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16 密室、蝶と狼、二人きり。
しおりを挟む明日――昼からの“婚礼の儀”を控えたユンファ殿は、これより彼が暮らす部屋となるこの場所に、一旦はひと晩、置かれることとなった。
というのも…この国ノージェスの決まり事として、メオトとなる前の二人は、二人っきりになってはならない、と決められているのだ。…つまり褥はおろか、あわや間違いのないように、同室を共にすることさえ禁じられている、ということである。――もっといえばこのノージェス、婚前性交渉が認められていない。…それどころか接吻も何も、たとえ相手が婚約者であろうとも、なかろうとも…姦淫に類するとされる行為は、一切認められていない。
ただし、それは上流階級に属する者同士に限られたこと、なんだそうだ。
もちろん娼婦やら男娼やらはこの国にもいるし、庶民たちであれば何も、恋人同士で好きに秘め事を行ってはいるようだが、しかし――とにかく、何がなんでも純血の世継ぎを求める上流階級の者たちは、揉め事を避けるために…みなメオトとなる前の秘め事を、国から禁じられているそうなのだ。
つまり、このノージェスの上流階級の者たちにとっては、童貞同士で婚姻関係となることのほうが一般的であるらしく。…しかしもちろん、すでに何人もの側室やら妾たちがいるジャスル様は、決してそのようではないが――であろうとも、国一番の大富豪にして英雄のその人は当然のこと、五蝶の国の王子であるユンファ殿もまた、その階級に属するものとして扱われる。
そして、この度のお二人の婚姻に関しては、ユンファ殿が第一子をご懐妊なさった機会に世へお披露目する、というジャスル様のご意向があるために、明日この屋敷内で執り行われる、“婚礼の儀”のみをもってしてお二人は、正式にメオトとなるわけだが――すなわちジャスル様とユンファ殿は、明日のその“婚礼の儀”をまだ迎えていない以上、今晩のうちはまだメオトではない、とされる。
つまり今晩こそ、ユンファ殿にとっては独身最後の夜、となるわけだ。…いや、婚約をしていることには違いないため、独身というのも違うだろうか。
とにかく、彼らはまだメオトではない以上、今晩においてジャスル様とユンファ殿は、まさか褥を共にすることはできず、同室で眠ることもできない。――まあユンファ殿は、明日ジャスル様とメオトとなったらすぐにおよそ幾夜も幾夜も、ジャスル様のお部屋で朝を迎えることにはなるだろうが。
しかし…――まあ、一見は妙なことである。
「…………」
「…………」
俺はそれこそ、ユンファ殿を側室とするジャスル様よりも先に――ユンファ殿と同じ部屋、二人きりになっている。…これをもっと妙なふうにいえば、この部屋の扉に鍵をかけて、密室に二人っきりだ。
妙なことだろう。
…いくら同性同士とはいえども――いや、蝶族は両性具有だそうだが、ユンファ殿は声もかろやかながら男性なりの低さであり、確かに美しいにしても、せいぜいが美麗な男というようである――、俺とユンファ殿、年若き二人が一部屋に――それも主人の側室と、その主人の護衛が、二人きり。
はっきりいって――舐められている、と思わないでもない。
我ながら俺は、ジャスル様よりは見目も良いはずだ。
俺はまだ二十歳越えても三年ばかりと年若く、それでいてジャスル様よりも背が高い、そしてこの金の髪に、薄い色味の青目――切れ長の鋭いまぶた、彫りも深いほうだ。…唇は厚いほうで、目元のさっぱりとした風貌にはいささか釣り合わぬが…これでも俺は、下女や街の女たちからは比較的、他の男よりも良い待遇を受けられるほうの男である。
また、漢服、という…この洋服が主たるノージェスにしては異国情緒のある、俺の生まれ故郷の動きやすい着物を身に纏う。…いや、俺は別段、着飾っているというんじゃない――主人を護衛するに当たって動きやすいため、故郷から持ってきたままにこれを着ているだけだ――が、黒と青のこの漢服は、ノージェスの女たちの目にはどこか物珍しく、異国人的な色気があるように見えて、どうも、女心にはグッとくるような魅力を感じられるものらしい。――いや失礼、我ながら何かと自惚れが過ぎる。
しかし、そのような自惚れも枯れずにむしろよほど甚だしい、そうしたまだ年若き男の俺と――ご自分の大切な側室である、この美しく、妖艶なユンファ殿とを二人っきりにしたジャスル様は、よほどに、狼である俺を信用しきっているらしいのだ。
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