【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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57話 王子の交渉

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 ソウタが張ったシールドの範囲は容赦なく狭まっていき、ついに未確認生物はシールドに包まれたまま、水から引きずり上げられ、岸に追いやられた。

 その未確認生物は、全身が真っ黒で巨大なタコのような形状をしていた。
 内側からシールドを壊そうと激しく暴れている。

「捕まえた!」

 ソウタは歓喜の声を上げた。

 ユノ・セリウスが、控えていた護衛騎士団に素早く号令をかける。

「攻撃準備をしてください!」

 ルースとレオ・ロウも、迷うことなく剣を構えた。

「シールドを解除します!」

 ソウタの大きな声が響き渡る。

 シールドが解除された途端、未確認生物は四方八方に触手を猛烈な勢いで伸ばしてきた。

「陸に上がればこっちのものだ!」

 レオ・ロウは、触手を軽やかに避けながら、本体の頭を狙って剣を繰り出した。

 ユノ・セリウスもまた、正確な狙いで触手めがけて銃を撃ち込む。

「今だ、ルース!」

 二人の連携に合わせ、ソウタはルースの身体に強化魔法をかける。

 その瞬間、ルースは地面を強く蹴り、一瞬で未確認生物との距離を詰めた。 

 彼の剣が真っ赤な閃光を放ち、目にも留まらぬ速さで幾筋もの斬撃を繰り出す。

 轟音と共に、未確認生物は悲痛な鳴き声をあげ、たちまち溶けるようにして消滅した。

 完全に消え去ったことを確認するルース。

 ソウタが急いでルースに駆け寄る。
 その体に怪我がないことを確認すると、心から安堵の息を漏らした。

 レオ・ロウとユノ・セリウスもすぐに近づいてきて、片膝をつき、深々と頭を下げた。

「殿下、魔物討伐完了おめでとうございます!」

 周囲で歓声をあげていた騎士たちも、深々と敬礼した。

 ソウタもまた、賞賛の表情を浮かべ、ルースに笑いかける。

 ルースは安堵したように頷き、皆の労をねぎらった。

「皆もよくやった。感謝する」

 護衛騎士団に残骸がないか確認を任せ、ソウタたちは先に宿屋へと戻ろうとした。

 その時だった。

 頭上から、戯れるような、しかしどこか見下すような声が響いてきた。

「閉じ込めていじめるなんて、卑怯じゃない?ルール違反だよ」

 驚いて見上げるソウタたち。
 すると、彼らの視線の先、大きな木の上に、白髪の長髪をした青年がゆったりと座っていた。


 大きな木の上に座っていた白髪の青年は、にっこりと微笑んだ。

「でも面白かったから、今回だけは許してあげる」

 ソウタは、その言葉に眉をひそめ、青年を睨みつけた。

「あの未確認生物は、お前の手下なのか?」

 白髪の青年は、不思議そうな顔で小首を傾げる。

「未確認生物?……ああ、あれは僕のトモダチ」

 そして、きらきらと目を輝かせながら、ソウタを称賛した。

「それにしても、君すごいね!トモダチが壊せないシールドを張れるなんて」

 ルースは、ソウタを庇うように前に出て、その瞳を鋭く光らせた。

「何が目的だ?お前は帝国の者か?」

 白髪の青年は、木の上から軽々と飛び降りてきた。
 地に着いた足音はほとんどない。

「僕の名前は、アルヴァ・ユリシア。ユリシア王国の第一王子だよ」

 アルヴァは、自信満々な顔でそう名乗った。

 ソウタは、それを聞いて心の中で(王国の第一王子?コイツが?)と、疑いの眼差しでアルヴァを見つめる。

 レオ・ロウは、怒りに声を震わせた。

「嘘をつくな!ユリシア王国の第一王子は十五年前に亡くなっている!」

 ユノ・セリウスもまた、怒りを抑えた低い声で続いた。

「……第一王子は、五歳の時に病に倒れ、そのまま亡くなったと聞いています」

 全員が疑いの目で自分を見るので、アルヴァはムッとした顔で声を荒げた。

「本当だよ!ずっと閉じ込められてたけど、逃げ出したんだ。信じられないなら、僕の国においでよ」

 そう言って、アルヴァは隣国へと誘った。

 レオ・ロウは、ルースに小声で相談する。

「殿下、彼は危険です。どうしますか?」

 ユノ・セリウスも警戒を強める。

「罠の可能性もあります。殿下、帝都に戻りましょう」

 アルヴァは、二人の会話を聞きつけると、不機嫌そうに言う。

「お前たちは来なくていいよ。僕が誘ってるのは、そこの君だけだ!」

 そう言い放ち、ソウタを指差した。

 突然指し示され、ソウタは驚きに目を見開いた。


 アルヴァはゆっくりと指差した手をおろし、にこやかにソウタに近づこうとする。

「君と仲良くなりたいな。名前はなんて言うの?」

 ルースはソウタを守るように前に立ち、「彼に近づくな」と鋭く睨みつけた。

 レオ・ロウとユノ・セリウスもまた、彼らを守るように立ち塞がる。

 アルヴァは嫌そうな顔をしたあと、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「めんどくさいなぁ……もし君が僕の家に来てくれたら、もう帝国でトモダチと遊ばないって約束するよ」

 そう言って、ソウタに交渉を持ちかけようとする。

 レオ・ロウは激昂し「行かせるわけがないだろう!」と怒鳴りつけた。

 ユノ・セリウスもまた「あまり戯言を言わないでください」と冷たい声で言い放つ。

 ルースは絶対に行かせないというかのように、ソウタの腕を強く掴み、自分の方へと引き寄せた。

 ソウタは、皆が自分のために怒ってくれることに感動を覚えた。

 しかし、この状況を打開するため、少し考えてから、アルヴァに問いかけた。

「第一王子だっていう証拠はあるのか?」

 アルヴァは「証拠?うーん、これでいいかな?」と言いながら、手のひらサイズの王族専用の通行証を見せた。

 それは、確かに本物でしかありえないような、精巧な細工が施された通行証だった。

 それを見たレオ・ロウとユノ・セリウスは、信じられないといった顔で呆然と立ち尽くす。

 ルースもまた、「あの通行証は本物だ」と目を細め、深く考え込んだ。

 ソウタはルースの言葉を聞いて、アルヴァに問いを重ねる。

「王族だってことは信じてもいいけど、なぜ僕だけ誘うんだ?」

 アルヴァは無邪気そうな顔をして答えた。

「言ったでしょ、仲良くなりたいって。君の戦い方がすごく気に入ったんだ!それに……」

 そして、意味ありげな表情でユノ・セリウスの方をちらりと見ながら、

「僕についてくれば、君の周りの人間は殺さないであげるよ」

 と言って笑う。

 最後の言葉は、アルヴァがユノ・セリウスを人質にとった時のことがありありと蘇るほど、ソウタの心に重く響いた。

 ソウタは内心で悩んだ。隣国への興味、そして帝国への攻撃を止めさせるという条件は、非常に魅力的だと感じたからだ。

 ルースはソウタの様子を見て、迷いなく真剣な声で言った。

「ソウタが行くなら、私も行く」

 ルースの突然の言葉に、ソウタは驚きに目を見開いた。しかし、少し考えてから、アルヴァに毅然とした態度で告げた。

「……三日間。さっき言ってた帝国への不可侵、彼らの同行の許可、ユリシア王国の国王との謁見、そして未確認生物の詳細を教えてくれるなら……ついていく」

 アルヴァはそれを聞いて、にこやかに言った。

「父上に会いたいの?僕も会いたいけど、勝手に逃げたから怒られるかも……殴られそうになったら君のシールドで守ってね!」

 ソウタは心の中で(勝手に殴られろ!)と悪態をついたが、口に出すことはなく、

「交渉成立だ」

 と言い放った。そして、ルースを見つめる。

 ルースもソウタの視線を受け止め、優しく微笑んだ。

「よくやった、ソウタ」

 そして心の中で(臆することなく帝国のために交渉するソウタは素晴らしいな……)と、改めて強く思った。

 レオ・ロウは「大丈夫だろうか……?」と心配そうな顔で呟いた。

 ユノ・セリウスは冷静に言った。

「隣国に行く前に、オリオン殿に連絡します」

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