19 / 46
19
しおりを挟む
蒼のマンションに帰り着く。
部屋に入った瞬間に崩れ落ちた。
「カナ!?」
蒼に抱き止められる。
「わりぃ……力抜けた……」
案外平気だなって思っていたのに、こんなに気を張っていたのか……。
自分でも気づいていなかった。
「ごめんね。誕生日だからって、久しぶりなのに連れ回しすぎたね……」
また大型犬·蒼が出た。
耳も尻尾も垂れ下がっている。
「大丈夫!楽しかったよ、マジで」
俺は抱かれたまま蒼の背中をポンポンと叩く。
「誕生日なんてさ、あんま関係ないって感じだったのに、今年の誕生日のことは一生忘れない。……マジでありがと」
蒼が本当に嬉しそうに笑う。
あ~、カッコいいな、こいつ。
蒼はずっとカッコいい。
……ずっと。
「今まではご家族に譲ってたけど、これからは毎年祝わせて。一生」
「重いわ」
頭にチョップした。
二人ともラフな部屋着に着替え、届いたピザとビールで乾杯する。
久しぶりのアルコールだ。
特に見るわけでもないテレビをつける。
「今日、女の子たちにキャーキャー言われてる蒼を見てさー、すげーモデルなんだーって思ったよ。オシャレ雑誌とか見ないから、実感なかったんだよなぁ……テレビに出てくれたら俺レベルでも分かるんだけどなー」
「あー、それならモデルじゃなくて俳優とかになれば良かったかな?そんな話もあったけど、これ以上忙しくなるのも嫌だから断ってたんだよねー」
「贅沢者めー!」
取り留めもない会話。
ビールがすすむ。
……酔っぱらう前に言わないとな。
言いづらい……でも……楽しい時間だからこそ、未来の話をしたい。
「蒼……ずっと考えてたんだけどさ、俺、この部屋出て一人暮らしする。お前に世話にならないと生きていけない俺のままでいたくない。もっと一人で進みたいんだ」
「……いいよ」
「えぇっ!?」
思わず、大きな声出た。
「本当に、いいのか?本当に?」
「何で自分で言い出したのにそんな確認するの」
いや、絶対にごねられると思ってた。
説得に相当時間がかかると覚悟してた。
こんなにあっさり……拍子抜けした。
同時に、蒼にとって二人で暮らしてたことはたいしたことなかったんだな、と思う。
簡単に解消できるぐらいの……少しくらいは動揺してもらえるかと思ってた。
……そもそも人助けだしな……優しい蒼が幼馴染みを見捨てられなかっただけの……
もしかして、本当はもっと早く出ていってもらいたかったのかな?
彼女も連れ込んだことないし、俺の世話ばかりで負担しか……
駄目だ!
また昔の俺が顔を出しそうになる。
「なんとなく、そんな気がしてたんだ。今日、言われるかなって」
「そ、か……」
「……条件がある」
「へ?」
条件って、何が?
何の条件?
「気持ち良く、カナを送り出す条件」
「おぅ?」
それは、条件をのめないとどうなる?
反対されるってこと?
気持ち良くではないけど、認めてくれるってこと?
ちょっと、予想外の展開についていけない。
「一、引っ越し先は相談すること。セキュリティとか心配だからね」
うん。それは俺もそうしようと思ってた。
「分かった」
「二、ヒートが不安定なうちは外出する時は連絡して欲しい」
うん。
過保護な気はするが、何かあった時のためにも知っておいてもらった方がいい。
「分かった」
「三、新しい部屋の合鍵が欲しい」
「ん?」
「連絡が取れなくなった時とかのために。本当はご両親が持っておくのがいいと思うけど、遠いから……」
う、ん。
合鍵……って彼女とかに渡すんじゃあ?
いや、いないけど。
あ、緊急用ってことか。
それなら蒼に渡しておいた方がいいな。
不摂生で倒れる……なくはない。
「分かった」
「四、朝、モーニングコールしたい」
「んん?」
「朝一番最初に聞くのはカナの声がいいし、カナにも僕の声を聞いて欲しい」
「いや、俺はずっと家だし関係ないけど、お前は大学とかモデルの仕事でバラバラだろ?わざわざそんな…」
「したいから」
「いや、まぁ、別に俺はいいけど……」
謎な条件出してきたな……。
「最後に五」
まだあったのかよ!
「ヒートの時は側にいたい」
「ダメ」
即答だ。
……そのために、部屋を出ると言っても過言ではないのに。
「なんで?」
「最初の時は……ごめん。お前を利用した。でも、それからもお前は俺に気を使ってくれるけど、それじゃダメだろ。……一人で乗り越えなきゃ」
「なんで?」
「なんでって……」
「好きな相手がヒートで苦しでるのに、何もしちゃいけないのはなんで?」
「お前なぁ……」
だんだん、イライラしてきた。
誰が誰を好きだって?
笑わせんな!!
……ここまで楽しく過ごしてきた誕生日を嫌な感じで終わらせたくない。
ぐっと堪える。
「とにかく!最後の条件以外は分かった。ダメでも俺は出ていく」
「……分かった。また引っ越し先とか相談しよう」
ほっとした。
「奏」
無意識に閉じていた目を開ける。
今、奏って……いつもカナ、なのに…
「俺の番になって」
「なっ……」
真剣な蒼の顔。
冗談でこんなこと言わない。
そんなこと、分かってる。
俺はこんな優しさはいらない。
「……なるわけねぇだろ」
ぐっと拳を握りしめる。
「お前には俺じゃない」
蒼がふーっとため息をつく。
「好きだよ。愛してる。信じてもらえるまでいい続けるよ」
違う。
俺みたいなΩ、誰も番になんて望まない。
不安定なヒートに苦しんで、日常もまともに送れない可哀想な俺。
そんな俺を優しいお前が救ってくれようとしている。
優しい嘘。
もう、いいんだ。
お前を、解放してやりたい。
部屋に入った瞬間に崩れ落ちた。
「カナ!?」
蒼に抱き止められる。
「わりぃ……力抜けた……」
案外平気だなって思っていたのに、こんなに気を張っていたのか……。
自分でも気づいていなかった。
「ごめんね。誕生日だからって、久しぶりなのに連れ回しすぎたね……」
また大型犬·蒼が出た。
耳も尻尾も垂れ下がっている。
「大丈夫!楽しかったよ、マジで」
俺は抱かれたまま蒼の背中をポンポンと叩く。
「誕生日なんてさ、あんま関係ないって感じだったのに、今年の誕生日のことは一生忘れない。……マジでありがと」
蒼が本当に嬉しそうに笑う。
あ~、カッコいいな、こいつ。
蒼はずっとカッコいい。
……ずっと。
「今まではご家族に譲ってたけど、これからは毎年祝わせて。一生」
「重いわ」
頭にチョップした。
二人ともラフな部屋着に着替え、届いたピザとビールで乾杯する。
久しぶりのアルコールだ。
特に見るわけでもないテレビをつける。
「今日、女の子たちにキャーキャー言われてる蒼を見てさー、すげーモデルなんだーって思ったよ。オシャレ雑誌とか見ないから、実感なかったんだよなぁ……テレビに出てくれたら俺レベルでも分かるんだけどなー」
「あー、それならモデルじゃなくて俳優とかになれば良かったかな?そんな話もあったけど、これ以上忙しくなるのも嫌だから断ってたんだよねー」
「贅沢者めー!」
取り留めもない会話。
ビールがすすむ。
……酔っぱらう前に言わないとな。
言いづらい……でも……楽しい時間だからこそ、未来の話をしたい。
「蒼……ずっと考えてたんだけどさ、俺、この部屋出て一人暮らしする。お前に世話にならないと生きていけない俺のままでいたくない。もっと一人で進みたいんだ」
「……いいよ」
「えぇっ!?」
思わず、大きな声出た。
「本当に、いいのか?本当に?」
「何で自分で言い出したのにそんな確認するの」
いや、絶対にごねられると思ってた。
説得に相当時間がかかると覚悟してた。
こんなにあっさり……拍子抜けした。
同時に、蒼にとって二人で暮らしてたことはたいしたことなかったんだな、と思う。
簡単に解消できるぐらいの……少しくらいは動揺してもらえるかと思ってた。
……そもそも人助けだしな……優しい蒼が幼馴染みを見捨てられなかっただけの……
もしかして、本当はもっと早く出ていってもらいたかったのかな?
彼女も連れ込んだことないし、俺の世話ばかりで負担しか……
駄目だ!
また昔の俺が顔を出しそうになる。
「なんとなく、そんな気がしてたんだ。今日、言われるかなって」
「そ、か……」
「……条件がある」
「へ?」
条件って、何が?
何の条件?
「気持ち良く、カナを送り出す条件」
「おぅ?」
それは、条件をのめないとどうなる?
反対されるってこと?
気持ち良くではないけど、認めてくれるってこと?
ちょっと、予想外の展開についていけない。
「一、引っ越し先は相談すること。セキュリティとか心配だからね」
うん。それは俺もそうしようと思ってた。
「分かった」
「二、ヒートが不安定なうちは外出する時は連絡して欲しい」
うん。
過保護な気はするが、何かあった時のためにも知っておいてもらった方がいい。
「分かった」
「三、新しい部屋の合鍵が欲しい」
「ん?」
「連絡が取れなくなった時とかのために。本当はご両親が持っておくのがいいと思うけど、遠いから……」
う、ん。
合鍵……って彼女とかに渡すんじゃあ?
いや、いないけど。
あ、緊急用ってことか。
それなら蒼に渡しておいた方がいいな。
不摂生で倒れる……なくはない。
「分かった」
「四、朝、モーニングコールしたい」
「んん?」
「朝一番最初に聞くのはカナの声がいいし、カナにも僕の声を聞いて欲しい」
「いや、俺はずっと家だし関係ないけど、お前は大学とかモデルの仕事でバラバラだろ?わざわざそんな…」
「したいから」
「いや、まぁ、別に俺はいいけど……」
謎な条件出してきたな……。
「最後に五」
まだあったのかよ!
「ヒートの時は側にいたい」
「ダメ」
即答だ。
……そのために、部屋を出ると言っても過言ではないのに。
「なんで?」
「最初の時は……ごめん。お前を利用した。でも、それからもお前は俺に気を使ってくれるけど、それじゃダメだろ。……一人で乗り越えなきゃ」
「なんで?」
「なんでって……」
「好きな相手がヒートで苦しでるのに、何もしちゃいけないのはなんで?」
「お前なぁ……」
だんだん、イライラしてきた。
誰が誰を好きだって?
笑わせんな!!
……ここまで楽しく過ごしてきた誕生日を嫌な感じで終わらせたくない。
ぐっと堪える。
「とにかく!最後の条件以外は分かった。ダメでも俺は出ていく」
「……分かった。また引っ越し先とか相談しよう」
ほっとした。
「奏」
無意識に閉じていた目を開ける。
今、奏って……いつもカナ、なのに…
「俺の番になって」
「なっ……」
真剣な蒼の顔。
冗談でこんなこと言わない。
そんなこと、分かってる。
俺はこんな優しさはいらない。
「……なるわけねぇだろ」
ぐっと拳を握りしめる。
「お前には俺じゃない」
蒼がふーっとため息をつく。
「好きだよ。愛してる。信じてもらえるまでいい続けるよ」
違う。
俺みたいなΩ、誰も番になんて望まない。
不安定なヒートに苦しんで、日常もまともに送れない可哀想な俺。
そんな俺を優しいお前が救ってくれようとしている。
優しい嘘。
もう、いいんだ。
お前を、解放してやりたい。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる