運命なんていらない

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続く未来

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「まぁーだ、世間の目にグダグダ悩んでるの?」
年上だけど美少年(?)の海里さんに、突かれたくない所をまず一番に突かれる。
「ちょっ……」
二人の担当の山中さんは下を向いた僕を見て、オロオロしだす。

今日は海里さんが書いた絵本の挿絵についての最終の打ち合わせだった。
本来は山中さんとだけの予定が、海里さんもなぜか同席したいと言い出したらしく、場所も海里さんのマンションになった。

「もうさー、公表したんだし堂々としてれば?」
「いや、でも、俺だってことはバレてないし、その一般人なんでそこまで騒がれないし」
「だから?」
俺が手土産で持ってきた色とりどりの綺麗な練り切りを口に放り込みながら、海里さんは呆れ声だ。
「あのさぁ、タロもそうだけど、何でそんな自信ないのかなぁ?こっちはガチガチに囲いこみたいんだよ。アイツもそうだろうけど、囲いこんでこっちも安心したい。世間がどう思うとか関係ないんだよ」
山中さんが淹れてくれた濃いめの日本茶を飲みながら、説教のように話は続く。
「それをさー、みんなが良く思わないとか相応しくないとか……いや、僕が選んだんだから相応しくないって何?何で世間とかの声にビビってんの?人気とか気にするヤツじゃないでしょ。そもそも、辞めたって一生遊んで暮らせる金だってあるだろうし。僕も辞めたって……」
「ダメですっ」
二杯目のお茶を注いだ後、俺の隣で同じように説教を聞いていた山中さんだったが、そこだけは譲れなかったみたいだ。

俺もそう。
蒼には俳優を続けて欲しい。
蒼の作品で感動して涙を流したり、明日も頑張ろうって思えたりする人がどれほどいるか。
蒼は俺だけのために存在してない。
そこだけは、俺も譲れなかった。

番を公表したことで、蒼を色眼鏡で見て欲しくなかったが、意外と受け入れられて安心した。
それもこれも、俺自身の存在が世間にそこまで認知されてないからだ。
「幼馴染みの男性Ω」ということだけで、この容姿とか性格とかが知れ渡っている訳ではない。
だからこそだと思っているんだから、自信に繋がってはいない。
……でも、今回は違う。
悩んでいるのはそこじゃないんだ。

「なぁーに?何か悩み聞いて欲しいんじゃないの?」
……いや、聞いて欲しかったのは山中さんにであって、海里さんにではない。
でも、もちろんそんなことをこの女王様に言えるはずもなく。
「あの、俺、番になってもまだ蒼には別に相応しい人がいると思ってて……たぶん一生その気持ちは消えないと思うんです」
山中さんは何度も頷いてくれる。
海里さんは呆れ顔だ。
とりあえず、何も言われないので続ける。
「でも、俺は、蒼と一緒にいるって決めました。蒼と一緒にいる未来を、俺は信じたい。そう、思ったら……子供、欲しいって……」
ちょっと、顔が赤らむ。
顔をうつむかせながら、ちらっと二人を見ると、二人とも満面の笑みだった。

「いいんじゃないかな?蒼くんも喜ぶよ!二人の子供かぁ~可愛いだろうなぁ~」
「僕の童話、早く作らないと!二人の子供なら、僕の子供みたいなもんだよね?」
二人が自分のことのように喜んでくれるのが、嬉しい。
「僕たちに子供ができないから、ちょっと言いにくかった?」
正直、図星で……俺は小さく頷いた。
「まぁ、僕だってタロの子供は欲しいけどさぁ……でも、一生一人占めも悪くないでしょ?奏と蒼の子供に貢ぐジジイも悪くないよね」
少年みたいな見た目のジジイって一体……。

「本当に、嬉しいよ。よく、決心したね」
穏やかな山中さんの声に、俺はぐっと拳を握る。
「本当は、怖いんです。俺に似たら、どうしようって……見た目もそうだけど、Ωに生まれてしまったら、俺を恨むかな?生まれてこなければ良かったって……思わないかなって……」
俺は、そう、思ってしまったこともある。
この見た目で、βじゃなくΩだって言われて絶望したあの日を、俺はこれから生まれてくる子に味わわせるかもしれない。

「え?絶対、奏に似た方がいいよ。蒼もそう思ってると思うけど?」
へ?
「蒼みたいなの、僕は嫌だなぁ~可愛げないし。それに、Ωに生まれたって二人が愛してあげればいい。あぁ、僕もタロもいるよね。みんなが愛してあげれば、きっとΩだったって笑って報告してくれる」
目から鱗が落ちるようだった。
そうか。
俺が、蒼が、愛してあげればいいんだ。
Ωでもβでも、もちろんαでも、関係ない。
そんなことでは揺らがない愛を、最初からずっと。

俺は不覚にも泣いてしまい、見られたくなくて下を向く。
「よし。打ち合わせしようか?まずはラフを見せて貰おうかな。玄関かな?ちょっと持ってきて」
俺の横に置いてあるいつものバックにラフが入ってることは知っているのに、俺が涙を拭いて気持ちを立て直す時間をくれたみたいだ。
山中さんの優しい気遣いにまた泣けてくる。
「ちょっと、見てきますっ」
二人の笑顔に後押しされながら、慌てて玄関に退散した。



「お前の子供が欲しい」
言ってやった!
とうとう、言ってやった!!

二人に相談して、もう思いは固まっていた。
それでも緊張して、言った後にぎゅっと目を閉じた。
……
……
……

え?
蒼から何も返ってこなくて、恐る恐る目を開けると、そこには真っ赤になりながら涙を流してる蒼がいた。

また!?
この姿、前も見たけど……。
あんなに緊張してたのに、笑えてきた。
「おいおい、イケメン台無しは一度でいいって」
ぐずぐずになってる蒼が、可愛い。
俺は蒼に近づくと、ゆっくり抱き締め背を撫でる。
「ごめんな、待たせて。お前とお前の子供と、ずっと一緒にいたい。一緒に、いよ?」
蒼が勢いよく、ブンブン頷く。
いつも全方向に格好いい蒼の可愛い姿が微笑ましい。

「孕ませセックス、しよ」

……前言撤回。
可愛くねぇ!!

「お前なぁ!」
「ん?孕ませセックスしないと、赤ちゃんできないよ?」
もう余裕の顔して、俺を翻弄しにかかってくる。
腹くくった俺を、舐めんじゃねぇよ。

「奥……お前のでいっぱいにしてくれ」
「なっ……」
蒼が怯む。
「カナ!そんな言葉、どこで教わってきたの!!」
「うるせぇ」
二人で笑いあいながら、じゃれあってキスをする。

もう、不安もない。
一人にも怯えない。
たとえそんな日がきたとしても、俺はこの日を絶対に後悔しない。

「よし。じゃあ、孕ませセックスしよーぜ、蒼」
俺は笑顔で蒼に飛びかかった。




~十六年後~

「奏、早く」
「ちょっと、待てって」

桜並木を二人で歩いていると、女子高生がチラチラとこちらを見てくる。
俺は隣でそんな視線に見向きもしないイケメンにニヤニヤしつつ、足取りは軽い。

今日は高校の入学式だ。
ここまで元気に育ってくれて、本当に嬉しい。
子育ては正直大変で、パニックになって何度も蒼に迷惑をかけた。
いろんなことに一喜一憂しながら毎日を重ねて、一日が一年くらい長く感じた日もあったのに、振り返ると一瞬な気もする。

そんなことを思いながら、いろんなことを思い浮かべると自然と顔はほころぶ。
辛くて号泣した日々も、今ではキラキラした思い出だ。

「なぁに、奏。嬉しそうに笑って。俺のこと以外考えて欲しくないけど」
「お前のこと、考えてたよ」
「そう?じゃあ、可愛く笑ってるのも許す」
「バーカ」

「……ねぇ、二人の世界に入るのやめてくれる?奏の番は俺なんだけど!?」
蒼が少し後ろから拗ねた声をあげる。

「って、親父は来なくていいから。帰れ」
「奏に頼まれたんだよ。お前の高校の入学式だからってな!」

……また二人が喧嘩してる。
まぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うし。
まだ俺の後ろでぎゃあぎゃあ言い合ってる二人を、女子高生たちは完全に目がハートマークになりながら見つめてる。

「奏の隣は俺。今日の主役だから」
「何が主役だ。奏の隣は番の俺に決まってるだろ!もう高校生になるんだから、いい加減に親離れしろよ?」
「親父離れはとっくにしてるけど?奏とは一生離れない。親子だからな?」
「俺とも親子ですけど!?」

こんなオッサンをイケメンとイケオジが争ってる。
まぁ、悪くない気分だけどな!

「ほら、もう校門だ。三人で写真を撮ろう?」
目がハートマークの女子高生の一人にスマホを渡し、写真をお願いする。
俺を真ん中に三人で並んだ。
両側とも少しでも自分に俺を近づけようとぎゅうぎゅうに近づいてきたから、押されて真ん中の俺がひきつった可哀想な感じの笑顔で写ってる。
両側の二人は完璧な笑顔。
「「奏、可愛い」」
俺はそんな二人の言い草に吹き出した。

また一つ、思い出が増えた。
桜舞う中、新しい始まりに俺は胸を高鳴らせた。

これからも未來は続いていくんだ。
きっと、ずっと。
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