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25話 迫りくる危機
しおりを挟む引き続き、証拠を探すソウタたち。
しばらく探すと、ソウタの目に、探していた証拠資料が飛び込んできた。
それは、レイエス家と貴族派の間で行われた、不正な取引や情報交換に関する詳細な記録だった。
「……あった! これだ!」
ソウタは資料を手に取り、顔を輝かせた。オリオンの婚約を無効にできる証拠だ。
しかし喜びの直後、ソウタの心に不安がよぎる。
ライエルを巻き込んでしまったことが、気がかりだった。
「なあ、ライエル……このこと、親に怒られないか?」
ライエルが貴族派に属していることを、ソウタは知っている。
今回の件で、彼がどんな処分を受けるのか想像もつかなかった。
ライエルはフンと鼻を鳴らし、ソウタの心配を一蹴する。
「気にするな。これは、この前の実技テストの時、貴様が俺を助けてくれた借りを返しただけだ」
ぶっきらぼうに言い放ちながらも、その声には感謝の色が滲んでいた。
ソウタは、そんな彼の言葉に微笑んだ。
そしてポケットから、腫れに効く薬の小瓶を取り出す。
それは、以前ルースのために用意したのと同じ、侯爵家特製の薬だった。
ソウタは薬をライエルに手渡し、にこやかに言う。
「そっか。なら、これで借りは返したな。ほら、その頬、早く治せよ。せっかくの綺麗な顔なんだから、大切にしないと」
それは、ソウタのいつもの、無自覚な優しさだった。
「余計なお世話だ!」
ライエルはそう怒鳴りながらも、薬を受け取った。
その顔は、再び真っ赤に染まっていた。
――
別荘を後にし、夜の道を二人で歩いていく。月が雲間から顔を出し、彼らの足元を淡く照らしていた。
ソウタは、並んで歩くルースがいつもより大人しいことに気がついた。
ソウタは足を止め、心配そうに声をかけた。
「……ルース?どうしたんだ、元気ないな」
気遣わしげに呼ばれたルースは、顔を上げずに、小さな声で呟いた。
「今回、私はあまり役に立てなかった……」
その言葉には、自分への不甲斐なさがにじみ出ていた。
ルースは、ソウタの隣にいるにふさわしい存在でありたいと、常に努力してきた。
だが、いざという時に、自分の無力さを突きつけられたように感じていたのだ。
ソウタはそれを聞いて、ルースの肩に優しく手を置いた。
「そんなことないよ!ルースがいなかったら、証拠がある場所すら分からなかったよ!」
そう言って、ソウタはルースを抱きしめた。ルースの背中を優しく撫でながら、温かい体温を伝える。ソウタの言葉と温もりが、ルースの心を癒していく。
抱きしめられて、ルースはすぐに機嫌が良くなった。ソウタの腕の中で、安堵に満ちた笑みがこぼれる。
数日後。帝国で最も有力な貴族たちが集まる貴族協議会が開催された。
ソウタは、この日のために用意した証拠資料を手に、ルースを伴って会場へと足を踏み入れた。
会場には、ソウタの元婚約者であるライエルや、皇帝派に属するオリオンと、その婚約者であるレイエス家の人々も出席していた。
重厚な雰囲気の中、貴族たちの間で難しい政治的な話が飛び交う。
ソウタは、その時をじっと待っていた。
やがて、議題がレイエス家の問題へと移った時、ソウタは席を立ち、毅然とした態度で中央へと進み出た。
そして、手に持っていた証拠資料を、テーブルに叩きつけた。
「レイエス家は、長年にわたり皇帝派を装い、裏で貴族派と通じ、帝国への裏切り行為を繰り返してきました。これは、その確固たる証拠です!」
ソウタの声は、会場全体に響き渡った。
彼の言葉と共に、資料がテーブルの上に広げられる。
そこには、レイエス家と貴族派の間に交わされた密約、情報漏洩、そして不正な資金の流れを示す詳細な記録が記されていた。
ソウタの言葉と証拠に、会場は瞬時に騒然となった。
「なっ……馬鹿な!そんなはずはない!」
「これは、デマだ!侯爵家の陰謀だ!」
貴族派の面々は、ソウタの言葉に激しく動揺し、騒ぎ立てた。
一方、皇帝派の貴族たちは、まさかの事態に混乱し、顔色を失っていた。
その混乱の中、皇帝派の偉い貴族の一人が、怒りを込めて叫んだ。
「レイエス家を捕らえろ!このような裏切り者は許せん!」
その言葉を合図に、会場の隅に控えていた近衛兵たちが一斉に動き出した。
その中には、ソウタと顔なじみになったレオ・ロウと、その相棒の姿もあった。
彼らは、レイエス家の者たちを取り囲むように、駆けつける。
しかし、その時だった。
レイエス家の当主が、嘲笑うかのように、高らかに叫んだ。
「もう遅い!!」
そして、彼の手に握られていた、何か不気味な輝きを放つ宝珠を、力任せに地面へと叩きつけた。
キィィィィンッ……!
宝珠は、甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
その瞬間、会場全体に、鈍い振動が走る。
突然、激しい地震が起きた。
会場のシャンデリアが大きく揺れ、壁にはひびが入り、人々はパニックに陥った。
地面が大きく揺れ、立っているのもやっとだ。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「いや、これはただの地震じゃないぞ……!」
貴族たちは、混乱の中で叫び声を上げた。
ソウタは、激しい揺れの中で、脳裏に一つの可能性が閃いた。
(まさか……これは、貴族派の陰謀なのか……!?)
彼の思考は、瞬時に最悪のシナリオを導き出した。
帝国の首都は、強固な魔力バリアによって護られていたはずだ。
その時、外から、奇妙な咆哮が聞こえた。
それは、人間のものではない。
ソウタは、窓の外を見た。
これまで帝国を護っていた、目に見えない巨大なバリアが、消え去っているのが分かった。
そして、バリアが消滅した帝国の外から、おびただしい数の魔物が、次々と侵入してくるのが見えた。
「これは……! まずい……!」
ソウタの顔から、血の気が引いた。
魔物たちは、市街地へと向かい、一般市民にも危険が迫っている。
ソウタは、自分の知る原作とは全く異なる、予期せぬ事態の発生に、激しく焦った。
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