白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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30話 詩織、夢見る・前編☆

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その日、私はそわそわしていた。

いや、なんなら前日からそわそわしていた。

いやいや、提案を聞いた一週間前からそわそわしていた。

今日は、福家さんとデートだ。

福家さんはお出掛け程度かもしれないが、私はデートだ。

個人の主観によるものだが、もう一人の関係者の福家さんに押し付けるつもりはないので構わないだろう。

気合いが入りまくっていた。

なので、何か起きて遅刻でもしたら絶対に許せないし、もし福家さんが早く来たらその分一緒にいられるじゃんと思ってたら一時間半前に着いた。

何度も服装を確認する。

大丈夫だろうか?
今回の大一番、私は寛子さんに泣きついて、メイクと衣装をお願いした。
以前、本気を出したあの子達で見せつけられたあの魔法を自分にもかけてほしいと。

だが、寛子さんに断られた。

『多分、福家さんとお出掛けでしょ? ダメです。これは、意地悪じゃなくて、アドバイス。今、流行ってるものや男ウケするモノを選ぶんじゃなくて、あなたがその日の為に悩んで頑張って選んだ分福家さんは喜んでくれると思うわ』

そう言われたらがんばるしかないじゃないか!

一応若井くんから情報を流してもらい色は合わせた。

ちょっと子供過ぎたかな。
福家さんはすぐに私を子供扱いする。いや、時に孫扱いする。

確かに二十歳離れているけど、二十歳だ。
それ以上に離れている子が結婚する気なんだ。
なら、私だって大丈夫。
だけど、今日の格好は若すぎたかもしれない。
子供扱いはされたくない、絶対に。

今日は一人の女として見てもらいたいんだ。
その為に、意識させるプランも若井くんと考えた。
何故若井くんって感じだが、悔しいことに今一番仲が良いのは若井くんなのだ。

くそう、新参者の癖に。
男同士の距離感とは言え羨ましい。

だが、若井くんは情報を持っている。あと、画像も。
そして、何故か協力的だ。画像もくれる。
なので、若井くんからの福家さん陥落アイディアを沢山貰った。画像も貰った。
正直有益だった……!

そして、その最高の『南詩織を女性として意識させるプラン』で、福家さんに意識してもらう!
だが、作戦は予想外の形で破綻する。

福 家 さ ん ス テ キ す ぎ

いや、事前に聞いてたよ。今日は、いつものシンプルポロとチノじゃないって。いや、最近ソウタワカイプロデュースで私服お洒落になっていたけど、今日はかっこよすぎる。

で、プラン全部頭の中からふっとんだ。
ヤバい直視出来ない。

「きょ、今日は、お招きいただきありがとうございますっ! ふ、不束者ですが! よろしくお願いいたしますっっ!」

訳の分からない挨拶をした後、私は背中を向けた。
戦略的撤退だ。
プランでは、クルっと回って『今日の私どうですか?』だった。
だからまあなんだ。半回転はした。
よくやった私!

そして、振り返られずにいると福家さんが声をかけてくれた。
チャンス! 機を逃すな!
振り返るとそこには福家さんの手。

福 家 さ ん の 手

ヤバい。指綺麗。なのに、色んな努力の跡。
ヤバい。永久に見られる。これでごはん三杯いける。

違う! 正気に戻れ私! 手だ! 手があるぞ! って、

「手ぇええええ!? 手ですか!? そうですね! いいですね! 繋ぎましょう!」

繋いだぁああああ! 繋いじゃったぁああああ!
なんか違う気もするけど、いい! もういい! ああ、ちょっと手の皮がかたい! 最高!

そして、もう有無を言わさないように歩く!

その後は、もう福家さんも諦めたのか、ずっと手を繋いでた、ふへへ……。

その上、服装も褒められたし、カップルコーデだし、カップルコーデですねって言ったら、

「そうですね」

って! 一瞬間があったから、誰かの入れ知恵が見えたけどそんなのはいい!
カップルコーデなのだ! それが大事なのだ! しあわせなのだ!

そのあともしあわせしかなかった。

ペットショップでは。

『見てみて! あのワンちゃんかわいい~』
『はい、南さんもかわいいですが、あのワンちゃんもかわいらしいですね』

きゅ~ん。あの犬よりも私の方が心の中できゅ~んてないてた。
夢中になって福家さん見てたら、いきなりグイって。グイって! 強引に! グイって!
そのすぐ横を男の子が走り抜けてた。
福家さんがぶつからないように引っ張ってくれた。

『すみません。いきなり』

困ったように笑う福家さん、きゅ~ん!



服屋さんでは。

『ねえ、どっちが似合うかな?』
『どっちも似合いますよ』

福家さんが今日初めての隙を見せた! 隙あり! と思ってたら、

『……はあ、どっちもって、それ一番言っちゃ……』
『右は、いつも元気で私を笑顔にしてくださる南さんらしさを引き出してくれると思いますし、左は清楚で落ち着いた雰囲気ですので、そういう南さんも素敵だと思います。個人的にはセンスには自信ありませんが、左の方が見てみたいですね』

好き! 有難うございます! すきあり~!! 両方褒めるけど最後ちゃんと希望言ってくれるその技何!? どこで覚えたの!?


フードコートでは。

『ね、ねえ、福家さん、あ~ん』

漸くプランを思い出した私の渾身の一撃を喰らえ!

『ありがとうございます。おいしいですね。南さん、こちら食べられます?』

食べちゃった。しかも、笑顔。喰らっちゃったよ~、福家砲を! モロに!



というわけで完敗だった。いや、おかしいぞ! 私の知る限り、カルムでの福家さんはこうじゃなかった! ま、まさか、【GARDEN】でモテ始めて、私よりも先にデートを……?

「こういうデート何回もしてるんですか……?」
「いえ、恥ずかしながら、デートは、学生時代にしたきりでして、しかも、そのデートも、そのお付き合いしてると勘違いしていたもので……なので、実質初めてですよ」
「え? は、はじめて……?」

はじめてだった~♪

え!? はじめて!? ということは……!?

「はじめて、はじめての、デートは、私……私は、はじめてのでーと?」

そう、私の名ははじめてのでーとって違う! 私が、私が、初めてのお相手ですっ!
泣きそうだった。福家さん、大人だし。モテないって言っても、正直凄いモテてたから、デートとかしてるのかと思ったし、ていうか、多分小鳥さんはデートのつもりで、カルムの買い出しとかしてただろうし、でも、福家さんの中では私が初めてのデート相手。

幸せ過ぎておかしくなりそうだった。

でも、福家さんが孫見るような目で見てたから、気付いた。
私はまだ、福家さんの恋人候補でもない。

福家さん、私はあなたに恋してたんですよ。
ずっとずっと前から。

思わず私は思い出話を。福家さんとの初めての出会いを話してしまった。
福家さんは忘れていたみたいで、ちょっと悔しかった。

だから、悪戯してやった。一輪の薔薇をもらったんだよって。

意味分かってる? って。

勿論福家さんは私が欲しがったからあげただけ。
でも、私は嬉しかった。

あの日の前日、私は母に嫉妬した。
かっこいい父の愛の証を、『あなたしかいない』という意味の一輪の薔薇、受け取った母に。意味を母は嬉しそうに話してくれて、私はむくれた。私もいるのに。

父は正直な人だ。

母と娘である私へ向ける愛の種類をはっきりと分けていた。
だから、私には薔薇をくれなかった。
まあ、次の日、ショッピングセンターの帰りに、いろとりどりの花が入った花束を渡されたけど。
でも、私は『もうあるからイイ』って言って父を泣かせた。
その父を母が爆笑しながら撮った古い荒い映像は今でもみんなで見て笑う。
でも、あの時の気持ちは全く色あせてない。

折り紙の薔薇が、白くなっちゃっても、私はなくさない。

彼は紳士だったと父は言った。紳士、その言葉が好きになった。
紳士と一緒にいるのは誰、と聞くと淑女かな、と言われた。
その日から淑女になると私が言うと、父はじゃあ、お嬢様一緒に頑張りましょうと言われた。
よく分からないが、私は淑女を目指すお嬢様になった。

幸いな事にウチは裕福だったから、お嬢様らしい教育を受けることが出来た。
というか、受けていた。嫌々。バレエやお勉強、華道どれも嫌いだった。
でも、この日からの私は違った。
紳士さんとけっこんする為に、淑女になるために、私は変わったのだ。
只やらされているのではなく、明確な目標を持った私はワクワクしながら成長していった。
これも紳士さんパワーかと当時の私は驚いた。

そんな紳士さんパワーで出来る子になれた私は、学校で人気者だったと思う。
でも、男子は苦手だった。乱暴だしうるさいしちょっかいだしてくるし。
紳士さんと違うと思っていた。今思えば普通の事なんだけど。

ずっとずっと私はあの人が好きだった。

だから、言った。

「今、もう一度くれてもいいんですよ。一輪の薔薇。」

でも、福家さんは言った。

「南さん……年寄りを揶揄ってはいけませんよ」

福家さんは困った笑顔をしてた。揶揄ってなんかない! って言おうとしたのに、福家さんは慌ててお手洗いに行ってしまった。

揶揄ってなんかない。私は本当にずっとずっと福家さんが好きだったのに。

小中高、私は彼氏を作る事は無かった。

結ちゃんが性癖歪んでると言ってたけど、否定は出来ない。
私はずっと同い年も一個や二個上の先輩にも、ときめくことが出来なかった。
強いて言うなら、二次元や俳優さん? でも、やっぱり一番はあの紳士さんだった。
やっぱり歪んでいる気がする。

それに、きっと紳士さんならこんな趣味を持っていると思って、妄想の紳士さんに合わせて趣味をやってた。いい加減紳士さんも無いなと思って、ロマンスグレー様って名前をつけた。一応、ロマンスが名前で、グレーが苗字のつもり。
正直ヤバい奴だとは思う。
でも、そのヤバさのお陰で私はロマンスグレー様と再会するのだ。

大学生の時、紳士さんがしてそうなカフェ巡りをしていたら、たどり着いたのがカルムだった。

「いらっしゃいませ」

優しい笑顔でドアを開けてくれたそのひとは、あの人だった。
本当に老け顔だったんだなあと今では思うけど、あの当時と私の中では変わらないあの人がそこにいた。私だけが成長しただけの。神様が魔法をかけてくれたのかと思った。

それからは夢のような日々だった。
ロマンスグレー様の魔法で、何もかもが美味しくて幸せだった。
カルムに来る人たちはみんな優しい笑顔になった。

私もこんな店を作りたい。
そして、いつかロマンスグレー様と二人で……。

そう思った私は、カフェの勉強を始めた。
その中で、小鳥さんと仲良くなったり、寛子さんと出会った。

そして、私は、念願のカフェをやることにした。
ちょっと悪友にそそのかされ、コンセプトカフェ、しかも、執事喫茶にしちゃったけど、大丈夫。
執事のロマンスグレー様なんて最高じゃないか。

勿論、妄想だ。

夢だ。

だって、福家さんは、カルムで働いていて楽しそうだ。

それを奪うことは出来ない。

福家さんの笑顔を曇らせることだけはしたくない。

夢でいいんだ。

夢を見てたから、私は幸せだった。

だから、私は夢を見続ける。

一緒にお仕事したり、結婚したり、家庭を持ったり……夢だけど、夢でいいから。

そうすれば、がんばれるから。

そう思い続けていた。
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