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7 侵略の果ての和親
しおりを挟む――正直にいう。
――ひた隠しにはしていたものの――俺としてはこの、五蝶の国への遠征、心中にかなり複雑な思いがあった。
ジャスル様とリベッグヤ殿の会話さえ、本当ならば聞いていたくもないくらいであった。――思い出したくもない記憶が、我知らず呼び起こされそうになるような、そんな場面ではあったが。…よもや、俺がまさか侵略する側に立つとは…と。
とはいえ、俺は護衛としてジャスル様の後ろに控え、何もいわず、ただじっとその両者の話し合いを見守っていた。――そして夜が明け、昼も間近なころ…その話し合いは、ようやっと決着したのだ。
結論…リベッグヤ殿とジャスル様は――最終的に、両国間の和親関係を築くということで、話を着けたのだ。
しかしそれはもちろん、五蝶側としてみれば脅されていたわけであり、彼らとしてはなかば不本意なところもあったには違いないが――のみならず、その後のジャスル様の譲歩に譲歩をした要求は、五蝶側としてみてもさほど、自分らにとっても不利かつ不条理なものではないか、とでも踏んだらしい。
というのも――ジャスル様は、「しかし、この国の豊かな資源は、確かに魅力的ではあるが…」と。
もうあまりノージェスとは関わり合いになりたくない、と申されるお気持ちも理解しているつもりだ。これだけ立派に一国を築き上げられた五蝶の方々は、ノージェスに侵略され、あわや、この国の豊かな資源を奪われたくないと思うのも当然のこと。
しかし、我々はあくまでも端から敵国同士ではない。
あるいは他の国がこの五蝶を攻めいってきたとき、我々ノージェスの軍隊をお貸しし、お守りするというのはいかがか。…すると、事実上の不可侵条約の延長、いや、以前よりもよほど強固に、この国をお守りすることが叶うかと思うが。――我が強国ノージェスの軍事力が後ろ盾にあって、この五蝶の国を攻め入る馬鹿なぞなかなかおりませぬ。
ただし、我らノージェスの有事の際にも、五蝶には物資を支援するという形でお力を貸していただきたい。…しかしそれはもちろん、あくまでも条件付きでの貿易関係といたしましょう。――いわば我らが求めることはそれのみ、いや、あともう一つばかり。…このまま書面を交わし帰るのみよりもう一歩、もう一歩歩み寄り、もっと確固たる、我らの絆の証が欲しいところ。
であるから――我ら両国の和親の証として。
――この五蝶の国でひと際由緒正しく、またひと際美しい者を、我が伴侶として迎え入れたい。
そして、果てはその者に我が子を産んでもらい、育ったその子をノージェスと、五蝶の国の架け橋として、我々の信頼関係をゆっくりと築いてゆこうではありませんか。
つまり今のところは、その御子お一人で結構。それと、限られた場面でのみ支援物資のご協力さえ賜れれば、我らが、この五蝶の土地を踏み荒らすような真似は、もういたしませぬ。
しかし…もしこの縁談に応じぬとおっしゃられるのならば、蝶族の方々を我が国ノージェスへ丁重にお迎えし、我が国のことをよく見ていただく機会を頂戴いたします。またもちろん、ノージェスの者も何度だってこの五蝶の国へ連れて参り、その人らの近況報告をいたしますので、その都度慎重に話し合いを重ねて参りましょう。――しかし、残念ながら自己防衛のため、また軍隊も率いて参りますがね。
ジャスル様のこれは暗に――民族丸ごと人質とされたいか、あるいはただ一人を己に差し出すか、という脅し文句であった。
ましてや、ほとんどジャスル様がノージェスの覇権を握っているいまに、蝶族は和親の証として御子を一人差し出すか、それに応じぬのならばこのまま武力行使で国を侵略してやる、とまで脅されたようなものだ。
それはすなわち、ジャスル・ヌン・モンスへの隷属、つまりノージェスへの隷属を意味していた。――それこそ国の資源を枯れるまで搾取され続け、蝶族の民を攫われ世に売り出され、それどころか、五蝶の国の解体、とまでされたかもしれない。
そもそも、たった一人か――あるいは蝶族全体、ひいては五蝶の国全体を明け渡すか、否か。…とされればまず人は、そのたった一人を差し出すに決まっている。
そうであればこそ――五蝶の国が選んだのは、和親。
つまり国の御子を一人差し出し、ジャスル様と婚姻させることによって、蝶族は一つの国、一つの民族として存在する権利を暗に許され、また、事実上不可侵条約の延長を許されたのだ。――そして、そのジャスル様の婚約者に選ばれた御子こそ、ユンファ殿であった。
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