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愛する瞳
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しおりを挟む「……、…、…」
「…ユンファさん…、震えていますよ…、大丈夫…?」
「…大丈夫です…大丈夫…、大丈夫…、大丈夫…」
抱き締めながら頭を撫でてくださる…ソンジュさんは、僕に恋をしてくださっているような素振りや、こうした優しさをいつもくださる。――でも、それは本物ではない。…彼は僕のことを綺麗だとか、美しいだとか言うが、それもせいぜいは僕の容姿が、ソンジュさんの好み寄りというだけだろう。――彼が僕なんかに、本当の意味で恋をしてくださっているわけがない。
いくら見た目が好みであるからとしても、出会ったばかりの性奴隷の僕を、ソンジュさんが愛する理由なんかどこにもない。
僕のことを以前からよく知っているようだが、おおかた彼は、会員制ハプニングバー『AWAit』のホームページでも見たんだろう。――ソンジュさんは、専属性奴隷月の僕を見て、あぁ作品にピッタリな性奴隷を見つけた、“恋人契約”は彼にオファーしよう、なんてふうに決めただけなのだと思われる。
『AWAit』のホームページには、僕の淫らな姿が参考写真としてギャラリーに展示されている。――一応黒い目線は入っているが、それも細いものだ。…ただ、とはいっても『AWAit』のホームページの一文に、『同店舗にて午前十時から午後六時まで営業しておりますカフェKAWA'sにも、専属性奴隷月の“スペシャルメニュー”をご用意しております。メニュー表はメニューブックの背表紙裏に隠しておりますので、店内では探してご覧ください。』とある。
それの下には“スペシャルメニュー”のメニュー表がそのまま掲載されている…つまり、あのメニュー表に載っている僕の調教されているみっともない姿が載っており、それには黒い目線も何も入っていないのだ。
それで…カナイさんとして、僕を抱いて――。
「……、…、…」
本当に……?
「……、…」
愛している、と言ってきたときの、ソンジュさんのあの真剣な目――信じないと、僕に拒まれたときに腕を引っ掻き、自分を責めていた姿……本当に…?
本当に…――嘘か?
本当に……――僕を愛して……、
「……、…、…」
怖い。――怖い怖い怖い怖い怖い。
信じるのが怖い。――信じたくなる自分に嫌気が差す。
そこまで貪欲にはなれない。そんな気力もない。
そもそも無理だ。引く手あまたというようなソンジュさんが、僕のことを本気で好きになってくださるわけがない。――おこがましいことだ、ありえないことだ、ありえない、奇跡よりも起こりえないことだ。
「……、……」
僕はソンジュさんの優しい腕の中、ふっと下を見下ろす。――確かめたのだ――はだけたワイシャツから覗く、僕の下腹部に浮かんだ赤と黒の、卵巣と卵管、子宮を模したハートマークのタトゥー。淫紋。…メス奴隷の証。
「………、…」
性奴隷なのだ、と――僕は、男でいることすら許されない存在なのだと…僕はこのタトゥーを見ると、いつも自覚する。
もう両親の元へ帰ろうとは思えない。――こんな体になって、帰れるはずもない。
「…………」
もう決めているのだ。――もう彼らには会わず、無事に契約期間が終わったら、…一人で生きてゆこうと。
幸いというべきか、僕は流れ的にでもオメガ風俗店の勤務実績がある。――多くのオメガ同様に僕も、今の延長線上で他の店…これからはオメガ風俗店に務めて、一人で生きていこうと決めているのだ。
「………――。」
――僕は一人で生きてゆく。
もちろんケグリ氏とも、ズテジ氏、モウラとも結婚はしない。飽きられ、諦められるまで粘り強く耐える。――ソンジュさんの子供だって、いくら命令だとしても、僕は産まない。…妊娠なんかしない。誰の子供も僕は、妊娠しない。
耐えるだけだ。信じられる未来は僕にはない。幸せになれる未来なんかきっとないのだ。…でも耐えるだけだ。…耐えるだけ…あともう少しの辛抱だ――と。
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