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157 花婿を連れて籠から飛び立つ
しおりを挟む俺とユンファ様は、結局漢服とその白に赤が差した婚礼の衣装のまま、その上から寒くないように外套ばかりを着込み――その上で俺は、ユンファ様からの首巻きを巻き、一応ユンファ様にはそのお顔を隠させるため、あの洋服ダンスの中にあった、あの“婚礼の儀”のときと同じ白く透ける布を頭から被ってもらい――俺たちは指を絡めて手を繋ぎあうと、…あの部屋の外へと、踏み出した。
あの部屋にあった多少の食料――果物――と、俺がこれまでにユンファ様へ贈った思い出のものたち、乾いた小花も木の実も“小さな海”も全て全て、あとは代えの着物やらだけ――とにかく麻袋に詰め込めるだけ詰め込んで、俺たちはやっと逃げ出せたのだ。
ちなみにユンファ様は、もう会えぬからとあの小鳥のつがいのため、多少の果物を砕いてバルコニーに残してきた。
いや、案外ちょうどよかったのやもしれぬ。
…ジャスルが着のみ着のままあの部屋に訪れ、そして外側からかけられた鍵を開けてくれたおかげで、俺たちは静かにあの部屋から逃げ出すことが叶った。――念のため、亡き骸の発見が遅れるようにと俺は、再度外側から南京錠をかけ直しておいたが。
「……なんだかドキドキしてしまうよ…」
「…ふふ…、大丈夫、俺がついております」
ユンファ様はなかば高揚し、好奇心めいた笑みを浮かべていたが、もうなかばは少し怖がっているような顔をしており、繋いだその手も冷えきり、震えていた。――ただこの屋敷の廊下には俺の予想通り、召使いの一人もいなかった。
この屋敷に残っているのはせいぜいが下女、下男と、正門の門番。それもみな、怠け者どもばかりだ。――門番はともかく、屋敷に残された下女下男たちはおそらく今ごろ、主人がいないのをよいことに、酒でも飲み交わしながら、広い調理場を宴会場にしてのびのび羽を伸ばしていることだろう。
ましてや、何度も勝ち戦を経験しているからこそ俺にはわかるが――ジャスルの側室、主要の側近どもはみな、その祝宴に着いて行ったに違いない。…今せいぜいその者たちは、あのジャスルの帰りがやけに遅いな、と心配している程度だろうが、――それもユンファ様を抱こうという気でのこのこやって来たジャスルなら、まあ少しゆっくりしてくる、くらいのことは託けて来たに違いないのだ。
静まり返ったこの屋敷の廊下――手を繋ぎ、俺の隣を歩くユンファ様。…白く透ける布を頭からかぶり、その白に紅帯の楚々とした着物を着ている彼は、…さながら。
「…まるで、今から俺のもとへと嫁ぐようでございますね、ユンファ…」
「…え…? ふふ、…そうだよ、その通りだろう。」
白い布越しに俺へ微笑みかけてくるユンファ様――しかしこれでは歩きにくいだろうと、俺は結局その人を横抱きにして、…攫った。
いや。――俺は、多少警戒はしつつも堂々と、ユンファ様と共にこの屋敷を。
俺たちは、この屋敷の裏口から――俺たちを囚えていたこのジャスル邸を、抜け出した。
そして俺は、ユンファ様を屋敷の裏口――馬小屋へ連れてきた。
ユンファ様の腰を支え、彼を俺の馬に跨らせる。
「……妙な気分…、ふふふ…いいや。――今僕は、本当に最高の気分だ。」
「…ええ、ユンファ。――俺も全く、最高の気分です。」
俺は馬を引き――馬小屋の外に連れ出した、ユンファ様の乗る愛馬に、ある程度のところで乗り上がる。
落ちぬよう彼を前に、俺が後ろに――俺は馬の手綱を引き、…馬を走らせた。
「…さあ、参りましょう。」
「……うん、ソンジュ。…」
「……はっ…!」
ひらひらと――ユンファ様が頭からかぶる白い布が、はためいている。
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