運命なんていらない

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20~蒼視点~

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楽屋をノックする音。

「蒼~久しぶり~……でもないか?まぁ、何日間か会ってなかったから僕は久しぶりに感じるなぁ」

相変わらず、海里は天然と言うか……これをカナは可愛いって思ったのか?

「海里も番組出るんだ?」

「シークレットゲストだよ」

「……ダメじゃん……」

「ちょっと、話したかったからね。そこはいつもの上手い演技で知らなかったってことで」

ふふふ、と含みのある笑み。

「で?」

ため息をつきながらも、楽屋の対面の椅子を促す。

海里はトテトテと歩き座ると

「奏くん、僕のこと何て言ってた?」

あぁ、カナの反応を知りたかったのか。

「可愛いって」

「おぉ~」

「歳もめちゃめちゃ驚いてたよ」

「そうそう!ホント驚いてくれてね。自信がついたよ。蒼で粉々になったのにね?」

「よく言うよ」

会話が弾む。
海里とはやはり、合うなぁ。

「奏くん、けっこう僕と蒼のことショックだったんじゃないの?」

「いや、言ってない。普通に主演映画の原作者でウマが合った~くらいだよ」

「えっ、そうなの?その割に……」

「ん?」

カナの態度が何かおかしかったのか?

カナは俺や家族には口が悪いが、目上の人や、悪く言えば心を開いてない人への態度は礼儀正しい。

初対面の海里に対して、いつものカナの感じは出さないはずだけど……。

「カナ、変だった?」

「いや、心ここに在らず、みたいなね。もちろん、仕事の打ち合わせはちゃんとしてたよ。ただ、雑談?とかになると、ね……」

「ふぅん」

どうしたんだろう?久しぶりの外出で疲れてたのかな?

「あと、ね。僕を見る目が何か……物悲しいというか、辛そうにすることがあってね……」

「あぁ。それは海里がカナの理想のΩだからだよ」

「理想のΩ?」

「そう。カナがなりたかった姿が目の前にあったから、自分と比べちゃったんだと思うよ」


カナはとにかく、自己肯定感が全くといっていいほど、ない。

幼い頃は、普通の自分と何もかも出来すぎた俺とを比べて。

バース性が解ったあの日からは、見た目がβなのにΩな自分とΩらしい容貌をしたΩとを比べて。

自分が比べてきた基準すべてに劣っていると幼い頃から感じ続けた結果、例え自分に優れている面があっても、それを見ようとしない。

なぜか、もっと上とまた比べてダメな自分と否定する。

比較ぐせがついてしまったのか。

そんな生き方は、とても、苦しい。


そうなった原因の一つは、間違いなく俺。

俺は、小賢しい子供だった。
それを全部解っていた上で、側に居続けた。


カナは……奏くんは初め、特に印象の残らない子供だった。
家が近所で親同士も交流があり、なんとなく遊ぶ回数が多いな、くらいの印象。

ある日、近くの公園の砂場で奏くんがトンネルを作っていた。

「あおくーん、とんねるたのしーよー」

特に興味はなかったが、誘われたので作ろうかな、と作り始めた。

早々に作り終わり、飽きていた俺と違って、奏くんは一生懸命トンネルを作り、途中が崩れ、また作り、と繰り返している。

不器用……だな……と思いつつ、冷めた顔で見ると、反対にその顔はキラキラしていた。

「大きいの、いっしょに作って、みる?」

なぜか、そう言っていた。

「うんー!」

満面の笑み。
素直に、可愛いな、と思った。

砂場で大きな山を一緒に作る。
奏くんは一生懸命小さな手でペタペタと山を固める。
とても楽しそうだ。

なぜか、楽しくもなんともなかったトンネル作りにワクワクしている自分がいた。
奏くんのワクワクがうつったんだ。

「あおくーん、そろそろはんたいからトンネルほってこー」

「おー」

それぞれ反対側からトンネルを掘る。
崩れないように慎重に。

先ほど何回も自分で作った山を崩してた奏くんは特に慎重に、本当に少しずつしか掘ってない。
こちらは、手を伸ばした状態のギリギリまで掘れた。

「かなでくん、そっちもほろうか?」

「だいじょうぶ!ぼく、やる!そのままあおくんはおてて、いれてて。ぼく、あおくんのところまでいくから」

いや、手が冷たいんですけど?
早くして欲しい……。

「もうちょっと、もうちょっとだからね」

冷たい土の中、じっと待つ。
すると、小さな暖かい手にぎゅっと手を握られた。

「あおくん、みーつけたー」

何度もぎゅっ、ぎゅっと握られる。
僕は、心臓を同じように握られたみたいに苦しくなって、思わず手を握ったまま立ち上がる。

「へ?」

山は、トンネルを作るためにしゃがんだままの奏くんと、突然立ち上がった僕の握られたままの手によって、ぐちゃぐちゃに崩れた。

しまった!

何であんなに心臓が苦しくなったのか分からない。
やっと、トンネルが作れたのに!

「ご、ごめん、かなでく…」

「あおくん、てがつめたい……ごめんね、ぼくがおそかったから」

奏くんはしゅんとした。
僕は慌てた。

「ちがうよ。ぼくのほうがごめんね」

奏くんは僕の手をその温かい手でぎゅっと握って笑いながら言った。

「あおくん、やさしいね。みんな、ぼくがなんでもおそいからってすぐおこっちゃうから」

ぽろり、と涙をこぼしながら、奏くんはそれでも笑った。

「かなでくん……わらわなくていいよ。ないていいよ」

「だいじょぶ。カナ、やさしいあおくんすき」


あの時のことを、今でも鮮明に覚えている。

泣きながらも、必死で笑おうとしていたカナ。

その姿に、全身の血が沸騰するようだった。

ぽろり、ぽろり、と涙をこぼしながら、花が咲いたように笑う。

「カナってよんで。あおくんだけ、よんでいーよ」

この子の、特別になりたい。
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