるわけですからね。
できる事なら北の国の魔族を一人捕まえたいところですが危険ですしね。
下手をすれば戦う事になりますし、殺してしまってはディミトリアス大王も黙ってはいないでしょう。
昨日渡った陸地に向かってどちらも何人かずつ歩き出しましたね。
両国というわけではないでしょうがお互いの情報交換をするといったところでしょう。
どちらの魔人族もお互いの国に移動すればすぐに見つかってしまうでしょうから話をするだけで終わりそうな気もします。
しかしこのままでは身動きが取れませんね。
彼等が居なくなるまではここで待機するしかありませんか。
そう思っていたらこの日一日中魔人族が河の側におり、我々は移動する事ができません。
仕方なくこの日は休息日とし、焚き火をせずにヒートの魔石で調理をしてもらいました。
野草は大量に摘んでありますし、ヒュドラの肉も大量にありますからね。
そして実は果実も途中で採れたんですよ。
せっかくですから朱王様から頂いた炭酸水製造容器を使ってジュースでも飲みましょう。
しゅわしゅわとした炭酸が喉に刺激を与えてくれてとても美味しいですよね。
トビーは最初この刺激に驚いていましたが、甘くて美味しいジュースを気に入ってくれているようです。
そして音量はそれ程高くはできませんでしたが映画を見て時間を潰しました。
時々河の方を確認しながら映画を楽しみましたが、午後にはさらに魔人族が増えているくらいでした。
夜になる頃には魔人族の数も少なくなっていましたが、どうやら見張りが数名残っていますね。
これでは夜も移動できませんか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから八日間は移動する事ができませんでした。
まぁ食料はまだまだありますので何とでもなるのですが、その八日目にお会いしたい方がいらっしゃったようです。
それは魔貴族の方です。
たぶん軍団長クラスと思われる二名を引き連れた男性の方ですね。
ただこのまま会いに行っても戦闘にならないという保証はありません。
「我々はあの方を隠れて追います。トビーは危険ですのでこの後西の国へお戻りください」
「あれはきっと魔貴族様だぞ!? 大丈夫なのか!?」
「ご心配ありがとうございます。我々の目的はディミトリアス大王への謁見ですので、魔貴族の方に着いて行けば北の大王領に入れる可能性が高いですからね。ここまで案内ありがとうございました」
「こっちこそ毎日食事を作ってもらってありがとう。この服だって…… 絶対に、絶対に生きて帰ってこいよな!?」
「ええ、もちろんです。帰って来たらまた一緒に食事をしましょう」
「トビー。お前こそ魔獣にやられて死ぬんじゃないぞ」
「うっ…… オレだって魔人の端くれだからな。そう簡単に死なねーよ!」
「無理しないでくださいトビー」
「泣いてもいいんですよトビー」
「泣くか!!」
別れを告げてトビーを降ろす準備をしようとしましたが、自力で降りるとの事でしたので我々は魔貴族に意識を集中しましょう。
彼等が飛び立ったら我々はその遥か上空から後を追う事にします。
ヒュドラの肉片なども確認してどうやらそろそろ飛び立つようです。
彼等は南東方向に飛び立ち、我々も同時に飛行装備を広げて空へと舞い上がります。
「それではトビー、お元気で!」
「おう! 気を付けてな!」
トビーに手を振って、魔族の方々が魔貴族の方を向いている間に上空へ向かいます。
地上にいる魔人達が判別できなくなるまで上昇し、魔貴族達を追います。
双眼鏡がありますので見失わない限りは大丈夫でしょう。
ここで魔獣に会ったらお終いですが、高高度を飛行していれば襲われる事もないはずですしね。
今は冬が近いですし太陽の位置も考えながら飛ぶ必要がありますか。
魔貴族はゆっくりと飛んでいますのでこちらも追うのが楽ですね。
陽が傾いて来たところで彼等は地面へと降りたようです。
食料の調達でもするのでしょうね。
魔貴族の方を残して二人が狩りに向かったようです。
我々は彼等の場所を把握しましたので、暗くなり次第ある程度離れた位置に降りましょうか。
魔貴族の部下二名が獲物を捕まえて来て調理を始めましたね。
やはり血抜きをして皮を剥いで焼くだけの調理とは言えない食事のようですね。
彼等が食事を始めましたし、空もだいぶ暗くなりましたのでそろそろ地上に降りましょう。
魔貴族達のいた位置から1キロ程離れた位置、魔貴族達の風下側に降りて野営地を取る事にしました。
獲物を狩りに行っても良かったのですが、今夜は大事をとって非常食を調理してもらいます。
あちらから見つかっては元も子もありませんからね。
周辺から野草を摘んで、干し肉で出汁を取った簡単なスープでしたが、レイヒムの一工夫でこのお手軽料理も絶品でした。
明日は魔貴族達よりも早い時間に準備を済ませなければいけませんので、食事を摂ったらすぐに寝てしまいましょう。
今夜は念の為私とフィディックで見張りをします。
レイヒムでは彼等の攻撃に反応できないでしょうからね。
もしかしたらフィディックでも厳しいかもしれませんが頑張ってもらいましょう。
朝5時には起きて準備を始めましたが冬が近い事もあってまだ外は暗いですね。
朝食を摂ってテントや荷物をまとめているうちに明るくなってきました。
昨夜は何事もなかったのですが、今後も細心の注意を払って彼等を追わなければいけません。
しかしここから少し距離がありますからね、ある程度近付いて飛び立つのを待ちましょう。
約500メートル程離れた茂みの中から様子を伺います。
彼等も魔獣を警戒してか拓けた場所に焚き火を焚いて寝ていたようです。
朝食は昨夜の残った肉を焼いて食べるようですね。
あれでは美味しくないでしょうに……
カミン[レイヒムは落ち着いてください。魔貴族の朝食を料理する必要はありません]
レイヒムが今にも飛び出しそうだったのでメールを送っておきました。
さて、彼等はこちらに気付く事なく飛び立ちましたので我々も追いかけますか。
……
なんでしょう……
少し違和感がありますね。
もしかしたら彼等に気付かれているのかもしれません。
まぁ気付いたような素振りは見せませんのでこのまま追わせてもらいますけどね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからまた三日程追い続け、たどり着いたのは魔人族の街でした。
おそらくは追っていた魔貴族の領地だとは思いますが大王領ではなかったのが残念です。
垂直に立った岩山の上に拡がった領地のようで、その中央には石造りの大きな城が建っており、周囲をまた石造りの家々で囲まれています。
そのさらに外側は農地となっているようで、我々の住む王国と同じような領地形態のようです。
岩山の上にある領地であれば陸上の魔獣の襲撃は防げますから安全なのかもしれませんね。
空からの襲撃に備えて見張りもいるでしょうから、一旦ここから離れて地上から近付きましょう。
およそ10キロ程離れた位置に降り立ち、周囲を警戒しながら移動を開始します。
あちらの領地内を確認できる位置となれば山の上しかありませんが、火を起こせばすぐに見つかってしまうでしょう。
領地から程近い山に向けて歩き出しましたが、見つからないようにと距離を取りましたのでなかなかに時間が掛かりました。
平地を歩けばもっと早かったんですけどね。
領地の外縁部から丸見えですから山の木々が生い茂った獣道を歩るく事にしたのです。
途中で野草や木の実などを摘みながら歩き、目的の山まで着く前にこの日は野営しました。
すでに辺りは薄暗くまだここからは距離がありますので問題はないでしょう。
マーリンとメイサ、フィディックに獲物を捕まえて来てもらって食事にします。
今夜はフェザックという野鳥をマーリンが捕まえて来てくれました。
大きな体をした鳥ですが木の実を好んで食べる鳥ですので、肉に果実のような風味があってとても美味しいんです。
まぁレイヒムが調理してくれますのでどの食材でも美味しいんですけどね。
味の方は風味豊かで肉も柔らかく、塩焼きした肉に果実のペーストが良く合います。
スープにもフェザックの肉を使う事でフルーティな香りが歯応えを残した野草の青臭さを包み込み、丁寧に育てられた甘味のある野菜を食べているような感覚に捉われました。
やはり野草は野菜に比べると青臭く、甘みが無くて苦味が強い傾向にありますからね。
ここしばらく野菜を食べていませんでしたのでとても嬉しい味となりました。
時刻は三時。
まだ暗いうちに目を覚まして移動を開始します。
見張りの目が届かない暗いうちに目的の場所へと向かいましょう。
飛行装備を広げて空から向かいました。
領地からも1キロ以上離れた山ですので見つかる事もないでしょう。
しかし夜の飛行は少し怖いですね。
ほぼ視界がありませんのでどこを目指していいかわかりません。
そんな時はリルフォンの出番です。
朱王様から組み込んでもらった暗視機能を使って夜目を強化します。
直接視野に脳内視野の補正を掛けているそうですが、どうなっているのかよくわかりません。
真っ暗な風景が夕方のような少し薄暗い程度までは視界を確保できますのでとても便利です。
これなら夜に貴族領に潜り込んでも平気な気もしますがさすがに危険過ぎますか……
あっという間に目的の山に到着しました。
少し山の地形を確認して野営できそうな場所を探します。
木々に隠れた位置で平らな場所、空から見てもわからないところがいいですね。
少し探したらありました。
大きな岩が隣の岩にのし掛かるように傾いた場所です。
地面も平らな岩ですし、周辺も木が生えているので中も見えません。
この隙間にテントを設営しましょう。
太陽が昇り、空が明るくなるまでに準備を終えて朝食を摂りました。
フィディックには双眼鏡を渡して領地を見てもらい、私は朱王様に連絡したいと思います。
毎日朝に定時報告してますし、朱王様をミリー様が起こしに来てしまいますからね。
内容は手短に済ませる必要があります。
ただ私だけだと皆さんに怒られてしまいますからね。
グループで通話するんですが。
「コール…… おはようございます、朱王様。本日のご報告をさせて頂きます」
『おはようカミン。マーリンとメイサは少し眠そうだね。レイヒムもおはよう。フィディックは…… 見張りかな?』
「「「「おはようございます朱王様!」」」」のあとには我先にと皆さん話出しましたけど報告できないじゃありませんか。
「皆さん、報告の為の通話ですので少し静かに。魔貴族はおそらく自分の領地、貴族領へと戻ったようです。現在その領地が見える位置に隠れておりますが少し気になる事がありました」
『気になる事とはなんだい?』
「魔貴族領内に人間と思しき者がおります」
そうなんです。
はるか上空から確認した際に肌の色を見て不思議に思いましたが、先程フィディックとともに双眼鏡で確認した際に確信しました。
魔貴族の領地内に人間の眼をした者が住んでいたのです。
『それは驚くべき事だね! もし彼等が人間と共存しているんだとすれば私達の目的は果たされるかもしれない』
朱王様が嬉しそうな表情をしてくださいました。
今日はとてもいい日となりそうです。
「はい。彼等は奴隷といった様子では無さそうですが、まだ判断はつきません。このまま数日ここで調査しますがよろしいですか?」
『危険がない限りはカミンの判断に任せる。もし彼等が危害を加えるようであれば即撤退。命を落とさないよう戦闘も許可する。ただし相手を殺す事はないように頼むよ』
「畏まりました。今後も良い報告が出来るよう努力します」
『頼むよ皆んな。期待してる!』
「はい。では失礼致します」
通話を終えましたがマーリンとメイサは大喜び。
あまり騒がないでくださいよ。
朱王様が喜んでくれたのが嬉しいのはわかりますが、ここは敵地かもしれないんですよ?
まぁ距離があるので大丈夫だとは思いますがね。
それでは今後しばらくこの領地の方々がどのような生活を送っているのか調べてさせて頂きましょう。
朱王様が望む形で彼等が生活している事を心から願いますよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:カミン
年齢:27歳
レベル:10
魔力量:95,373ガルド
職業:クイースト王国朱王邸執事
魔力色:青紫色
【武器】
魔剣ティルヴィング(片手直剣)
魔力量:4,000ガルド
エンチャント:爆水
精霊:ウィンディーネ
下級魔法陣:ウォーター
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:アクア
名前:マーリン
年齢:25歳
レベル:10
魔力量:81,916ガルド
職業:クイースト王国朱王邸使用人
魔力色:赤紫色
【武器】
魔剣(片手直剣)
魔力量:3,000ガルド
エンチャント:火焔
精霊:サラマンダー
下級魔法陣:ファイア
貴族用ドロップ(改造)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:インフェルノ
名前:メイサ
年齢:25歳
レベル:10
魔力量:83,793ガルド
職業:クイースト王国朱王邸使用人
魔力色:緑色
【武器】
魔剣(片手直剣)
魔力量:3,000ガルド
エンチャント:暴風
精霊:シルフ
下級魔法陣:ウィンド
貴族用ドロップ(改造)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:エアリアル
名前:フィディック
年齢:106歳
レベル:6
魔力量:92,534ガルド
職業:クイースト王国朱王邸執事
魔力色:薄水色
【武器】
ミスリル一級品大剣(大剣)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:フラウ
下級魔法陣:アイス
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
上級魔法陣:ブリザード
名前:レイヒム
年齢:30歳
レベル:8
魔力量:22,816ガルド
職業:クイースト王国朱王邸料理人
魔力色:赤色
【武器】
ミスリル腕輪右用(腕輪)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:シルフ
下級魔法陣:ウィンド
ミスリル腕輪左用(腕輪)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:サラマンダー
下級魔法陣:ファイア
貴族用ドロップ
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:ウィンディーネ
下級魔法陣:ウォーター
ミスリルバックル(飛行装備)
エンチャント:魔力量2,000ガルド
精霊:フラウ
下級魔法陣:アイス
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
第4章【ゼス王国編】はこれで終了です。
後半は千尋達がゼス王国にいる間のカミン達の任務を書いてみました。
明日からは第5章【ノーリス王国編】となりますのでお楽しみください。
応援ありがとうございます!
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