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27 ハッと糸を見る
しおりを挟む蝶と狼は――つがい合う運命。
「………、…」
いや、馬鹿馬鹿しいか――たかがお伽噺なぞに、何をそう気を揉んでいるのだ、俺は。
しかしこうして、そもそもの血族からしても俺とユンファ殿は、やはり何か、縁深いものを感じる。
その上俺と彼はその実、境遇までなぜか、とてもよく似ているのだ。…まるで寂しい二人を、あるいは神が引き合わせたかのように感じてしまうのは、きっと俺の勝手に違いないのだが。
まあもちろん、子供の寝入り際に読み聞かせるようなお伽噺では、その信憑性こそ取るに足らないものやもわからぬが、しかし――蝶族と狼族は、惹かれ合う運命、か。
『 狼と蝶、見つめあう。
ただそれだけで、蝶と狼、つがいあう。
神が認めた蝶と狼、離れられない蝶と狼、運命の決まった蝶と狼、永久のつがいの蝶と狼――強く惹かれて蝶と狼、僕らはもう、永恋のつがい。 』
「………、…」
あの格子越し、ユンファ殿に見つめられたとき――俺は彼の、その透き通った薄紫色の瞳から、目を逸らすことができなかった。…主人の前で、主人が娶ろうかというお方と見つめ合うなど、本当なら身分をわきまえねばならぬ場面ではあったが。
それこそ普段の俺ならば、自分に向けられた人の色目から目を逸らして、何とも思わず躱してきた――そう、できていた、今までは。
……だというのに、あのユンファ殿の、その美しい薄紫色の瞳の前ではそのようにすることさえ、俺はうっかり失念してしまうほどであったのだ。
「……、…、…」
そうか、なるほど…――今更ながら俺は、あのときの自分の、その状態がなんであったのか…はっきりと自覚した。
ユンファ殿に、…見惚れていた。
恐れ多くも…俺はあのとき、美しいユンファ殿に、見惚れていたのだ――。
それこそ他の種族に対するよりも、何かしら…――特別に惹きこまれるような何かを、俺はたしかに、ユンファ殿に感じていた。…その程度ならまあ、あのときにも自覚はしていたが。
どれほどの美人にも美男にも動かなかった俺の心が、ユンファ殿の美貌には魅入って、震えるのだ。
あの古いお伽噺が、人知れず俺に尋ねてくる――。
『 狼、狼よ、若き狼。
どうだ、どうだ、お前の魂で惹かれる蝶かい。
蝶のお羽のもようはどうだい、美しいかい。
蝶のころころと笑う声はどうだい、心地よいかい。
蝶が振りまく鱗粉の、その甘い甘い香りはどうだい、いつまでだって、嗅いでいたいかい。 』
「…………」
どうだろうか。
…俺はあえて、その問いの答えを出さぬ。
しかしこう考えてみれば、愚かなことかもわからない。
何ならこの屋敷の中で、俺が一番危うい存在かもしれないというのに。――ジャスル様はまさか、あのお伽噺の内容など、ご存知じゃなかったのだろう。
であるから、俺が狼であるからこそ、このユンファ殿の護衛としたのだ。
ジャスル様は妄信している。
俺が忠義に篤い狼族であり、堅物の妻帯者であるその上、自分が俺の主であると自負しているジャスル様は、まさかあのソンジュが自分を裏切るはずはない、狼の俺が主人に逆らうような真似をするわけがない、妻帯者ともあって、どんな美形にもなびかず興味もなさげな堅物のソンジュが、あの従順な犬がまさか、まさか間違いを起こし、ユンファ殿に手を出すなどまずあり得ない、と――。
しかし――俺が狼であるからこそ、俺は。
俺は、蝶であるユンファ殿に、――。
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