運命なんていらない

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Ωの巣作り*

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ヒートが近い……体温も上がってきているのが分かる。
でも……。

『絶対、ヒートが近いって分かったら連絡して。絶対。じゃないと、撮影行かない』
『わーかったって!早く行け!!』

蒼は三日前からロケでいない。
帰宅は……二日後の予定だ。
あいつが主演の映画で、海外の資本も関わっているようなプロジェクト……邪魔、したくない。

蒼と番になって、蒼は公表したがったけど、俺が止めてる。
俺なんかの……って言ったら蒼にまたキレられそうだけど、どうしてもその感覚を消すことはできない。
公表しても、蒼にとって何一つプラスにはならない。
むしろ、マイナスだらけだ。
アルファはオメガと違って、一人に縛られない。
他に好きなオメガができた時に、もしかしたらその相手が蒼に相応しい……世間的にも仕事的にもプラスになるような相手かもしれないし。
その時は、ちゃんと俺は引くつもりでいる。
今、信じられないくらい、幸せなんだ。
でも、それが続くとは思っていない自分がいる。
蒼を信じてない訳じゃない。
ちゃんと今、俺のことを好きでいてくれてると思う。
俺が、自分のことをまだ信じられない。
あんな相手から、好きでいてもらえるような……そんなヤツじゃない。

だから、いずれこのヒートも自分一人で過ごさなきゃいけなくなるかもしれないと思っている。
自分で自分の身体をぎゅっと抱き締めた。

蒼と番になった後のヒートはずっとあいつにべったりだった。
自分でも驚くくらい、側にいるだけで楽になったからだ。
もちろん、性欲的に満たされたってこともある。
蒼ももちろん俺にひきずられてラットになるから、三日間くらいは水分を口にするくらいでずっと繋がっていた。
でも、身体よりも顕著なのは心だった。
蒼が側にいるだけで、その匂いに包まれているだけで満たされた。

そうだ……蒼の匂い……欲しい……。

俺はフラフラになりながら、蒼の部屋に向かう。
蒼のベッドに上がると、匂いが強いシーツの中に潜り込んで鼻から思いっきり息を吸い込む。
身体はより興奮するが、やはり心は落ち着いた。

でも、まだ足りない……。

シーツから出て、そのままクローゼットに向かう。
蒼の匂いが少しでも付いている服……と手に取ろうとした瞬間に理性が戻ってきた。

この服、いくらするんだ!?

絶対、高い……。
ハイブランドのヤツだ……。
この服をこのままシーツと一緒にして、また匂いに包まれようとしたが、絶対そのままじゃ我慢できない。
俺は自慰をして、ぐちゃぐちゃにしてしまう。
良かった……まだヒートの始まりで理性が残ってて……!
もちろん、蒼は怒ったりしないだろうけど、俺がいたたまれない。
弁償できないだろうし……。

他に……何か……。
頭に閃いた物があったが、少し躊躇する。
でも……もうソレが欲しくて仕方ない。
俺はクローゼットの中にある収納ボックスを開ける。
そこには、整然と並べられている蒼のボクサーパンツ……。

高いんだろうけど、これなら俺でも買えるからいいよな!
俺はそのボクサーパンツ達を持てるだけ持つと、さっきのシーツの中に放り込む。
そして、そのままその中に顔を埋めて息を思いっきり吸い込んだ。

……柔軟剤の良い香りがした。

蒼の匂い……しない……。
俺はショックのあまり、ポロポロと涙をこぼす。
そりゃそうだ。
洗濯した後クローゼットに収納してるにきまってる。
でも、ヒートで蒼の匂いに飢えていたからそんな判断もできず、期待していた分、反動も大きい。

「なぁーに、そんな可愛いことになってんの?」

蒼の、声?
呆然と声のした扉を見る。
「な、んで……」
「あのねぇ……ヒートになる前に連絡してってあれほど言ったよね?怒ってるんだよ?……いや、怒ってるのにさぁ……カナ、巣作りでパンツ集めて匂いしなくて泣いちゃうの?もう、可愛すぎて心臓痛い」
蒼はなぜか顔を両手で覆って項垂れてる。
首元まで赤い。
熱でもあるのか?それで帰ってきた?
「撮影、まだ日が……」
「蒼のヒートを察知して帰ってきた……って言いたいトコだけど、相手役の子が急性盲腸で緊急入院。撮影延期になったんだ」
「そう、か……」
下半身がじんじんする。
蒼の匂いが……部屋中に充満して口の中は唾液でいっぱいになる。
それを、何度も飲み込んで必死に隠した。

「で?ちんこパンパンにして、言い訳は?」
か、隠せてなかった……!
「べ、別に……仕事の邪魔しちゃいけないって」
「ふぅん?てっきり、別れた後のヒート処理の練習のためかと思ってたけど?」
「な、んで……」

蒼は持っていた荷物をその場に置くと、雑誌の表紙になりそうな魅了する笑顔を見せた。
「お仕置きね」
「へ?」
ジャケットを脱ぎ、部屋にますます蒼の匂いが充満する。
「マンションの下まで奏の匂いがしてね……もう頭もちんこもイライラしてるんだよね……」
わざとなのか、ゆっくり衣服を脱いでいく。
もう、唾液が飲み込めなくて口から垂れる。
「我慢してたんだよねぇ?でも、本格的なヒートが来る前なのに、こんなになっちゃうんだよ?奏……これからめちゃめちゃ抱くから。一人でなんて過ごせないって、分からせてあげる」
「あっ、あおっ、もうっ、欲しいっ」
「えー?もっと焦らして焦らしておかしくさせてからにしようと思ってたけど、奏には甘いなぁ。ほぉら、コレが欲しいんだよね?」
目の前に、蒼の陰茎を出された瞬間にむしゃぶりついた。
「おーおー、美味しそうに。シャワーも浴びてないし、奏が欲しかった濃い匂いがして良かったね?」

もう、蒼が何を言ってるかよく分からない。
コレが欲しくて欲しくて愛しくて仕方なかった。
「奥、いっぱい突いてあげる……」
蒼が頬を優しく撫でてくれて、その手に擦りよった。



「カナ、大丈夫?お水、飲める?」
俺は渡されたペットボトルから水を一口飲む。
喉から胃に流れるのが分かるくらい、カラカラだった。
はぁーっと、ため息をつく。
ヒート中は相変わらず記憶があいまいだが、蒼が帰ってきた時の記憶はバッチリある。
パンツに埋もれて泣く男……見苦しすぎる!!
一人で自己嫌悪に陥っていると、蒼は真剣な顔で詰め寄ってきた。

「奏、番になったこと、公表しよう」
「は、はぁ?」
コイツ、何言ってんだ!?
「それは、話し合っただろ?」
「カナが納得しないから、渋々合意しただけだよ。公表したら、番がヒートの時は事前に休みを申請できる。撮休にしてもらえるよ。なら、こんなことにならない。それに、カナは相変わらず別れることを怖がってるだろ?だから、番だって公表して子供、作ろ」
「なっ……」
俺は目を見開いた。
子供!?
俺と蒼の?
「お、前、本気で……」
「もちろん。そりゃ、ずーっと一人占めしたいよ?でも、カナの不安はいつまでたっても消えない。それなら、自分から退路を絶っていかないと。公表したら、カナも別れにくいし、こどもなんてできたら一生その責任がある。なかなか逃げられなくなるよね?」
なんだそりゃ……。
逃がしてやろうとしてるのに、お前が逃げられなくしてどうするんだよ。
思わず力が抜けて、苦笑した。

「あと、カナに似た子供なんてできたら、もう芸能界なんて引退するね!主夫になる」
「ふはっ。ファンに殺されるわ。それに、お前に似るかもしれないだろ?」
「えー?」
嫌そうな蒼に思わず声を出して笑った。
「ね?公表しよう?二人で、いろんな未来を見たいんだ」
思わず、俺は頷いてしまった。
二人一緒の未来、思い描いてもいいんだろうか?


一ヶ月後。
メディアに報じられた蒼の番発表は、日本中、いや世界中が阿鼻叫喚に包まれた。
しかし、その相手が一般人であり、幼馴染みの男性オメガであると週刊誌が報じると好意的に受け止められた。
また、蒼が会見の場で本当に幸せそうに笑ったため、よりファンが増えた……らしい。

結局、俺の暮らしはそんなに変わらない。
一時期は週刊誌に追われたが、一般人だしほぼ引きこもりなので諦めたみたいだ。

公表したことで、確かに俺の中で変化はあった。
それが「子供」だ。
まだ、一歩を踏み出せないが、そんな未来があってもいいんじゃないかと、思い始めている。
まだ、蒼には内緒だ。

いつか、俺から、蒼に言おう。
「お前の子供が欲しい」
そんな日を遠からず想像して、俺は顔を赤くした。
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