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122 これが現実、あれが夢
しおりを挟む「……ん。…あ、あぁ……」
なるほど、あた…――頭、と言いかけたのか。
…頭を撫でてほしい…――なんと可愛らしい要求か。
ましてや頭を撫でてほしいと言うだけで、それほどはにかむとはな。――あまりにも初心なままのユンファ様に、俺はむしろやる気が漲ってくる。…いや、もちろん純な意味で、だ。
「はは、なるほど。頭の…あた、でございましたか。――かしこまりました。…では、こちらに」
俺はユンファ様の肩を抱き、俺のほうへその細い上体が傾くようにと力を込める。――すると彼はえ、と目を丸くしながらもおとなしく、おもむろに体を傾け。
「…先ほどは俺が膝枕をしていただきました故、今度は貴方様の番、ということで……」
「……、…、…」
そして、俺の腿の上に、そっと片耳を預けるユンファ様の、その流れるような美しい黒髪を、俺は撫で付ける。
「……、……」
優しく、する…する…と、艶美な絹の黒髪を撫でれば彼は、うっとりとまぶたを緩めた。――またふんわり…頬も広い範囲を薄桃色に染め、きゅう、と俺の膝頭あたりの布をやわく掴んでくる。
「…実をいえば…そのふわふわの手で、撫でられたかったんだ……」
「…ははは…、心地良いですか…?」
「うん、とても…、しかし…――なぜかとても、胸が苦しい……」
そっとまぶたを閉ざし、ユンファ様はきゅっと少しばかり、その黒々とした美しい眉の根を寄せた。――そのまま口の中、「いや、…嫌な苦しさではないが、ソンジュへの気持ちが爆発してしまいそうなんだ…」そう呟くようなユンファ様に、俺はくすりとした。
「……俺も胸が苦しく、大変ときめいておりまする……」
「……、…」
また少しだけ開いた切れ長の白いまぶた――ぼんやりと月を眺める、その淡い紫色の瞳が、月光の光を宿して光る。
「…僕はあまり…人に、頭を撫でられたことはなかったけれど……」
「…………」
小さなころに、部屋に幽閉されて一人きり――この年齢となるまでユンファ様は、一人ぼっちで生きてきた。…親にさえ頭を撫でてもらえることもなく、ただ一人で、か。
そう切なく思えば、俺の手はより優しく、その人のなめらかな髪を撫で続ける。
「…こんなに心地良いなんてね…、本当にいつも君は、僕に幸せを教えてくれる…。ありがとう、ソンジュ……」
「…何よりでございます…。俺も、いまとても幸せでございます、ユンファ様……」
「……うん…」
鼻を鳴らすように返事をしたユンファ様も、またこの夢のようなひと時を幸せだと、感じてくださっているらしい。――それがまた、俺を幸福にする。
ユンファ様はそのまま、俺に膝枕をされたまま、頭を撫でられたままで――しばらく、ぼんやりと月を眺めていた。…円かな満月に、この円かな時を、俺たちは共に過ごした。
結局ユンファ様は――その夜、そのまま眠られた。
秘め事をすることは叶わず。…しかし俺は、彼がすうすうと安らかな寝息を立てているのを聞きながら、その人の美しい顔が月光に青く照らされ、より美しくなっているのを眺めながら、俺はそのまま――しばらく、その人の髪を撫で続けた。
日ごろから秘め事ばかりで、思えば思慮も足りなかったか…――ユンファ様は、その実かなりお疲れなのだろう。
秘め事などなくとも――正直いうと、幸せだ。
本当は――この幸福な今こそが、俺たちの現実なのではないか。…俺たちはきっと本当は、誰しもに認められているつがいなのだ。だからこんなに穏やかな夜を、過ごすことが許されているのだ。
そう倒錯した思いの反面、朝の訪れを、それでも憎みながら。
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