運命なんていらない

文字の大きさ
4 / 46

しおりを挟む
「カナ、おはよう。気分大丈夫?」
「……さいあく」

頭をガシガシ搔きながら身体を起こそうとしたが、力が入らない。

「無理して起き上がらないで。とりあえず、水分摂ろう?」

寝た状態でも飲めるように、ペットボトルにストローを差し、そっと渡された。
コクコクと飲む。
甘い桃の味がした。

「今回は薬が効いたのかヒートが落ち着くの早かったね」
「……」

蒼を睨む。
目があった。
見つめられて、我慢できずにそらした。

「来ちゃダメって言われたのに、ごめんね。でも、ヒートだって、カナが苦しんでるって分かってるのに、我慢できない。側にいたい」

蒼をちらっと見る。
その瞳は揺るがない。

「好きだよ。だから、ごめんねって謝るけど、また同じことするよ。ヒートの時は側にいさせて」

「……ヒートの時だけでいいのか」

「……嘘。ずっと」

はぁ……。
頭を抱える。
なんなんだよ!

「必要ない。俺はお前のこと好きじゃない。なぁ……綺麗なαの女優さんでも可愛いΩのタレントさんでもお前なら余裕だろ?なんで俺なんだよ!何もないのに……俺にはお前を繋ぎ止めるものなんてないのに……俺じゃないんだよ!お前には俺じゃないっ」

最後は涙声になった……くそっ。

「愛してるから。カナがいいんだ。カナだけでいい。……もう少し、休もう?疲れてるからね。次に起きた時に食べられるようにおかゆでも作るよ」

駄々っ子のように突っ伏して首をふる俺をなだめる。
顔を見られたくなくて布団に潜り込むと、疲れからかすぐに眠りに落ちた。



目が覚めると、外は暗かった。
何時間たったんだろう?

ゆっくり起き上がる。

そもそも、今日が何日かも分からない。
ヒートは平均して一週間くらい続くが、薬の効きが良かったためもっと短かったように思う。

しかも、二日目から蒼がいた。

蒼が来てから、記憶があまりない。
ヒート中は、霧の中のようにすべてが曖昧だ。
でも、どんな痴態を曝したのか覚えていない方がまだマシか……一人ごちる。
霧の中で、時々蒼のことを思い出す。

「可愛い」
「いい子だね…」
「大好きだよ……」

甘い顔で幸せそうに。

忘れろ!
小さく何度も首をふる。
Ωのフェロモンにあてられた戯言だ。

ゆっくり立ち上がる。
身体は重いが、動くことに問題はない。

テーブルの上にはラップされたまだ少し温かいお粥とメモ。

『何もないから、買い物に行ってくる。お粥、食べられるようなら食べてね』

ラップをはずし、お粥を口にする。
久しぶりの固形物が美味しくて、手が止まらない。
すべて食べきり、ふーっと力が抜ける。

「あーあ」

自分が思っていたより、口から出たため息は大きかった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

処理中です...