29 / 46
29
しおりを挟む
「蒼、幸せに、なって」
これが、俺の本心。
俺のことなんか気にせず、好きに生きて欲しい。
いつも俺を中心に回ってた蒼の優しい世界。
これからは、蒼を中心にして欲しい。
「カナ……」
蒼が立ち上がり、相変わらず悲痛そうな顔で俺の前にくるとそっと手を取る。
俺も立ち上がる。
身長差で少し見上げる形にはなるが、しっかり顔を見て、笑う。
最後くらい、笑顔でいたい。
俺の気持ちは、笑って伝えたい。
もう、涙と鼻水でぐっちゃぐちゃで、こんな顔で言うことでもないな、と 思いながら。
「蒼、好きだ」
蒼がはっと驚いた顔で俺を見る。
目を反らさない。
笑えてるかな?
蒼が負担に思わないように、笑えてるかな?
「好き……あ、お……好き……おれと、じゃなくて、いいからっ…幸せになって……」
いろいろ考えてたのに、言葉にならない。
「す、き……」
「奏!」
キツく抱き締められる。
息もできないくらいに。
「奏っ奏っ」
何度も何度も抱き締める力を込められる。
その度に、俺の名前を呼ぶ。
「あ、お、すき……すき」
塞き止めていた想いが溢れてしまって、俺は好きだと言い続けた。
それしか、出てこない。
……俺らしい告白だったな。
俺の気持ちはそれだけだ。
それだけでいい。
蒼はずっと抱き締めてくれていた。
とても、強く。
蒼の鼓動が聞こえる。
その早い鼓動が俺の気持ちと連動するようだった。
俺の肩口に顔を押し付け、少し震えているようだった。
「蒼」
最後に顔を見たい。
二人で笑って、お互いの手を離そう。
「蒼」
顔をあげて欲しいのに、顔を押し付けたままで離れてくれない。
「蒼、ちゃんと顔、見たい」
どんな顔でもいい。
罪悪感に曇っていても、苦笑でも、やっと離れられると笑顔になっていても。
「蒼、頼む」
びくっと震えると、ゆっくり顔を上げる。
「ぶっっはっ」
思わず吹き出してしまった。
俺に負けず劣らず、蒼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「お前、イケメンが台無しじゃねーか」
「カナ……俺のことが、好きって……」
「おぅ」
号泣している蒼を見て、なぜか俺が冷静になる。
あまりにドロドロなので、テーブルの上の箱ティッシュを渡してやるが、使おうとしない。
「ほら、拭けよ。すっごいことになってるぞ」
蒼は俺が渡したティッシュに目をやると、何枚か取り顔に擦り付けている。
「お前、なんでそんな泣いてんの?ビックリしたから?……にしては、量多くね?」
「カナが……やっと、好きって言ってくれたから……ずっと、待ってたから」
拭いた側から、ポロポロと涙を溢している。
「小さくて、何言ってるか分かんないよ。あっ、ごしごし擦るな!赤くなるだろ。とりあえず、こっちに座れ」
いつも世話を焼かれている俺が蒼の世話を焼いている……新鮮だ。
蒼が俺の手を離さないので、そのままソファーまで引っ張り、座らせる。
「お前、明日の仕事は大丈夫か?早く冷やした方がいいんじゃないのか?」
「カナ、もう日付変わってるよ……今日はカナの誕生日だよ……」
あー、確かにそうだ。
もういろんなことがありすぎて、すっかり忘れてた。
俺の誕生日は休み取ってるって言ってたから、とりあえずこの酷い顔面を曝さなくてすんで良かった。
「カナ、もう一回、好きって言って」
「はぁ?」
「録音、したい」
「何言ってんだ?」
ぐずった子供のように、ソファーでも俺に抱きついてこようとするし、訳の分からないことまで言い出した。
「お前、なんか変だぞ?どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないよ!カナが俺のこと好きだって言ったんだよ!?冷静でいられないよ!ずっと俺は待ってたんだから!」
突然、キレた。
何の話だ?
「カナ、好きだよ。愛してる。俺はずっと言ってたよ?カナは信じてくれなくて……カナは俺のこと、好きじゃないって分かってたけど」
そう、蒼は毎日、俺のことを好きだって言ってた。
でも、俺は蒼ほどのαが俺みたいな奴なんか選ばないって決めつけてた。
全部、聞き流してた。
また蒼が俺の気持ちを軽くするために言ってるって。
蒼なんか、好きになっていい相手じゃないって、自分の気持ちにも目を背けてた。
「それでも!俺はカナだけ好きだった。だから、ずっと側にいたらいつか、好きになってくれるかもしれないって。あの日みたいに、俺のこと好きって言ってくれるかもしれないって、ずっと待ってた」
あの日?
「……でも、お前には海里さんが……お前の運命の番、だろ」
「運命の番だから、何?」
「え」
「運命の番なんて、遺伝子が、本能が決めた相手でしょ?そんな運命なんていらない。俺は自分でカナを選んだんだ。俺の運命は俺が決める」
……ずっと思っていた。
俺は、選ぶことも選ばれることもない。
そんな価値なんて、なくて。
運命にすら、選ばれなくて。
なのに、蒼はずっと俺を選んでくれてた。
俺を、運命に、してくれた。
「カナ、俺を幸せにしてよ……カナが隣にいないと、俺は幸せになんかなれない」
「蒼……」
「奏……好きだよ。奏は?」
「……っ、俺もっ、好きだ」
二人とも、ボロボロ泣きながら抱き合った。
すごく、遠回りした。
ずっと、隣にいたのに。
やっと、隣に立てた気がした。
これが、俺の本心。
俺のことなんか気にせず、好きに生きて欲しい。
いつも俺を中心に回ってた蒼の優しい世界。
これからは、蒼を中心にして欲しい。
「カナ……」
蒼が立ち上がり、相変わらず悲痛そうな顔で俺の前にくるとそっと手を取る。
俺も立ち上がる。
身長差で少し見上げる形にはなるが、しっかり顔を見て、笑う。
最後くらい、笑顔でいたい。
俺の気持ちは、笑って伝えたい。
もう、涙と鼻水でぐっちゃぐちゃで、こんな顔で言うことでもないな、と 思いながら。
「蒼、好きだ」
蒼がはっと驚いた顔で俺を見る。
目を反らさない。
笑えてるかな?
蒼が負担に思わないように、笑えてるかな?
「好き……あ、お……好き……おれと、じゃなくて、いいからっ…幸せになって……」
いろいろ考えてたのに、言葉にならない。
「す、き……」
「奏!」
キツく抱き締められる。
息もできないくらいに。
「奏っ奏っ」
何度も何度も抱き締める力を込められる。
その度に、俺の名前を呼ぶ。
「あ、お、すき……すき」
塞き止めていた想いが溢れてしまって、俺は好きだと言い続けた。
それしか、出てこない。
……俺らしい告白だったな。
俺の気持ちはそれだけだ。
それだけでいい。
蒼はずっと抱き締めてくれていた。
とても、強く。
蒼の鼓動が聞こえる。
その早い鼓動が俺の気持ちと連動するようだった。
俺の肩口に顔を押し付け、少し震えているようだった。
「蒼」
最後に顔を見たい。
二人で笑って、お互いの手を離そう。
「蒼」
顔をあげて欲しいのに、顔を押し付けたままで離れてくれない。
「蒼、ちゃんと顔、見たい」
どんな顔でもいい。
罪悪感に曇っていても、苦笑でも、やっと離れられると笑顔になっていても。
「蒼、頼む」
びくっと震えると、ゆっくり顔を上げる。
「ぶっっはっ」
思わず吹き出してしまった。
俺に負けず劣らず、蒼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「お前、イケメンが台無しじゃねーか」
「カナ……俺のことが、好きって……」
「おぅ」
号泣している蒼を見て、なぜか俺が冷静になる。
あまりにドロドロなので、テーブルの上の箱ティッシュを渡してやるが、使おうとしない。
「ほら、拭けよ。すっごいことになってるぞ」
蒼は俺が渡したティッシュに目をやると、何枚か取り顔に擦り付けている。
「お前、なんでそんな泣いてんの?ビックリしたから?……にしては、量多くね?」
「カナが……やっと、好きって言ってくれたから……ずっと、待ってたから」
拭いた側から、ポロポロと涙を溢している。
「小さくて、何言ってるか分かんないよ。あっ、ごしごし擦るな!赤くなるだろ。とりあえず、こっちに座れ」
いつも世話を焼かれている俺が蒼の世話を焼いている……新鮮だ。
蒼が俺の手を離さないので、そのままソファーまで引っ張り、座らせる。
「お前、明日の仕事は大丈夫か?早く冷やした方がいいんじゃないのか?」
「カナ、もう日付変わってるよ……今日はカナの誕生日だよ……」
あー、確かにそうだ。
もういろんなことがありすぎて、すっかり忘れてた。
俺の誕生日は休み取ってるって言ってたから、とりあえずこの酷い顔面を曝さなくてすんで良かった。
「カナ、もう一回、好きって言って」
「はぁ?」
「録音、したい」
「何言ってんだ?」
ぐずった子供のように、ソファーでも俺に抱きついてこようとするし、訳の分からないことまで言い出した。
「お前、なんか変だぞ?どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないよ!カナが俺のこと好きだって言ったんだよ!?冷静でいられないよ!ずっと俺は待ってたんだから!」
突然、キレた。
何の話だ?
「カナ、好きだよ。愛してる。俺はずっと言ってたよ?カナは信じてくれなくて……カナは俺のこと、好きじゃないって分かってたけど」
そう、蒼は毎日、俺のことを好きだって言ってた。
でも、俺は蒼ほどのαが俺みたいな奴なんか選ばないって決めつけてた。
全部、聞き流してた。
また蒼が俺の気持ちを軽くするために言ってるって。
蒼なんか、好きになっていい相手じゃないって、自分の気持ちにも目を背けてた。
「それでも!俺はカナだけ好きだった。だから、ずっと側にいたらいつか、好きになってくれるかもしれないって。あの日みたいに、俺のこと好きって言ってくれるかもしれないって、ずっと待ってた」
あの日?
「……でも、お前には海里さんが……お前の運命の番、だろ」
「運命の番だから、何?」
「え」
「運命の番なんて、遺伝子が、本能が決めた相手でしょ?そんな運命なんていらない。俺は自分でカナを選んだんだ。俺の運命は俺が決める」
……ずっと思っていた。
俺は、選ぶことも選ばれることもない。
そんな価値なんて、なくて。
運命にすら、選ばれなくて。
なのに、蒼はずっと俺を選んでくれてた。
俺を、運命に、してくれた。
「カナ、俺を幸せにしてよ……カナが隣にいないと、俺は幸せになんかなれない」
「蒼……」
「奏……好きだよ。奏は?」
「……っ、俺もっ、好きだ」
二人とも、ボロボロ泣きながら抱き合った。
すごく、遠回りした。
ずっと、隣にいたのに。
やっと、隣に立てた気がした。
26
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる