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155 やっとあがった祝いの花火※微グロ
しおりを挟むそして、ユンファ様はギッと目尻を吊り上げ、険しい顔で――呆然と言葉さえ失っているジャスルのことを睨み付けたまま、声を張り上げ続けた。
「……これまで、さんざん人のことを馬鹿にしてくれたものよなぁジャスル…っ! さんざん人のことをもてあそび、嬲り、いじめ尽くして傷付けて…気安く触れ、暴き、犯し…っこの下衆男が、…っよくも、…っよくも人の尊厳を踏み躙り、淫売、男娼とまで呼んでくれたな、――貴様のように性格も悪く、見るもおぞましい醜男、誰も慕えるはずなかろうが、身のほどを知れ!!」
「………、…」
物凄い剣幕を、俺の隣で――ユンファ様の怒りは当然、これまでに積もりに積もったものの爆発であるとは理解しているのだが、――いつも大人しいその人の姿と、今のこの激しい様の差に、ジャスルのみならず、俺まで圧倒されている。――よくよく言うものだが、いつも大人しく心優しい人ほど、本気で怒ると誰よりも怖い。
その通り――ユンファ様は、とっと一歩片足を踏み出しては、更にがなる。
「…これまでの散々な侮辱、僕がただ受け入れているとでも思っていたか!? 貴様をちやほやしている馬鹿共とて、貴様を心から慕っているのではないわ…っ! 身も心も不細工な貴様の権威と金に惚れて、貴様に浅ましく媚びを売っているだけだ、この大馬鹿者め!」
「………、…」
俺までもが正直、男でありながらもユンファ様のことを、女人的なやわさばかりの人である、と勘違いしていたらしい。――が、惚れ惚れするほどのこの怒り狂った姿、今は勇ましさすら感じられるほどの、彼の中の男を見ている。
「…っ貴様になど誰が惚れようか! いや誰も惚れまいぞジャスル、…人が蝶であるからと端から悪だと決めつけ、少しも僕のことを理解しようともせず、人の外面ばかりを見て判断しおって、…しかし淫蕩なのは貴様らだ、浅ましいのは貴様らだ、淫乱とは貴様らのことよ、…飽きもせず毎日毎日動物のように淫猥な夜伽ばかり、――人としての節度も何もない卑しい貴様らなど人ですらないわ、この変態の淫乱共め、…っその鼻っ柱の勘違いも甚だしいと知るがよいわっこの、…っこの痴れ者が!!」
そうまくし立てるユンファ様に、ジャスルは眉を寄せる。
「……ゆ、ユンファよ、言わせておけば貴様、調子に乗るのもいい加減に、…」
とはやっと我に返ったかのようなジャスルが、ユンファ様に迫ろうとドタヨタ、寝台の上でのたうつように起き上がろうとしているが――その最中にもユンファ様は、怒号をその人へまっすぐ刺すように向ける。
「…っ来るがよいわ、早くこちらに来いジャスル、…っ貴様の粗末な逸物ごと切り落とし、殺してやるわ!!」
と、俺の手にある刀の柄を掴み、それを抜こうとするユンファ様に、俺は「ユンファ、なりませぬ、」と慌ててそれを押さえ、制止する。
「っ離せソンジュ!! 刀を貸せ、…っこの男は、…」
「…わかっております…、しかし……」
と、俺の制止に険しい顔をはっと振り向かせたユンファ様は、しかしまたすぐにジャスルを睨みつける。
「……ソンジュ…! 僕は、ずっと…ずっとずっとずっと殺してやりたかったのだ、この男を! っ今に殺してくれよう、…地獄では貴様が誇る金も権威も何もない、――そこに堕ちてから後悔するのだな!」
俺は、泣きそうになりながら、それでも柄を握ろうとするユンファ様の手を振り払い――ジャスルが寝台のフチに太い脚を下ろしたその瞬間に、…すーっと刀を抜いた。
そしてそれの刃先を、ジャスルの醜く大きな鼻先に突き付ける。
「我がつがいの胡蝶に、指一本触れるな、ジャスルよ…」
「………、…」
するとさすがに威勢を失い、目を見開いて固まったジャスルを、俺は冷ややかに見下ろす。
「……ユンファ…、俺が貴方様を止めた意味は、何もこれの命を尊んだからではありませぬ。…この下劣な男を殺すのならば、わざわざユンファが手を汚す必要などない…――もうすでにその罪を犯しきった我こそが、このジャスルを切り捨てましょうぞ……」
「そんな、…っ僕も共に、…」――そう言い募るユンファ様に、俺はジャスルを見下ろしたまま何も言わずに首を横に振った。するとジャスルは、
「……そ、ソンジュ…、お前、いや、お前…なあソンジュう…なあ……」
狼狽しているジャスルは、しどもどと冷や汗をかきながらそうぶつぶつと言ってから、媚びるような笑みをにんまりと浮かべた。
「……ソンジュよ…、まさか主人のワシを殺すなど、そんな狼藉をお前が働くはずもないよなぁ…? 悪い冗談じゃ…、ほれ、刀を下ろさんか、早く、なあ……」
「……主人…? ふっ…ククク――笑えますぞ、侵略者ジャスル・ヌン・モンスよ……」
失笑が腹の底からどろどろともれて、たまらぬ。
…俺はずいと、鈍く光る刀の先を更にジャスルへと突き付けた。
「…狼藉者は一体どちらだ…。これまでさんざ馬鹿にしてくれたものよなジャスル…犬だ、なんだ…俺たちのことを、牙も爪もない従順な蝶と犬だとでも思っていたのか? 護衛の一人もつけず、まさかのこのこと丸腰の単身で此処へ来るとは…――滅法馬鹿よ、思い上がりも甚だしい。」
「…………」
つーと、絶望したジャスルのこめかみから冷や汗がつたい、二重あごからしたたり落ちる。
「……狼の俺に、力で敵うとでも…? 本気を出せば俺は、いつでも貴様のことを殺すことはできた…、それも、赤子の手をひねるようなものだ。――これまでは耐えてきたが、…っしかし…俺は片時も忘れはしなかったぞ、ジャスル…っ!」
俺は、刀の柄を握る手が興奮に汗ばんで、ぐっとそれを握り締め直す。――ジャスルは顔を青ざめさせ、もはや威勢も何もなく、――俺は、ひゅんっと振った。
「…ぐうっ!」
刀を振った――その男の首元を、掻っ切ってやった。
「…何が英雄だ、何がノージェスの救世主か、貴様は下劣で卑怯な侵略者だ。…あれほど残忍な侵略行為をしておいて、多くの者を踏み躙り、傷付け、惨くも殺しておいて、…のうのうと貴様ばかりヘラヘラ幸福に生き、…狼の里、五蝶の国、…っ貴様が我が故郷を侵略し、女子どもに至るまで惨殺したこと、俺はそのときいだいた貴様への憎しみ、片時も忘れられはしなかった!!」
「……っ! ……~~っ!!」
何か言いたげである。
今俺に掻っ切られた喉を押さえ、それでも俺たちのことを睨み付けてくるその醜く淀んだ目――しかし、ひゅーひゅーと空気がもれる音ばかりで、もはや喉を切られては無駄口をきくこともできぬらしい。
「いい様だな、ジャスル…っ! もう謝罪も何もいらぬ、ただ後悔しながら苦しんで死ね…――っ!」
俺は両手で柄を掴み、渾身の力を込めて――ジャスルの胸に、刀を突き立てた。
祝いの花火が、今もまた、一つ上がる。
――全く、善い人生であった。
ばらばらと、散る。
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