白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

文字の大きさ
17 / 60

17話 五十路、守る

しおりを挟む
七月九日 執事喫茶【GARDEN】


南さんの謎の行動に頭を悩ませながらホールに戻ろうとしていた私でしたが、ホールの入り口でこちらを睨んでくる方が。

「白銀さん、オーナーのお気に入りだからって、あまり調子に乗らないほうがいいですよ」

そう声をかけてくるのは、蒼樹さん。
すらりとした長身で、前髪が長く、目が切れ長でスマートな印象です。

「そうそう、あんまり調子に乗りすぎると痛い目に遭うかもよ」

蒼樹さんの隣にいた緋田さんが大きく笑いながら近づいてきます。
蒼樹さんに比べ、筋肉もあり、スポーツマンな印象の方です。

緋田さんがそのままズンズンと私のところまで肩をいからせながらやってきます。

「こんな風に! な……?」

緋田さんも目が悪いのでしょうか?
危うくぶつかるところでした。
ジジイの骨は脆いでしょうから緋田さんのような屈強な方にぶつかられては一溜りもないでしょうし、緋田さんが罪悪感を抱かれたら申し訳がないですから。

「よかった。まったく……骨が砕けるところですよ」

(こ、こいつ、俺の骨を砕くと宣言したのか……や、やべえやつじゃねえか……!)

緋田さんが目を見開いています。
ジジイの骨の弱さに驚いているのでしょうか。

「緋田、蒼樹、何を油を売っているんですか?」

執事長の黒鶴さんが眼鏡を直しながらこちらに来ます。
黒髪オールバックで眼鏡をかけた黒鶴さんは、【GARDEN】の古株で全体指揮をとってくださっています。

「あちらのお嬢様のお相手をするよう伝えたはずですが?」

黒鶴さんの視線の先には所在なさげに視線を彷徨わせ、小さくなったお嬢様がいらっしゃいます。

「お言葉を返すようですが、執事長、お嬢様にも気品というものは必要では?」
「何?」

蒼樹さんが首を振りながら黒鶴さんを見て笑います。

「【GARDEN】もお嬢様を選ぶべきです。そして、そのお嬢様に然るべき対応をすべきなんですよ」
「蒼樹……!」

黒鶴さんが突き刺すような視線で蒼樹さんを睨みますが、蒼樹さんは意に介してないようです。緋田さんも同意見なのかうんうんと頷いています。

「執事喫茶を掛け持つのは辞めろと言ったはずですが。『向こう』と【GARDEN】は違うのです」
「良いところは学ぶべきです。あのお嬢様を見てください。見た目も磨かれていない。服の質も悪い。ああいう分かっていない客は」
「そうだ! あんなお嬢様はウチにはいらない」
「緋田さん、蒼樹さん、いけません」

私は、黒鶴さんに詰め寄ろうとするお二人の腕を掴みます。

「なんのつもりですか?」

蒼樹さんが私を睨みます。
ですが、関係ありません。

「お嬢様に聞こえているようですよ」

お嬢様は先程よりも小さくなり震えているようでした。

「……耳はいいんですね。ですが、好都合でしょう。お帰りいただいてもっと将来性のあるお嬢様を」
「蒼樹さん、いけません」
「いい加減、はなっ……!」

蒼樹さんが振り払おうとしますが、させません。
緋田さんも唸りながら暴れようとするので、少し捻りました。

「こ、コイツ……離せない……!」
「な……! こんなジジイのどこにそんな力が」

これでも祖父から武道は叩き込まれています。
祖父からしてみれば喧嘩の才能はからっきしと言われていましたが。

『拓司は喧嘩の才能がないのう。相手を負かしたい、相手に勝ちたいって気持ちがないんだろうなあ。まあいいさ。ない方が。お前にそんな気が有ったら、何人か達人が辞めちゃうな』

言ってることの意味は分かりませんでしたが、確かに私は勝ち負けに興味がわきませんでした。
ただ、守るために必要だったから覚えたのです。

そして、今はあのお嬢様を守るために。

「黒鶴さん、若輩者の老いぼれではありますが、あちらのお嬢様には私がお仕えさせていただけないでしょうか?」
「白銀……分かりました。頼みましたよ」
「私の全てを懸けて、お嬢様に幸せを」

蒼樹さんの纏わりつくような視線、緋田さんの怯えた目、それらを無視して私はお嬢様の元へ向かいます。 

「お嬢様、私にお嬢様との楽しい時間を過ごさせていただけませんでしょうか?」
「え……いや、いい、です……私なんか、どうせ……」

お嬢様は目にうっすら涙を浮かべうつむいてしまいます。
私は……

「お嬢様、姿勢が悪くなっております。じいやは悲しゅうございます」
「え?」

私は、顔を上げたお嬢様と向かい合います。
私は執事。お嬢様の為の。お嬢様のために尽くす執事。

「姿勢です、姿勢。そんな猫背で立派な淑女になれますか」
「は、はい」

慌てて姿勢を正すお嬢様。

「すぐに直せるのは素晴らしいですよ。そして、美しい座り方です。何かなさっておいでですか?」
「あ、多分……昔、書道を」
「素晴らしい。しっかり身に付いていらっしゃる。とても美しい、ですよ。お嬢様ならば出来ると信じた私の目に狂いはありませんでした」
「あ……」

お嬢様の淀んでいた瞳に少しばかり光が差した気がしました。
私は執事。お嬢様の本当の望みを察し、支え導くのが私の使命。

「お嬢様。私にお嬢様との楽しい時間を過ごさせていただけませんでしょうか?」
「……喜んで」

百合のように、静かに美しい微笑みで頷いて下さいました。

その時でした。入り口からざわめきが。
見れば、四人の女性が、いえ、お嬢様がお越しになられたようです。黒髪の清楚な雰囲気、活発そうなポニーテール、意志の強さを感じさせる大きな瞳、母性溢れる優しい空気、あの方達は……

「あれって……まさか! 今、大注目の女優、小山内凛音だろ」

蒼樹さんが呟きます。カルム常連の彼女、りんさんは女優さんだったのですね。ずっと高校生らしからぬ器の広さがあると思っていましたが。

「あのポニーテールの子……W大ミスキャンパスの北野結では……」

意外にも黒鶴さんはそういったことに詳しいのですね。
なるほど、同世代の方たちは彼女のあのエネルギッシュな姿から目を離せないでしょうね。

「あ、蒼樹、あっちのちょっと気の強そうな美人は、美人すぎる空手家、東雲明美だぞ!」

緋田さんは、スポーツマンみたいですからそういう方面にも明るいのですね。なるほど、確かに、あけみさんは、芯の通った強さを感じます。

「おいおいおい……人気芸能事務所のやり手女社長さんまで来てるじゃねえかよ……!」

千金楽さんが、顔をひきつらせながら呟きます。流石、千金楽さんのような美男子はそういう業界に詳しいのですね。
そうですね、葛西さんは、いつも華やかなオーラで、美男美女を連れてお越しいただいておりました。

「な、なんなんだよ、あのつよつよグループは……!」

緋田さんが、驚いてらっしゃいますが、

カルムではいつもの光景なんですが。

今日は何故か皆様お顔を隠したりせず、美しくおめかししてらっしゃいますけど、いつも通り素敵です。

「オーナー、予約した葛西ですが」
「は、はい! ようこそ!」
「今日は特別にいいのよね?」
「は、はい! 今日は最終研修試験なので、皆様、よろしくお願いいたします!」

南さんが頭を下げていらっしゃいます。
不思議ですね。
カルムでは、南さんも皆さんとフランクにお話していらっしゃったはずですが……。

「し、白銀! こちらのお嬢様達のお相手を!」
「「はあ!?」」

蒼樹さんと緋田さんが両側から私を覗き込みます。

「お前、マジでなんなんだよ……?」
「し、師匠と呼んでいいですか?」

蒼樹さんが顔を青ざめさせながら、緋田さんが目を潤ませながら私を見つめます。

「私はただの老いぼれですよ」
「「「「「「「「いやいやいやいや!」」」」」」」」

皆さんからツッコミを受けてしまいました。
でも、本当にただのジジイなんですが。

一先ず、お嬢様達をお出迎えせねば。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

私の話を南さんから聞いて励ましにでも態々【GARDEN】まで来てくださったのでしょう。

私のようなジジイなんかの為にありがたいことです。
私は感謝の思いを込めて、精一杯の笑顔でお出迎えさせていただきます。

すると、結さんは両手を胸の前で組み倒れ、明美さんは壁に頭をぶつけ始め、りんさんは頭に血がのぼったのか鼻血を流し始め、葛西さんは涙を流し微笑んでいらっしゃいました。

「しろがねぇ~……! 微笑み抑えろって私言いましたよね……!」

千金楽さんが、私の肩を掴み、とても圧を感じる笑顔を近づけてきます。

「すみません、『キモかった』んですよね」
「もう、お前の自己肯定感の低さがキモいわ」

はて? どういう意味でしょうか?
皆さん、頷いていらっしゃるのに、鈍いジジイだけ分かりません。
あと、女性陣のこの状況はどうしたら……。
あと、何故か南さんが連写してらっしゃいます。
あとで自分で見て反省しろということでしょうか?
しかし、今はそれどころではありません。

「申し訳ありませんが、先にお仕えするお嬢様がいらっしゃいまして、お待ちいただけますか?」
「「「「「は?」」」」」

私は先程ご挨拶させていただいたお嬢様の方を向きます。
いけません! また猫背に!
お嬢様、じいやは許しませんよ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...