捨てられオメガの幸せは

ホロロン

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「ごめん。怒鳴ったりして」
「こっちこそごめん。そんなプライベートなこと言いたくないもんね」
「そうじゃなくて」

そのとき看護師さんが僕のご飯を持ってきてくれた。
「南さん、少なめだけど起きたばかりだからゆっくり食べてくださいね」
「ありがとうございます」
トレーの上にはお粥と梅干し、お味噌汁、野菜と白身魚のあんかけ、卵豆腐が乗っていた。

「俺も食べてくるわ。じゃあまた」
冴島は僕の顔を見ることなくいなくなってしまった。なんだかぶつぶつ言っていたような気がしたが声が小さくて聞こえなかった。

自分が思っているほどご飯は食べられなかった。まぁ1週間も意識がなかったんだしな。仕方がないか…
「南さん食べられました…って美味しくなかった?」
看護師さんに声をかけられた。

「いえ美味しかったですけど思っていたほど入らなくて…すみません」
「いいのよ。無理しないでね。何かあったらナースコール押してね」
「ありがとうございます」

誰もいなくなった部屋はなんだか寂しかった。冴島はこのままここに居ていいって言ったけど大学はどうしたらって…きっと退学届を出されたんだろうな。もっと違う家に生まれていたら僕は違う運命だったんじゃないだろうか…あーあ幸せになりたい。そういえばここはマッチングで番を見つけられるって言ってたな。僕にも見つかるだろうか?

◇◆◇◆◇◆

あれから1ヶ月が経った。冴島はちょこちょこ様子を見に来てくれるが親のことは何も言われなかった。足はギプスをしているがリハビリのおかげでなんとか松葉杖で歩けるようになった。今日もリハビリが終わって部屋に戻ってきたら1人の男の子が僕の部屋の前で待っていた。

「こんにちは」
そう言って僕の部屋に入ってきたのは可愛い男の子だった。まだ高校生くらいだろうか?俺も急いで挨拶をした。

「こんにちは」
ニコニコとその子は笑って僕をじっと見つめてきた。

「僕ね、昔違う施設にいて、つい最近ここに引っ越してきたんだ。それでここのホーム長の息子さんに会って僕、好きになっちゃったの。お兄さんは知ってるんでしょ?この部屋に何度も入ったりしてるの見たんだけど。ねぇ僕に紹介してよ」
こんなにもストレートに言われて戸惑った。冴島とこの子がもし会って……それが運命だったらどうしよう……そんなことを考えていたら冴島が部屋に入ってきた。

「あっホーム長の息子さんだ。僕、河野 智こうの さとしって言います。ずっと会いたかったんです。僕と付き合ってくれませんか?もしくはヒートの相手でもいいです」
ニコニコと微笑みながら冴島の腕に手を乗せた時だった。

「俺には守りたい人がいるからキミとは付き合えない悪いな。あとここは南の部屋だ。規則に他のオメガの部屋に入るのは禁止と言われなかったか?」
そう言われてごめんなさい。と河野さんは部屋を出ていった。

「南、何か言われなかったか?大丈夫か?」
そう聞かれても大丈夫だよ。リハビリで少し疲れたから寝るね。そう言って俺は布団を被った。お疲れゆっくり休めよ。そう言って冴島は静かに部屋を出ていってしまった。
そうか冴島は守りたい人がいるんだ。オメガなのかもわからないけど大切な存在なのだろう。そう思うと胸がギュッと苦しくなった。僕なんかが冴島を好きになっちゃいけないんだ。そう思って無理やり目を瞑った。どのくらい時間が経ったのだろう。身体が熱くて目が覚めた。

そうか発情期ヒートか……でもこの施設は全ての部屋が防音でできていると教えてもらったから部屋にいれば安心とそれと
「どうしても1人で発情期を過ごすのが辛ければレンタルすることも可能ですから、その時はこのボタンを押してくださいね」
ベットサイドにヒート用と書いてあるボタンがあってその下の引き出しにはディルドやローション、ゴムも用意されていた。でも僕はそれらを無視して抑制剤を飲んでなんとか我慢しようと思ったのだが……

「うぇっ」
気持ち悪い……やっぱり抑制剤が体に合わなかったんだ。吐いても吐いても治ることがない。いつまでトイレにこもってるのかもわからないほどだ。生理的な涙がこぼれ落ちてきた。
「辛い……助けて……」
そこからの記憶は僕にはなかった。

◇◆◇◆◇◆

目が覚めたら冴島の姿が目に入ってきた。
「大丈夫か?」
冴島は心配そうに僕の頭を撫でていた。

「うん……吐き気は治ったみたい」
「悪かったけどちょっと気になって夜中に部屋に行ったらお前トイレで倒れてて」
「抑制剤……合わなかったみたいなんだよね」
「抑制剤?なんで俺じゃダメなのか?」
頭の中がパニックになった。え?何言ってるの?冴島は大切にしたい人がいるんでしょ?それなのに抱きしめられて冴島の胸に顔が押しつけられてるから冴島から森の深い香りがしてきたと同時に身体の奥から熱が湧き上がる感じがした。

「冴島ごめん。僕発情期ヒートだから早く出た方がいいよ。じゃないと……」
その言葉のあとは言えなかった。冴島に唇を塞がれた。
「んっ……ん。さえ…っじま」
開いた唇から舌を入れられ唇を食べられそうなほどの激しいキスに僕は逃げることをやめて受け入れた。こんなにキスが気持ちいいなんて知らなかった。おずおずと冴島の舌に自分の舌を絡ませればキスはもっと深くなる。お互いの唾液を必死に飲み込みながら冴島とのキスを終わらせたくはなかった。どのくらい時間が経ったのだろう?断片的には覚えているのはグズグズに抱き潰された記憶が残っている。今までのセックスはなんだったんだろうと思うほど気持ちが良かった。

「ごめん。まだ痛むか?」
言われてうなじに手を伸ばすと包帯が巻かれていた。ハッとして横にいる冴島の顔を見ると申し訳なさそうに顔を伏せていた。
マズイ!と思った。冴島は守りたい人がいるのにヒートになった俺に当てられてセックスをして噛んでしまっただけなんだ。
「冴島は悪くないよ。僕がヒートになったのが悪いんだから」
俺は笑って答えたつもりだけど冴島の顔は晴れなかった。
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