白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

文字の大きさ
37 / 60

37話 朝日、変えられる☆

しおりを挟む
【下柳朝日視点】



どうも下柳朝日です!

私は今、葛西寛子さんのご自宅に向かっております。

閑静な住宅街? を抜けると見えてきました。

デカっ!

マンションデカっっっっっ!

ということでテンション爆上げで逆に落ち着いた。

見るからに高級マンション。私の月のバイト代では、トイレしか借りられそうにないようなマンションのホテルみたいなエントランスで待つこと数分、葛西さんがやってきた。

「ごめんね、遅くなって」
「いいいいえ! こちらこそ本日はお招き頂き誠にありがとうございます!」

葛西さんは、恐らくラフな格好であろうお姿で登場。
でも、多分、私の勝負服以上するんじゃなかろうか。

ゆったりしてるけど、滅茶苦茶生地の良さそうな薄紫と黒系の上下。ワイドパンツがお洒落に見える……!
私が履いたら、雑魚剣道女みたいになるのに!

なんだ、あのちょいゆるな隙間から漏れ出る色気は!
生地よりも柔らかそうなマシュマロボディの力か!?
甘い匂いするし、これが食べちゃいたいくらいかわいいなのか!?
なんだか興奮してきたな。

「ここよ」

ハッと正気に戻った時には、もう部屋の前にたどり着いていた。
大丈夫。食べちゃってないからゼロカロリーゼロギルティだ。

中に入ると、まあ、お洒落。
お洒落な玄関、お洒落な靴、お洒落なインテリア、お洒落な人達……人達!?

「あ、あ、あの、この人達は?」
「ああ、ウチの事務所のコ達。一緒にやったほうがいいかなって」

いやいやいやいや! 一緒に?! くさやとプリンが戦ったらどうなるか……くさやが勝つんですよ! 誰がくさやだ!

「「「よろしく~☆」」」
「よ、よろしきゅです」

か、かわいい……かわいいが三人絡んだら最高だ。ブスが噛んでも最低だ。

「じゃ、一人ずつやっていきましょうか。じゃあ、美月ちゃんから」
「はい! お願いします!」

美月ちゃんさんが葛西さんに連れていかれ、メイクを始める。
そう。今日は葛西さん主催のメイク講習会なのだ。

以前LIN○グループで誘って頂いた話、社交辞令かと思ってたら本気だった。
だが、葛西さんの事務所のコと一緒とか聞いてない。

死ぬ。
顔面偏差値の高低差で顔潰れる。

なのに、残っている二人が凄く優しく接してくれる。

内面偏差値の高低差で内臓も潰れる。

そして、気付けば、私は着せ替え人形になっていた。
二人がそこに並んでいた服を次々に私に提案してくる。
そして、一番元気な方が選んだ服はめちゃくちゃ明るい色でかわいくて、

絶対私が買いそうにない服だ。

「あ、あの……こんなかわいい服は……」
「え? 嫌い? カワイイ系が嫌いなら、じゃあ……」
「あ、あ、あの嫌いとかじゃなくて……着たことなくて」
「じゃあ、着てみようよ! 誰かにみられるわけじゃないし!」

いや、あなた達に見られるんですけど!
とは言えず、しぶしぶ着替える私。
そして、鏡で確認。

う~~~~~~~~~ん……。

「ねえ、朝ちゃん」

距離の詰め方!

「似合わないだろうなあと思ってない?」

どきっとした。元気な美女さんの近さとかわいい顔の角度にもだけど、その言葉に一番どきっとした。

「似合う似合わないの前に、朝ちゃんがその服を着こなしてやるー! って思ってなくない?」

この中で一番クール系っぽいお姉さんが前に出て、優しく微笑みながら一言だけ。

「私達が選んだ服は信用できない?」
「あ……」

私は、また、下を見てた。
そうだ。
私は、お嬢様になるんだ。その為に一個二個の恥が、傷がなんだ。
いや、中身外見ブススタートなんだぞ、全身刻まれる覚悟で臨まないと。

「あの! ど、ど、どうしたら?」
「……うん! あのね」

そのあと、元気な雪さん(名前教えてもらった)は、その服のどういう所が可愛くてどういう所が私に合ってるか教えてくれた。
めっちゃちゃんと理由があって、びっくりした。
そんで、清花さん(クール系美人さんの方)は、何故この服が作られたのか、服の工夫ポイントをかいつまんで教えてくれた。

え? こんなこと考えて着てるの? お洒落女子。
この前ウチのバイトのガチオタクの子が、ある漫画をお勧めしてきた時と同じ熱量なんだけど。

そうか。
好きなんだなあ。

「ん? なに?」
「いや、凄い詳しくて好きなんだなあ、と……」
「いや、好きじゃないよ」
「へ?」
「必要だから覚えただけ。めっっっっっちゃ覚えた! 本馬鹿みたいに読んで! 少しでも売れたいから」
「な、なんで売れたいんですか?」
「なんで?」

雪さんはきょとんとすると首を傾けて人差し指を顔に当て考え始めた。
え? これ、無意識? アザトカワイイが過ぎるんだが?

「んーと、選ばれたいから?」
「え、選ばれなかったら嫌じゃないですか?」
「いやだよ! でも、出来ることやって選ばれなかったらもう仕方なくない? 出来ることやってなくてもっと出来たのにって思う方が私はいやだけどな。あ、はーい、次、私!」

雪さんが交代で去って行く。
彼女のふわふわした歩き方、あれも努力して身に着けたものなんだろうかと私はぼーっとその後姿を見てた。

その後は、申し訳ないことにほとんど話が右耳から左耳に通り抜けてたと思う。
正直すまんかった。
だけど、目につくのだ。彼女達の努力や積み重ねの後が。

見せ方、話し方、知識の量、何かを吸収しようというどん欲さ、すべてがかっこよすぎた。

「じゃあ、最後は、朝日ちゃんいってみようか」
「は、はい!」

私は葛西さんに連れられてちょっと離れたメイク台的なものの前に座る。

「どうだった? あのコ達」
「す、凄かったです! それに、かわいいし」
「あのコ達はね、まあ、厳しい評価をすると芸能界では普通より少し下ってところなのよ」

あれで!?

「でもね、あのコ達、全然目が死んでないでしょ。あのコ達はね、覚えてるから。自分の顔や姿が褒められたい人に、褒められたことを」

褒められたこと。
最近、褒められたことはバイトの後輩に、最近凄い姿勢良いですねって褒められた。
ただ、それだけなのにめっちゃ嬉しかった。
覚えてる。

「家族や、友達、時には見知らぬ他人だってこともある。でも、褒められて、認められて、嬉しかったし、その言葉を信じてるから、今も頑張ってる」

うん、私の背筋はロマンスグレー様に伸ばされて、バイトの後輩ちゃんに伸ばし続けられて……でも、きっと昔、書道の先生や家族も褒めてくれてたと思う。
そのすべてが今私の背骨になって、私を支えてくれてる気がする。

「だから、必死で戦うの。自分を信じて。自分の武器は何で、どうやってやれば、生き残れるか考え続けて。……勿論、この業界はうまく行かない人の方が多いわ。でも、彼女たちはそれも知ったうえで戦うことに決めたの」

戦う。その意味を初めて最近知った気がする。
戦うとは負けることがあることだ。怖くて怖くて仕方ない。でも、その先に欲しいものがあるから頑張って踏ん張って手に入れる。
それを私はつい最近知った。

「美しさなんて、そのままの質だけで成功している人なんて何割いるか……ほとんどの人が努力よ。白鳥が水面下でバタバタしてるって話あったわよ。あれほんとそう。バタバタしてる。悪あがきって言われても仕方ないくらい。バタバタやれることをやってるのよ」

バタバタなんてしたことない。
したとすれば、なんで神様はこんな不公平なのか不平不満をぶつけた時くらいじゃなかろうか。

「で。バタバタしてた私が辿り着いた一番の秘訣はね。自分をちゃーんと見ること。歪んだ濁った鏡じゃなくて、綺麗に綺麗に丁寧に磨いた鏡で見るの。で、探す。自分のかわいいポイントを必死に。そして、それを伸ばす、活かす、褒める、必死に。それを沢山出来るだけ見つける。例えば、目」

目。小さくて嫌いだ。

「つぶらでかわいい。パッチリさせるのは努力で出来る。小動物みたいなかわいさもあるから、朝日ちゃんの内面も踏まえてあえてパッチリさせても派手にさせ過ぎず清楚メイクで」

葛西さんの魔法でなんかいい感じになる。すげえ。

「誰かになる方法も勿論あるんだろうけど、私はね、出来るだけ自分のかわいいを探してほしい派かな。かわいいはね、あるのよ。だって、言い方じゃない? ブサカワ、オジカワ、キモカワ……でも、かわいいなの。これって無敵だと思うのよね。なんでも考え方で可愛く出来るって。否定さえしなければかわいいはあるはずなの。誰かの羨ましいかわいさだけじゃなく、自分のかわいいを選んで欲しいのよ」

かわいいを選ぶ。自分の好きな部分を作る。

「自分のかわいいを選び続けて最善の努力を選び続けても、選ばれないことだってある。芸能界って特にね。で、選ばれないことに慣れてくるの。慣れてくるとこう思う。ああ、私は駄目な子なんだって。駄目な子だから、駄目な子は努力しなくていいかってなっちゃう。だから、私は言ってあげるの」

寛子さんは私の髪を梳かしながら、優しく言う。女神か。

「あなたは頑張ってたよって。だから、頑張れるよって」

やばい。泣きそう。メイク崩れる。

「もし、それで此処でまだ踏ん張れるなら応援するし、別の道を目指しても応援する。私は頑張る子を応援したいから。……はい、出来た。どう?」
「素敵です……寛子さん」
「えっ!? い、いや! 私の事じゃなくて……もうっ!」

あ、寛子さんって言っちゃった。まあ、いいか。だって、可愛すぎるんだもん、寛子さん。
寛子さんが照れて背を向けてしまった。かわいい。
鏡に映るのは、私と、寛子さんと、沢山の美容に関する本と道具。

私は、まだ、足りない。

「じゃあ、気を付けてね」
「はい! ごはんまでありがとうございました!」
「ふふ……あれね、福家さんと一緒に考えた美容食なのよ……お互い頑張りましょ☆」

そう言って笑った寛子さんは本当にかわいくて美しかった。
あの三人は残ってこのあとも勉強するのだろうか。

帰り道。振り返るとバカでっかい寛子さんのマンション。
見上げればどこまでも続いているんじゃないかってくらい高い。

首が疲れるからやめた。
まっすぐ前見たら、綺麗に磨かれたエントランスのドアに映った私。
キ……いや、良くなってる。絶対に良くなってる。
あんな素敵な人が手伝ってくれたんだ。そして、私も頑張った。
おい、お前、

「かわいいぞ」

キモッ! キモッ! いや、これは自分で言ってる自分がキモいのであって、彼女達の努力を馬鹿にするような……

「……かわいいぞ。かわいいぞ」

私も自分の努力を馬鹿にするな。世間一般の平均から見ればまだまだまだまだまだかもしれないけれど、今日の私は一番頑張った可愛くなるために一番頑張った日だ。

まだ、最高の日は『あの日』を超えられないけれど、きっと頑張り切った先に、その日があるんじゃないかと思ってる。

「くそう。がんばるぞ。かわいくなるぞ。やってやるぞ」

そして、私は、帰り道におすすめされたお洒落雑誌を買った。
店員さんにチラっと顔見られた気がするけど気にするもんか。

傷が男の勲章なら、心の傷は女の勲章か?
誰にも見えないじゃないか。
いや、私には見えるぞ。自分。偉いぞ。頑張れ。頑張るぞ。

「私はかわいくなる」

家に帰って鏡に向かってそう言った。
のを、お母さんに見られてぐって応援された。

しにたい。

葛西さんに貰ったロマンスグレー様の写真見てエネルギー補充しよ。

「かわいいですよ」

きっと言ってくれる。ロマグレ様なら。だから、がんばるぞがんばるぞ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...