【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

文字の大きさ
17 / 68

17話 策略の影

しおりを挟む

 ソウタは、縁談の手紙を前にしたルースに腕を掴まれ、困惑した。ルースの瞳には、かつてないほどの真剣な光が宿っていた。

「ソウタ……待っていてくれ!」

 ルースの声は、力強く、そして決意に満ちていた。

(待ってくれ、って……一体何の話だ?)

 ソウタは、ルースの言葉の意味が全く理解できなかった。

彼の頭の中は縁談の面倒さでいっぱいだったが、ルースの言葉からは、具体的な内容が何も読み取れない。

 しかし、ソウタは、ルースの真剣な眼差しを受けて、深く追求することをやめた。

ルースの好感度を維持するためには、彼の言葉に同調するのが最も合理的だと判断したのだ。

「ああ、分かった……待つよ」

 ソウタは、いつものように穏やかに承諾した。

 ルースは、ソウタの言葉に力強く頷くと、ソウタの手を離し、自身の部屋へと戻っていった。その背中からは、強い決意が感じられた。

 ソウタは、残された部屋で、首を傾げながら、積み重ねられた縁談の手紙を眺めていた。

 
 数ヶ月後。

 軍事学校では、一大イベントである闘技トーナメントの開催が迫っていた。このトーナメントは、生徒たちの実力を示す重要な場であり、多くの貴族や有力者が視察に訪れる。

 ルースは、このトーナメントに向けて、以前にも増して鍛錬に励んでいた。彼の動きは、より洗練され、その剣筋には、研ぎ澄まされた刃のような鋭さが宿っていた。

 ソウタは、そんなルースの姿を見て、一抹の不安を感じていた。彼は原作の筋書きを正確に記憶している。

 この闘技トーナメントで、主人公であるルースは、剣に細工をしたという濡れ衣を着せられ、違反行為を疑われ、最終的に棄権に追い込まれることになるのだ。

(くそっ、このイベントか……! ルースが違反なんかするわけない。これは、間違いなく貴族派の陰謀だ)

 ソウタは、心の中で舌打ちをした。ルースの不利益は、そのままソウタの「生存戦略」にも影響を及ぼす。何としても、この陰謀を阻止しなければならない。

 ソウタは、黒幕を探すべく、密かに情報収集を開始した。しかし、一人では限界がある。ソウタは、一番信頼できる人物に協力を仰ぐことにした。


「オリオン。ちょっと相談したいことがあるんだ」

 ソウタは、オリオンの部屋を訪ね、闘技トーナメントでのルースの棄権の件と、黒幕の存在について打ち明けた。

 オリオンは、ソウタの話を真剣な表情で聞いた。

「ルース君が……そんなことをするはずがない。僕も協力するよ」

 オリオンは、ソウタの言葉を信じ、迷うことなく協力を申し出てくれた。

 
 その日から、ソウタとオリオンは、鍛錬の合間を縫って、学校内を散策し、情報を集めるようになった。

怪しい人物はいないか、不審な動きをしている生徒はいないか。二人は、細心の注意を払って、貴族派の動向を探っていた。


 ある日の散策中のことだった。

 ソウタとオリオンが、校舎の裏にある、あまり人が通らない小道に差し掛かった時、オリオンが突然、小さな石につまずいた。

「あっ……!」

 オリオンは、バランスを崩し、近くにあった古い石像の角に、手の甲を勢いよく引っ掻いてしまった。鋭い角が、オリオンの白い手の甲に、赤い線を刻む。

「オリオン! 大丈夫?」

 ソウタは、オリオンの怪我にすぐに気づき、慌てて駆け寄った。彼の顔には、心配の色が浮かんでいる。

 ソウタは、自身の制服のポケットから、たたんであったハンカチを取り出した。そのハンカチには、ソウタの家であるフランゼ家の家紋、美しい金色の鳥の紋章が刺繍されている。

 ソウタは、ハンカチを広げながら、オリオンの手に伸ばそうとした。

 しかし、ソウタがハンカチを差し出した瞬間、オリオンの顔に驚きと、そして、戸惑いの色が浮かんだ。彼の瞳は、ソウタの手元のハンカチに釘付けになっている。

(ソウタ君の……侯爵家の紋章入りのハンカチ……!?)

 オリオンは、顔を赤くした。

 ソウタは知らないが、帝国では、家紋入りのハンカチを渡す行為は、愛の告白と同等の意味を持つ。特に、貴族社会においては、それは非常に重い意味を持つ行為だった。

 オリオンの心臓は、激しく脈打った。

 ソウタは、本当に自分を愛してくれているのか?
 この場で、自分の気持ちを伝えるべきか?

 オリオンの頭の中は、様々な感情と疑問でいっぱいになった。

 オリオンが戸惑っている間にも、ソウタは心配そうな表情で、オリオンの手にハンカチを差し出し続けていた。

「オリオン、早く! 血が出てるよ」

 ソウタは、早く怪我の手当てをさせたかった。彼にとって、このハンカチはただのハンカチであり、オリオンの怪我を心配する、純粋な「友人としての気遣い」でしかなかったのだ。

 ソウタは、オリオンの戸惑いを理解できず、しびれを切らしたかのように、オリオンの手をそっと掴んだ。

 そして、彼の顔が赤くなるのも構わず、ささっとオリオンの手にハンカチを巻き付けてしまった。

 ソウタの指が、オリオンの肌に触れる。

 その温かさに、オリオンの顔はさらに赤くなった。

 ソウタの、何気ない、しかし温かい手当てに、オリオンの心は揺さぶられた。
 

「あ、ありがとう……ソウタ君……」

 オリオンの声は、顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声でお礼を言った。

 彼の心の中は、ソウタの無自覚な「告白」と、それを受け止める自分自身の感情で、いっぱいいっぱいになっていた。

 
 ソウタは、オリオンの反応に首を傾げながらも、怪我の手当てができたことに満足していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...