白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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31話 詩織、夢見る・後編☆

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福家さんには居場所があって、きっとそこを離れる事は無い。
そんな事は大学時代に既に理解していた。

だから、大学生の時にも一度諦めて他の人と恋が出来ないかと思っていたけど無理だった。
男運がないのか私が苦手な、福家さんとは違う人ばっかりが私に近寄ってきた。





でも、まさか、こんな最高の日にまた出会うとは思ってなかった。

大学時代に出会った横河君。
いつも自慢ばかりしてて苦手だった。
福家さんとは正反対な人。

そんな彼が私の腕を掴んで、一緒に行こうと誘ってきた。怖い。
でも、早く帰ってもらわないと福家さんが来ちゃう。
福家さんには会わせたくないこんな乱暴な人と。

「待ってる人がいるんだって!」
「そんなヤツほっとけよ」

そんなヤツ? そんなヤツなんかじゃない!

「そんなヤツとかアンタが言わないで! 福家さんはね、私の理想の人なの! 凄く素敵な……ずっと、ずっと好きだったくらい素敵なひとなんだから!」

もう泣きそうだった。男の人に乱暴に掴まれて、福家さんをそんなヤツ呼ばわりされて、福家さんと二人でお出かけできた、福家さんの初めてのデートなのにこんな思い出にさせたくないのに……!
泣いちゃだめだ。福家さんは悲しむ! 私が恋人じゃなくてもあの人は悲しむ。
そういう人だから。

でも、泣きそう。泣く直前だった。


「お嬢さんの手を放して下さいませんか? 今日は私がエスコート役なので」


本当に福家さんは魔法使いなんじゃないかと私は思う。

福家さんのこの言葉で私の涙は引っ込んだ。いや、違う。泣きそうにはなった。
悔し涙からうれし涙に変える魔法だった。

その後は、とにかくもう……すごかった。
福家さんが物凄い人だってことを知った。
福家さんはあまり昔の話をしないからびっくりしたし、凄く嬉しかった。
また、福家さんを知れた。
それに、

「ものじゃないと仰いましたね? 一つだけ。もし、貴方が南さんを愛していて、お付き合いされたいというのであれば、ご自身の優れた点を見せつけるのではなく、どれだけ南さんを愛してらっしゃるのかを表現された方が良いと思います。少し厳しい言い方になってしまいますが、そのやり方では、相手からすれば、自慢のお高い装飾品の一つにお前も加えてやろうかと言っているように聞こえてしまいますよ。彼女を人として理解し、誇りに思い、一緒に歩みたいという気持ちがありますか?」

福家さんはやっぱり福家さんだった。
優しい福家さん。大好きな福家さん。私をちゃんと見てくれる福家さん。

そのあと滅茶苦茶嬉しいこと言われたし、まるで夫婦みたいで嬉しすぎて死ぬかと思った。

あと、やっぱり福家さんは強かった。
あのガタイが良くて乱暴な横河君をあっという間に倒してた。

そして、一也さんと横河君が連れていかれて、ほっとしたら、また震えてきた。

色んな震えだったと思う。

男の人の怖さ、福家さんを馬鹿にされた怒り、ちゃんと言葉に出来ない自分への悔しさ、福家さんが怪我しちゃうんじゃないかっていう恐怖、そして、ひどい思い出になっちゃって責任を感じちゃった優しい福家さんが私の元を去るんじゃないかっていう妄想。

でも、福家さんは本当に本当に魔法使いだ。

「詩織お嬢様、よく頑張りました。ご立派ですよ。私は、お嬢様を誇りに思いますよ」

一瞬で、私を助けてくれる紳士さんに、執事に変身したのだ。
冗談交じりのその言葉に私は笑顔に変えられた。くやしい。うれしい。すごい。

夢みたいな時間だった。
夢だからいいかなって頭も撫でてもらった。

そしたら、眠っちゃって本当に夢を見た。

あの時の夢。



私が夢だと諦めて、それでも、カフェで頑張ってた。

ほぼ毎日、福家さんの私に夢を見させてくれる魔法のような笑顔を見て、私は仕事に行って、それを繰り返し続けた。
それだけで十分しあわせだった。

けれど、あの日、福家さんが泣いていた。
カルムを追い出されたと聞いた。

私は怒った。

自分に。

嬉しくなった自分に。

怒った。

けれど、笑顔に、福家さんを笑顔にしてあげたかった。

私の魔法。【GARDEN】

福家さんは笑顔になってくれた。

その日は本当に奇跡のような日。

眠っていると、今でも見ちゃう奇跡の思い出。



そして、福家さんは再びみんなを幸せにする執事魔法使い白銀になった。

私がずっと妄想で付けてた福家さん用の執事名。

若井君には話したことがある。笑われた。でも、会ってみたいと言われた。
でも、会わせたらあんなに仲良くなると思わなかった。なんだあの仲の良さは。
そういえば、若井君の声が聞こえた気がした。つけてたな。絶対ニヤニヤしながら。

男にもモテるとは、流石白銀、流石福家さん。

本当に多くの人に愛されてるな。嬉しいし、さみしいな。

いつか、福家さんは誰か一人を一番幸せにしたいと、一輪の薔薇を渡したい人を選ぶのかもしれない。

それが私じゃないのかもしれない。



でも、私は夢を見る。二人の幸せな日々の夢を。

そして、目が覚めて現実に戻る。

がんばる。

夢が夢じゃなくなる可能性はゼロじゃないから。

掴み取る為に。

その為に、私は夢を見る。

紳士さんと一緒にいる淑女さん、二人は愛し合って幸せに暮らしています。
私は夢見る。そんな夢を。

とりあえず、目を覚ましたら、今は膝枕されててしあわせです。



って、膝枕ぁああああああ!?
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