白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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38話 五十路、再会する。

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「白銀さん、お疲れ様です!」
「紫苑さん、お疲れ様です」

今日は午前だけだった私に代わり、正午お坊ちゃん、改め、紫苑しえんさんが引継いでの勤務のようです。スタッフルームで顔を合わせます。

「でも、今日は」
「大学生ですからね。忘れてませんよね? 今日は、僕、大学は午前だけです」

そうでした。ついつい目がくりくりしていて幼く見えるその容姿で高校生だと勘違いしてしまいます。
ジジイは忘れっぽくていけませんね。
『紫苑』という名を与えられた若い執事は、その小柄で幼い印象もあり、非常にお嬢様達から可愛がられています。

本人は『白銀さんみたいに、大人になりたいのに』と言っていましたが、何故その若さを持っていながら、私のようなジジイになりたいのか、よくわかりません。
ただの老け顔ジジイですよ。

「それで、あの、今日、よければ、僕の仕事っぷりを見てアドバイス頂けないかと」
「ちょっと待ったー! 紫苑! 一番弟子の俺を差し置いて何を言うか」

緋田さんが勢いよく飛び込んできて私と紫苑さんの間に立ちはだかります。

「緋田さん、緋田さんは今までも白銀さんの指導を受けているんでしょう。なら、僕に譲ってください」
「俺はまだ、師匠の100分の一も吸収できていない……!」
「それはそうですが」
「それはそうですがとかゆーな!」

一緒に働いていて分かったことですが、意外と紫苑さんは、毒を吐きます。
特に緋田さんと黄河さんには容赦がありません。

ですが、本当に心を開いた証拠だろと千金楽さんも言ってしましたし、私もそう思います。
そして、何故か二人とも私を尊敬してくださいます。
理由がよくわかりませんが、慕って下さるのは有難いことです。
ですが、今日は残念ながら、

「すみません、お二人。今日は私、先約が」
「誰ですか!? 黄河ですか!?」
「オタクは師弟関係とか好きですからね」

はて? お二人は何を言ってるんでしょうか。

「ああ、違います。今日は、ちょっと集まりに」
「そう、でしたか……分かりました。では、また次の機会に! 緋田さんなんてあっという間に追い越しますから!」
「なんかとかゆーな! あれ? でも、現時点では俺が勝ってると認めてる? あー! 紫苑、と考え込んでいる内に、さっさとホール行こうとするな! ……俺も行く!」

慌てて二人が飛び出していきます。
最近の【GARDEN】は非常に元気が出てきたように思います。
さて、元気を貰えた私も出かけるとしましょう。




「これで、全部ですかね。大分早いですが、大丈夫でしょうか?」

買い出しを終えた私は、ゆっくり目的地に向かおうと遠回りして歩いていきます。
カルムを見てみようと思いました。

今まで、避けていたのですが、この前の一也さんの様子から気になって、少し覗いてみたくなりました。

カルムの前に来ると、今日は休業日なのか電気が付いていません。定休日は違うはず。
一也さんが、勝手に休みにしたのでしょうか。

向こうでは同じように覗き込む小柄で可愛らしい女性が。
あれは……。


「小鳥さん……?」
「拓、さん……」

カルムの前オーナー、小鳥さんと久しぶりの再会。
静まり返ったカルムの前でとは皮肉なものです。

私は、時間もあったので、公園のベンチに座り、小鳥さんと少しお話しすることにしました。
小鳥さんは少し戸惑っていたものの、最終的に頷き、付いてきてくださいました。
ただ、その表情は暗く陰が差していました。

「退院して、その後体調は……?」
「ああ、うん、もう大丈夫。ありがとう」

体調自体は良いのかもしれません。肌ツヤ自体はよさそうです。
ですが、やはり病は気からでしょうか。オーラというか身に纏う空気が重く見えます。

「カルムを見に……?」
「うん……あは、駄目だね。一也も、一度痛い目見たら心を入れ替えてくれるかなと思ったけど、痛い目見たのは私だった……。甘かったのは、私だった」

その後、小鳥さんは私にいろんな話をしてくれました。
入院する前に、一也さんにオーナー代理を任せ、私を店長にしてしっかり学ぶように伝えていたこと。
退院後、カルムに行くと、一也さんが私に店長の件を伝えていなかった事実を認めたものの、店の現状は自分のせいではないと、そして、実の母親でない小鳥さんに何も言う権利はないと、本来は一也さんの実の母親が貰うはずの店だったんだからと言われたこと。
カッとなって、店を一也さんに任せ、私に謝るならば力を貸してやると言い、立ち去ったこと。

「時々見に来てたんだけどね、ガラガラか、ちょっと悪そうな知り合いみたいな子達がたむろしてる位で……いずれ、うまく立ちいかなくなることを自分で理解して、ちゃんと謝ってくれて、よく謝れたねって言って、元通りとはいかなくても、また一緒に頑張れると思ってた」
「休みがちとは言え、営業自体は続いてるんですよね?」
「うん……お友達がいっぱい使ってくれてるのか、頼ってくる様子はないし、最近は困ってないみたいなのよ」

小鳥さんは弱弱しく笑うと拳を握りしめ絞り出すような声で言いました。

「私のせいだ」

再会するまでこんな小鳥さんを見たことはほんの数回。
その時も、そうなって当然の大きな出来事ばかりでした。

「私が、一也のことを分かってないままに任せちゃったから、成長してくれると勝手に思い込んでたから、拓さんを引き留めなかったから」

眉間に深く皺を刻み、もう止まれないのか、濁流のように言葉を口から吐き出していく小鳥さん。

「拓さんが、一也のいう事簡単に聞いて引き下がっちゃうのもなんか悔しくて……ごめんね、これは拓さんのせいじゃないのにね……!」

小鳥さんの小さな拳が、強く強く握られ、彼女の小さくて柔らかな手が壊れないか心配になる位でした。
小鳥さんにとって、それほどの出来事だったのでしょう。
私は、

「小鳥さん、少しお時間を私に頂けませんか?」
「……え?」

私が微笑みかけると、小鳥さんは私の顔を見上げながら、きょとんとしています。

「お願いです」
「あ、うん。今日は、特に予定もないから」
「では、参りましょう。さあ、お嬢様」

いけません、つい【GARDEN】の癖が。手を差し伸べてしまいました。
振り返ると、小鳥さんが真っ赤なお顔で俯き、そーっと私の手に自分の手を重ねます。

「よ、よろしくお願いします……!」

な、なんでしょう? 本当にこの方、少しとは言え、私より年上なんでしょうか。
凄く可愛らしくてはた目から見れば、おじいちゃんとお孫さんに見えてもおかしくないような……紫苑君といい、真昼お嬢様といい、小鳥さんといい、何を食べたらそんなに若くなれるんですか!?

そして、こちらから提案したので、手を離すタイミングも見つからず連れて行くこと十数分。辿り着いたのは、

「ちょっと! たくちゃん! 手を繋いで誰を連れて来たの!? 私というものがありながら! ……あら、小鳥ちゃん!? じゃあ、しょうがないわ。ばばあは引き下がるしかないわね」
「へ?」

小鳥さんは再びきょとんとして止まってしまいます。

そこは小さな集会所。集まったのは沢山のおじいさんおばあさん。
少し話し込んでしまったせいか待たせてしまったようです。

……いえ、時計を見ると違いました。ただ、皆さんがはやかっただけじゃないですか。
とはいえ、それだけ楽しみにして下っていると分かり、頬が緩んでしまいます。

「お待たせしました。では、始めましょうか。『銀の茶会』を」
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