戦国征武劇 ~天正弾丸舞闘~

阿澄森羅

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第五章

第33話 「お主らクズ共を閻魔大王に送り届けるのだ」

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「おぉい! 俺だぁ、吾平ごへいだ!」

 城門の上に向けて怒鳴れば、物見役と思しき中年男が顔を出す。

「戻ったかよ、吾平。あー……他の連中は?」
「村に残って、ちょっとばかり呑んでくるとよ」
「ったく、しょうがねぇな。で、そいつらは何なんだ」

 物見の視線が、吾平の背後にいる集団に向けられる。

「こちらは京で活動する我らの仲間で、えー……穂積孫三郎ほづみまござぶろう殿とその従者。右近うこん様に言われて……伊勢の、いや近江の豪商の、えー、あぁそう、跡取り息子だ。とにかくまぁ、そいつをかどわかしてきたんだと。村からきた不審者の報告は……あれは穂積殿の一行のことで、大事ない」

 後ろからのささやきに助けられ、吾平は所々で怪しさを滲ませながらも、教えられた文言を述べる。
 紹介された孫三郎は提灯ちょうちんを持ち上げ、ゆるゆると煙管きせるくゆらせている自分の姿と、いかにも悪党らしい凶相を作った静馬しずまの顔を物見に晒しながら声を張る。

「ガキのついでに、女中も二人さらってきたでな。これは皆への手土産だ」
「何と、女がいるのか!」

 物見の食い付きに応え、孫三郎は提灯でユキとアトリの顔を照らした。

「ほっほう、こいつはまた……おぅ! サッサと門を開けろぃ!」

 物見が下にいるらしい誰かに怒鳴ると、それほど待たされることなく門が開かれた。
 冷や汗で着物とふんどしを湿らせた吾平に続き、孫三郎と静馬は篝火かがりびの焚かれた城内に入る。
 想像以上に整えられた構えを認め、静馬は知らず知らず奥歯を噛み締めていた。

 荒縄で縛り上げられた三人は、縄の端を握った静馬に引かれてヨロヨロと進む。
 弥衛門やえもんは髪型を商家の男児っぽく結い直し、ユキはアトリの予備の服でも借りたのか女の旅装で、アトリも忍装束からいつもの格好に戻っている。

「へっへっへ……近くで見ると、ますます上玉じゃねぇか」

 門の上の物見台から急いで降りてきた男が、ユキとアトリを足元から顔へとめ上げて言う。
 祭りの気配を察知したのか、見回り役や宿舎で呑んだり休んだりしていた盗賊達が、続々と城門前の曲輪くるわに集合してくる。

「何? 女? 女! やっていいのか? やっていいんだな!」
「いやっはぁ! 商売女じゃねぇのは、だいぶ久々だなぁ」
「最近は持ち帰りがねぇからな! くぁーっ!」

 口々に下品な科白せりふを垂れ流しながら笑っているが、その目はどいつもこいつもギラついていて本気だ。
 吾平らの隊もそうだったが、二十歳にも達していないだろう若い連中が目立つ。

「俺ぁそっちの乳のデカい方な!」
「フザケてんなテメェ! わしが先だ!」
「落ち着け野郎共、とりあえずオレが一番手だって」
「あー、じゃあもう、そっちの細いのでいいよ」

 盗賊達はユキとアトリを値踏みし、取り合いを開始したようだ。
 だが話題の中心である二人は、小声で暢気のんきに言葉を交わしている。

「どうしましょう姫様、私の評価が高いです」
「喜ぶでない」

 城内の様子が緩み切ったと見た孫三郎は、静馬に耳打ちした。

「そろそろかの」
「ああ、始めるか」

 静馬は自然な動作で腰の銃を抜き、孫三郎は懐から火縄を取り出すと、それを腕に巻いて煙管から火を移す。
 うつむきっぱなしだった吾平は、二人の早業を目の当たりにすると、意を決したように顔を上げて叫ぶ。

「おっ、お前らよく聞け! 実はコイツらぁばっ――」
「遅いわ、臆病者めが」

 孫三郎に銃床で後頭部を殴りつけられ、吾平は最後まで言い終わらずに昏倒こんとうした。
 騒ぎが起こりつつあることに、周辺の数人が勘付く。

「んぉ? 何してんだぁ?」
「いや、大したことじゃない。女の他にも届け物があってな」
「へぇ……酒でも持ってきてくれたんかぁ?」
「いいや、違うな。お主らクズ共を閻魔大王えんまだいおうに送り届けるのだ」

 静馬は傲然と言い放ち、続けて銃弾を放つ。
 ほろ酔い加減の男は顎を撃ち砕かれ、歯と血涎ちよだれを散らしながら転倒した。

「なっ――クソァ! 罠だ、罠だぞっ! 殺せコイツらっ!」

 最初に対応した物見役が、激高した調子で叫ぶ。

「ほぁ? アナって?」

 それに間抜けな反応を見せていた奴が、孫三郎の一撃で腹に大穴を穿うがたれる。
 唐突な銃声の連続によって、場は大混乱に陥っている。
 しかし一矢万矢いっしばんしの面々もるもの、それなりの場数は踏んでいるらしく、三々五々さんさんごごに得物を持ち出して反撃を開始してきた。

 ユキとアトリと弥衛門の三人は、力を入れれば即解けるよう結ばれたいましめから脱出。
 そして、うつ伏せに倒れている吾平が背負う行李こうりから、自分たちの武器を取り出す。

「全員ブッ殺せやぁ!」
「フザケんなボケが、殺すぞ! 女共は殺すな勿体ねぇ!」

 この期に及んでも女をどうにかしようとする、その下世話な根性は見上げたものだ。
 変に感心しながら銀色の弾を込めた静馬は、長弓で射掛けてきた相手に撃ち返す。
 やぐらに登ったその男は自分の前に木製の盾を置いていたが、射貫いぬきはそれを撃ち砕き、男を問答無用で地面に突き落した。

「まずは銃だ! 銃使いを潰せぃ!」

 留守居の大将らしい髭面の男が現れ、刀をデタラメに振るいながら怒鳴っている。
 最前まで眠っていたらしく、寝巻きに兜だけかぶったバラバラな装いは滑稽こっけいそのものだ。
 だが手下共は誰も笑わず下知げちに従い、静馬と孫三郎に攻撃を集中させ始めた。

「中々どうして、訓練が行き届いとるの」

 櫓に登ろうとしていた男を撃ち、梯子から墜落させながら孫三郎が言う。

「好きに暴れ回るには、大名の庇護ひごだけでなく実力も必要ということだな」

 片鎌槍かたかまやりを構えて突進してきた男の腹に至近距離から命中させ、強制的に正座させながら静馬が返す。
 篝火に照らされた曲輪を見渡せば、かなりの混戦模様が目に入る。

 ユキと弥衛門は門番用の小屋らしい建物の陰へと隠れ、静馬と孫三郎のいる城門付近に向かおうとする連中に、ユキが矢を射ては牽制している。
 刀を手にした二人を素手で相手しているアトリは、多分放って置いても平気だろう。
 それでは大将を仕留めるとするか、と静馬は乱戦の中を走り出す。

「孫三郎、援護を頼むっ!」
「おう!」

 弾を込めながら虎口ここうを駆け登った静馬は、大将の陣取る一段上の曲輪くるわへと踊り込んでいった。
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