戦国征武劇 ~天正弾丸舞闘~

阿澄森羅

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第六章

第42話 「気を付けろ、また矢の雨が来るっ!」

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「それでは、一矢万矢いっしばんしが名の由来、とくと堪能たんのうするがいい」

 そう告げた右近うこんは、ユキに向けて連弩れんどを放ちながら、孫三郎まござぶろうの方へと歩を進める。
 八寸ほどの短く細い矢が立て続けに、一度に数本がまとまって射出された。

「姫様あぶっ――ぁがっ!」

 アトリが前に出て叩き落そうとするが、常人離れした反応速度を持ってしても、全てを防ぎ切ることはできない。
 左の腹と左腕に矢を受け、アトリの表情がゆがむ。

 静馬の悲観的な予想は、不幸にも大正解だった。
 連弩れんどには大きく分けて連射式と多発式があり、どちらも一長一短。
 しかし右近が持ち出したのは、双方の機構を組み込んだ異常な代物だ。

「おのれっ!」

 ユキが離れ去る後背に矢を射るが、右近は振り向きも立ち止まりもせず、悠然ゆうぜんと刀の峰で叩き落とした。
 空かさず二の矢をつがえようとするが、その前に短い矢が雨霰あめあられと射返され、ユキは転がるように退避せざるを得ない。

「連発式ならこちらにも!」

 孫三郎は野辺送のべおくりを構え、迫り来る右近に狙いを定めようとする。
 だが、急に動きを速めた右近は、横合いから孫三郎に斬り付けて射撃を阻止してくる。
 連射式だが一度点火したら止まらないので、斬撃を避けるのに手一杯だった孫三郎は無駄弾を撃たされるだけに終わり、弾の尽きた野辺送りを捨てて刀を抜く。

「とぅりゃ!」

 そこで弥衛門やえもんが、かついでいた銃の一挺を撃って援護に回る。
 しかし右近は銃弾を平然とかわすと、孫三郎の腹に前蹴りを入れて間を取り、弥衛門の方へと駆け寄った。  
 弥衛門は次弾を撃とうとするが間に合わず、手にした銃を右近に蹴り飛ばされ、他の二挺を放り捨てうのてい遁走とんそう

「やはり、ものたぐいじゃないのか……」

 弥衛門の放棄した銃を拾い上げて地面に叩き付け、二挺を立て続けに叩き壊していく右近の姿に見入りながら、静馬しずまは思わず呟いた。
 右近は自分と戦っている時より更に出鱈目でたらめな強さを発揮し、四人を相手に無茶苦茶な戦闘を有利に繰り広げている。

 孫三郎は先程、一矢万矢を壊滅させたようなことを言っていた。
 しかしこの様子だと、右近さえいれば一矢万矢は成立するので、いくら手下を倒しても意味がないのではないか、と思えてくる。

「静馬っ! 何を呆けておるのじゃ!」

 ユキからの叱咤しったに、静馬はハッと我に返る。
 そして自分のやるべきことを思い出し、銃に弾を込め直して右近の姿を追う。



 右近と孫三郎が、激しく切り結んでいるのが見えた。
 大小を共に失った孫三郎は、拾い物の刀で応戦しているようだ。
 文字通り火花を散らす鍔迫つばぜり合いが続いた後、右近は不意に飛び退いて矢を装填そうてんする。

「気を付けろ、また矢の雨が来るっ!」

 孫三郎の警告に、皆が身構える。
 あの攻撃範囲の広さは厄介この上ないし、威力も相当なものだ。

「あれをどうにかしないと、どうにもならんな……」
「ですが、矢の数には限りがあります」

 連弩への対処法を考えながら無意識に独語どくごしていた静馬に、応急手当を終えた様子のアトリが答えた。

「それは――確かに。矢筒は三つか四つ、そして今ので二つを空にしている。あれの脅威もそう長くはない、か」

 アトリが頷き、静馬も頷き返す。

「……走れるか?」
「問題ありません」
「では、二人で囮役おとりやくだな。俺が上に行こう」
「ならば私は、更にその上を」
「行ってどうする。下だ下」

 静馬は城で言えば本丸となる位置の曲輪くるわへ上り、アトリは城門から繋がる死屍累々ししるいるいの曲輪へと下りて行く。
 ユキは果敢に攻撃を仕掛けているが、一本を射れば十本が返ってくる有様なので、盾代わりにしている馬の死体の陰から動けずにいた。

 孫三郎は至近距離から腹に何本も矢を受けていたが、鎖の着込みでもつけているのか、大して効いている様子はない。
 弥衛門の姿は見えないが、どこかに隠れているのだろうか。

 仲間の状況を確認した静馬は、防御用に作られたらしい低い壁を盾にしつつ、アトリに向けて矢を放っている右近を狙い撃つ。
 静馬の攻撃は僅かに外れ、奇襲に気付いた右近は連弩で反撃してくる。

 そして、壁が邪魔になっているのを察知すると、射出の角度を変えて上空から矢が降り注ぐように調節。
 遮蔽物しゃへいぶつに守られていることで油断があった静馬は、右近の臨機応変りんきおうへんな攻めに後れを取る。
 大量の矢を躱し切れず、背に数本の矢を受けてしまった。

「うがっ――ふでぁ!」

 連続してやってきた衝撃と痛みに、思わず声が漏れる。
 背嚢はいのうが何本か食い止めてくれたが、左肩の下辺りと右の尻に一本ずつが突き刺さった。
 幸か不幸か骨は避けられたようだが、いよいよ誤魔化せなくなってきた苦痛に、静馬の全身は粘ついた汗を噴出し始めた。
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