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156 主人を失った籠
しおりを挟む「…………」
「…………」
――ジャスルは息絶えた。
…先ほど、ジャスルの胸に刀を突き立てた際――そのときユンファ様は、刀の柄を掴む俺の両手を包み込むよう、両手で押さえた。――「ソンジュ、共に」と。
そして共に、グサリと刀を押し――ジャスルの身に、その刀を貫通させた。
ジャスルの亡き骸がこの部屋の床に転がり、鮮血がじわりと俺たちの足下を染めている。――この暗い部屋には今もなお。ドォォンと上がり、バラバラと散る花火の音ばかりが響いていた。
俺は寝台の上でぐっちゃりとしていた掛け布団で刀の血を拭い、それから鞘にそれを納める。――キン、と鳴った甲高い音を聞くなり、俺は、呆然と亡き骸を見下ろし立ち竦んでいるユンファ様へと、振り返った。
「……ユンファ…――花火を、見にゆきませぬか」
まだ花火は打ち上がり続けている。…おそらくはいつも通り、朝が来るまで花火は上がるのだろう。
「……、花火を…?」
とろり…潤むがなぜか、とても妖艶な瞳で俺を見やったユンファ様に、俺は頷いてみせた。…もう曼珠沙華の髪飾りは散り、その人の黒髪は自然のままである。――すると今度は彼、ふんわりと顔を綻ばせて…うん、と頷く。
そして自分の下腹部を撫でて、しみじみと言うのだ。
「…どうせもう、此処には居られないからね…。それにきっと、もうソンジュの子は、ここに居ることだろう…――行こうか、ソンジュ……」
「…ええ。ようやっと、この籠から出られますね、俺たち。」
俺の隣でユンファ様は、うんと微笑んで頷いた。
俺は彼の額に口付け――いやに感慨深いと、この部屋をひと通り眺めた。
天蓋付きの寝台――太った洋服ダンス――寝台横の机に、椅子と筆記机――化粧台、壁際の長椅子。
大きな両開きの窓――月のよく見えた、バルコニー。
ごてごてと趣味の悪い、洋式の部屋。
――少しだって名残惜しくなどない。
やっと、この籠から出られるのだ。
やっとユンファ様は、俺の手を取ってくださるのだ。
やっと俺たちは、この現実が作り出した部屋から逃げ出すことができる――。
「――では、身支度を。」
「うん。ソンジュ」
主人を失ったこの籠は、そのうち朽ち果てるのかもしれぬ。――それがこの世の、諸行無常の理というものだ。
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