運命なんていらない

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しばらく抱き合っていたが、俺は急に恥ずかしくなった。

「ちょっと、蒼、離れて」

「やだ」

やだじゃねーよ。
可愛いか!

『ピンポーン』

え?
こんな時間に、誰?

蒼と顔を見合わせる。

モニターを見ると……海里さん!?

「海里!?なんで、奏の家を知ってるの?教えた?」

俺は身に覚えがないので、ブンブン首を横に振った。

『ピンポーン』『ピンポーン』

「うるせー」

蒼はイライラしながら、解錠しに玄関に向かった。

「あ、蒼!良かった~仲直りセックス真っ最中だったらどうしようかと思ってたよ」

仲直りセッ……!?今、玄関の海里さんからとんでもない言葉が聞こえた気がするんだが……。

「奏くーん、お邪魔します~」

「ちょっと、何しに来たんだよ。どうやってココの場所知ったんだ?俺は教えてないだろ」

二人で軽くもめながらリビングに来る。

「海里さん……」

「奏くん~泣いちゃってる~。でも、蒼の様子からして、呪いは解けたんだ?」

「呪い?」

「そうだよ~小さい頃、奏くんがかけた呪い」

へ?何のこと??

「『やさしーあおくんがすき』だよ」

「優しい蒼くんが好き?って、何のことですか?」

全然分からない。

「海里、余計なこと言うな」

「えー、そのせいでずっとヘタレでこっちは大迷惑だったんだからねぇ」

俺は蒼の顔を見る。ちょっと、睨み気味に。
言いたくなさそうだが、渋々といった感じで蒼が話し始める。

「小さい頃、俺が奏を好きになった日に、言われたんだ。『やさしいあおくんがすき』って……でも、それは友達としての意味で、勝手に俺が本気で好きになっただけなんだ……でも、優しい俺のことが好きなら、ずっとカナの前では優しい俺でいようって思ってた」

全然、覚えてない。

「それが、めちゃめちゃ笑えるんだけど、好きになってもらった時は自分のことを僕って言ってたから、奏くんの前でずっと僕って言ってたりさー、どうでもいいことまでやってたんだよ?必死すぎない?」

僕……あぁ、蒼はずっと僕って言ってたな……。
あれ?そういえば、今は俺って言ってる?

「トンネル作ってた時みたいに、奏くんが近づいてくれるまでずっと待つんだって……ヘタレメルヘン!」

「うるさい!いいんだよ!……こうやってカナが俺を好きになってくれたんだから」

蕩けるような笑顔で二人の世界を作ろうとしているが、残念ながら俺は意味不明で入り込めない。

それより、俺は海里さんにきちんと話をしないといけない。

「あの……海里さん。俺、海里さんが運命の番だって分かってても、やっぱり蒼のこと、好きですっ。でも、海里さんが蒼のこと好きなのは当たり前だし、いつか蒼がやっぱり海里さんがいいって言っても仕方ないって思って……」

「ストップ!蒼がまた死にそうな顔になってるけど?」

蒼を見ると、確かに死にそうな顔になってた。

「カナ!まだ信じてくれないの!俺は最初から最後までカナだけだよ。いつかなんて、来ないっ」

……またぎゅーぎゅー抱きついてきた。
海里さんはそんな蒼に呆れ顔だ。

「あと、僕が蒼を好きとか、ないから。僕は蒼で勃たないよ」

勃た……って、え?

「僕、女だろうと男だろうと、抱く側だから」

えぇ!?

「だって……海里さん、Ωで……」

「あのねぇ。Ωだろうと、僕は僕。僕は自分が突っ込まれるなんて、死んでも御免だね。バース性は生まれつきだからどうしようもないけど、生き方は僕が決める」

そうだ。
なんで……思い込んでたんだろう……。
Ωだから、俺は誰かに抱かれるんだって……。
そんなの、決まってないのに。

「僕は見た目もこんなだから、よく誤解されるんだ。昔、襲いかかってきたαがさ、Ωは抱かれる運命なんだから受け入れろって言ってきてね。そんな運命なんていらない」

あぁ、俺にもこんな強さがあったら……!

「僕はそんな運命ならぶっ潰してやるって、ボッコボコに犯したよね」

……ん?
すごく、感銘を受けていたのに、最後が、、、殴ったの聞き間違い?

「だから、僕は蒼なんかより、ずっと奏くんの方がいいな?」

海里さんが妖艶に微笑む。
俺は、一気に真っ赤になった。

「やめろ!」

蒼が俺の顔を抱き抱え、視線から海里さんを外す。

「海里は節操ないから!カナは絶対関わっちゃダメだよ」

「ちょっと!変なこと奏くんに吹き込まないで。僕だって、ハニーと出会ってからは一途だよ」

は、はにー?

「いや!奏のこと、気に入ってるだろ?絶対!じゃないと、あんなにしつこく疑ったりしない」

「それはね~確かに。何回も会わせて欲しいって言って、ようやく会えるようになって。まさかの蒼のご執心の相手で、ますます気になって。会ったら、めちゃめちゃイイコでね~ヤバいって思ったよね、さすがの僕も」


全然話が分からない。

「蒼はヘタレのままだし、僕もハニーを疑う訳じゃないけど、やっぱりちょっと不安になったし」

「何がちょっとだよ!グダグタしつこかっただろ!!突然来いとか。奏を誘惑するって脅してきただろ」

えぇー!?

ぎゅーぎゅーが強まる。

「……絶対、奏は海里のこと知ったら好きになる。最初は知らない奴と会うより、Ωの海里で安全だって思ったけど……もし仲良くなったらって、怖かった」

「いや、蒼……俺はそんな…」

「海里みたいな、自分持ってて、プライドが高いタイプ、好きでしょ。絶対」

……確かに。
海里さんの話を聞いて、目から鱗が落ちた。
自分の価値観を一気に変えられた。
格好いいと、思う。
Ωとしても、人としても。

「黙らないでよー!マジなヤツじゃん……海里帰れ!二度と奏の前に姿見せるな!!」

「余裕ないなー、人気俳優~」

「ちょっ、ちょっと!」

必死で蒼の腕から抜け出る。
俺抜きで二人で盛り上がってるが、全然話が見えない。

「ん?抱かれたくなった?」

「奏!海里は手が早いんだよ!見ちゃダメだよ」

いやいや、二人とも黙れ。

「あの、全然分からないんですけど……は、はにー?がどうとか、疑うって、何の話ですか?」

「あぁ、ごめんね。僕のハニーは山中くんだよ」

!?!

「えぇ!?」

めちゃめちゃ大きな声出た。
山中さん?

「あの、俺の担当の……」

「そうだよ。担当の山中くん」

海里さんの笑顔が怖い。

「自分だって、余裕ないだろ」

蒼が鼻で笑う。

「あの、俺と山中さんは、全然そんな関係じゃあ……」

「分かってるよ!分かってるけど……不安なんだよ。担当は僕だけにしてくれって言っても、奏くんの担当だけは続けるってきかないし。会ってみたら奏くんはイイコで、魅力的で、蒼なんかやめて、いつ山中くんのことを好きになるか分からないだろ?そうなったら、山中くんも……。僕とは歳も離れてるし、僕はΩで彼はβだ。君たちみたいに、番にはなれない。だから……」

あぁ。
可愛いな。
あんなに、自分の生き方にプライドを持って、強い海里さんでも、好きな相手にはこんなに揺らぐのか。

「早く番になってくれたら僕も安心すると思ったのに、ヘタレ蒼は動きそうもないから、奏くんに頑張ってもらったんだよ!でも、もし拗れちゃったら僕のせいだからって心配になってね。山中くんに聞いても教えてくれなくて、スマホの番号みたいに抱き潰した後に指紋でロック解除して~とかでは住所は分からないから、蒼のバックにGPS仕込んだんだよ」

いや。
可愛くない。

「それ、犯罪だろ!?」

蒼がキレても仕方ない。

「まぁ、上手くいったからいいでしょ?僕のおかげなんだから。じゃあ、僕はハニーが待ってるから帰るねー。仲直りセックスごゆっくりどうぞ!」

嵐のように去っていく海里さん。
いろんな情報が多すぎて、整理ができない。

ちょっと疲れて、ソファーにへたりこむ。

「蒼は海里さんと山中さんのこと知ってた?」

「あぁ。最初に会った時、ヒートおこしかけた時もいたしね。その時に、海里とはいろいろ話して、僕には奏がいるし、海里にも山中さんがいるし、って。あと、似てるんだよね、俺たち」

「似てる?」

「そう。もう、この人って決めてる」

幸せそうに、蒼が笑う。
心臓がきゅっとなった。

「あと、二人とも好きな人への考え方が合うんだよ。αとΩなのに。めちゃめちゃ束縛するとかさー」

「へ?」

「山中さんの項……ぐっちゃぐちゃだから」

二人のことを想像して、真っ赤になる。

「なんか、噛みたくなるんだってさ。Ωだけど、本能的なものは変わらないのかなぁ」

「へ、へぇ」

蒼を見られない。

「真っ赤。可愛い……二人のセックス想像しちゃった?それとも……ココ、僕に噛まれるの、想像した?」

俺の項を指で触る。

心臓が口から出そうだ。

海里さんの仲直りセッ……という言葉も頭をよぎる。

どう言えばいいのか、どうすればいいのか、分からない。

「カナ、そんなビクビクしなくても、今からがぶがぶ食べたりしないよ?」

恐る恐る蒼の顔を見ると、変わらず幸せそうに笑っている。

「今日は、カナの誕生日だよ?なのに、もう疲れてるでしょ?このまま疲れて誕生日過ごすのは嫌だから、とりあえず寝よう?僕も家に一度帰って、また後から来るから。ゆっくり寝て、一緒にお祝いしよう」

いつもの、優しい蒼だ。

「……でも、明日は抱くよ。絶対」

寝られる……かな……。
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