マッチ売りの限界を感じて廃業しようとしていたらボヤを出しておじさんに説教された少女

砂山一座

文字の大きさ
17 / 23

おじさんとおじいちゃん

しおりを挟む
 おじさんの説教は長いのだ。
 私はまだ暫く終わらないのを知っているので、馬車の中にあった埃をかぶった膝掛けを持ち出してきて羽織り、橋の石畳に腰を下ろした。

 おじさんはライアンの腹の上にどっかりと腰を下ろし、腕を組んでいる。
「お前は覚えていないようだが、俺はお前のことをよく知っている、昔から甘ったれたガキだった。何度か顔を合わせていたはずなのにな。得になること以外、目の向かない所、直らなかったんだな」

 おじさんが話しかけるが、もうライアンは口もきけず涙を浮かべるだけだ。
「お前みたいな奴にチャンスなどやるなと爺さんに忠告したのに、甘い御仁だ。それで、無計画にエマを攫って、どうするつもりだった? ヤケになったのか? 頭も悪いのか?」
 どうやらおじさんはライアンともコーネル・ハーヴィとも面識があるようだ。
「爺さんに暴力では金は儲からないと教えてもらわなかったのか? 俺はちゃんと話を聞いていたし、そのようにしたら上手くいった。さっき教えてやったことだって爺さんが言っていたことだ。お前だって孤児院に手伝いに来た時に聞いていたはずだ。
 もっとも、お前は爺さんが真面目に話をしている時だって、面倒くさがって何も聞いていなかったか。孤児院の子どもに汚いから触るなと言って蹴ったりはしていたよな。あの頃からお前は変わらないんだな」
 ライアンの鼻を指で弾いて蔑むように笑う。いつもとは違って物騒だ。
 おじさんの子どもの頃の思い出は初めて聞く。孤児院にいたと聞いたことがあったが、コーネル翁の所有する孤児院だったとは驚きだ。
「なぁ、爺さんが読み聞かせてくれた絵本があっただろ? お前も聞いていたはずだ。どれだけ腕力があってもそれだけでは暖かい住処すみかには住めない熊の話だ。
 別に腕力で稼ぐなって話じゃない。腕力は金になる。
 そうだな……俺が爺さんに拾われるまで、何をして生きて来たか知っているか? 俺の見た目につられてやってきた男から強盗をしていたんだ。同性の子どもに悪さをしようとしていた屑だから、教会からの罰を恐れて俺に金を取られてもダンマリだ。まぁまぁ稼いだよ。でも駄目だった。そういう金じゃ幸せにはなれなかった。
 暖かい所にいても、何を食っても凍える。いくら持っていても誰かの為に使う金じゃなければ自分は温まらない。むしり取った他人の金じゃなくて、一銭でもまっとうな金を稼いで誰かに使ってみろ。誰からも見捨てられる前にな」
 ライアンは泣いた。
 別に反省したからとか、おじさんの話に心を動かされてというわけではないと思う。
 背中も冷えきっただろうし、痛いし、きっともう疲れたのだ。
 シンパシーを感じたいわけではないが、おじさんにこってりと説教された時の気持ちはよくわかる。
 その後も、いろいろな逸話が出てくる。昔話やら、偉人の伝説やら、あとからあとから勧善懲悪を啓蒙する話が湧いてくる。

「――そんなことも知らないお前なんかに誰が大事なエマをやるか。はっ、お前の尻? 冗談じゃねぇ。金を払ってもお断りだ」
 おじさんの説教の長さは、本当に嫌気がさす。
 反省してようがしてまいが、最後は絶対に泣いてしまうのだ。
 ライアンは相手を見誤った。おじさん相手に何かを仕掛けるべきではなかったのだ。 

 
 向こうからトムさんの呼ぶ声が聞こえる。
 それと一緒に幌付きの豪奢な馬車がやって来て、中からコーネル翁が顔を出す。馬には金の縫い取りのあるブリンカーがつけられていて、規則正しく足踏みをする青毛の毛艶は最高だ。

「おやおや、穏やかではないのぅ」
 笑っているのだろう。白いふさふさの長いひげが大きなおなかの上で揺れている。
「爺さん、自分の孫だろ、もっとちゃんと躾けておけよ」
 おじさんは粗野な口調でコーネル翁にライアンの首根っこを掴んで突き出す。
「なんじゃ、ライアン、ちっとも怪我をしておらんな。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ラース相手に軽傷だとはめでたいな。野良犬の餌に手を出したら、もう少し手酷く報復されると思っておったのにのぅ」
「知っててけしかけたくせに、よく言うぜ」
「愚かなことをしたな、ライアン。儂はお前の幸せを願ってエマを選んだというのに。ちゃんと手順を踏んでエマを手に入れたら、お前は間違いなく幸せになれただろうにな。エマはそういう幸せを運ぶ子じゃ」
「迷惑だ」
 おじさんが吐き捨てるように言う。
「ああ、こやつをどうしたものかな。大人一人を鍛えなおすほど、儂は余生が長くないのだがなぁ」
 一緒に来ていた黒服の男たちにライアンを連れて行かせてコーネル翁は私の方に向き直る。
 真っ白な長い眉毛は狡猾な視線を隠し柔和な印象を与えるが、私はコーネル翁の姿は物語に出てくる悪い悪戯をする妖精にそっくりだと思っている。妖精は祝福もするが呪ったりもするのだ。
「エマや、怖い思いをさせてすまなかったの。怪我はないかな?」
 食えない笑みで悪戯いたずらが成功したみたいに笑う。
「私、おじいちゃんの孫とは結婚しないって言ったのに!」
「もちろん聞いておったよ。今の場所が好きだから、どうにかそこに残りたいと言っていただろう」
「……結局駄目だったけど。それはもういいの」
 ちらりとおじさんを見ると、ばつの悪そうな顔をしている。
 そうだった、私、おじさんと喧嘩をして飛び出してきたのだった。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...